374・伯爵家に来た商業派閥の面々
前回のあらすじ
ルディアに脅され街に残る事となったアネットとその一行。その野望に付き合わされる事となったアネット達は再びブランディーゴファミリーに矛先が向く事となった。
ルディアは「救う」と言いユシュタファは「そんなヤツじゃない」と言ったブランディーゴファミリーのボスことベネデット・ブランディーゴは、行動が早いか商業派閥の人達を引き連れて翌日にはこの伯爵邸へとやって来た。
ちょうど僕達が朝食をいただいてた時の来訪となったものだから、皆デザートを残して空き部屋に閉じ込められる事になったのだけど「ここに辿り着く痕跡を残してしまったのか?」と一抹の不安は、こうして隠れてる最中も拭えない。
また会話を盗み聞く訳にもいかないし、厄が去るのをただ待つだけと言うのも心臓の鼓動を急かしてくる。周囲に味方がいないと言うアウェー感もまた火に薪をくべる要因となった。
「まさか私達がいる事バレたんじゃないわよね」
「どうかな この街でアーキア人に自由はない 自由になるには外に出るしかない って事は門を管理してるこの家に来るのは必然じゃないか?」
「ま 何にせよ 捕まって売られないのを祈るしかないな」
「ハハハ」
〔あの子の場合 本当にありそうだから笑えないわ〕
「対応するのはルディアだけじゃないみたいだから 僕達の事知ってる彼女のお父さんの口から漏れるかもしれないね・・・」
「そんときゃ家の中で黒靄撒いてとっとと退散だな」
そうは言っても僕は逃げる訳にもいかないので、来る運命を受け入れるしかない。はてさて僕達の命運を握るルディアはいったいこの困難にどう対処するのか、彼女の性格と思惑と知性に委ねるしかない。
すこぶる不安だ・・・
★
「──────と言う訳でして どうやらこの混乱に乗じて幾人かが街から抜け出したようなのですよ」
ふ~ん。対面で座るこの4人は身だしなみから貴族と言ったところかしら。で・・・その隣でドンと構えるのがベネデット・ブランディーゴ。聞いた通りの風貌ね。
眼光は貴族の醸すそれじゃない。如何にも成り上がりといった感じでドスの効いた服装は、ならず者でありながらどこかフォーマルな佇まいが他とは一線を画してる。
組織の纏め役って事だけど、彼等も彼等で見た目がものを言う世界なのかしら。
「まさか そんな筈はない 我々は日夜門の管理に手は抜かない 何かの間違いではないのかね」
一方の父は貴族然とした様式で整えられている。爵位に誇りを持ってはいるけれどあまり外交向きとは言えないわね。
なまじプライドが高いせいか感情が表に出やすい嫌いがある。足元を絡め取られないか心配だわ。
「ルンドレン伯爵家の公務と向き合う姿勢は私達も規範とするところ しかし我々と懇意にしている衛兵の話では確かに見たと こう言うのです」
「そのような者の言など信用に足るものではないだろう」
懇意の衛兵ね・・・ こんな街だしスパイが紛れ込んでても不思議じゃないわ。むしろどの組織体でも常態化してると言っていい。でもそんな事は父だって承知している。
だから話をはぐらかすしか回避方法がないのだし、つまりこの対談の本質は本当か嘘かの話し合いなんかじゃない。
如何に自分の要求を突き付けるかの言葉の応酬、交渉でしかないのよね。
「それはルンドレン家の秘術をお使いになれば 即座に判明する事なのではないですかな?」
「確かにそうだが それを行う前に当家として調査をしてからでも遅くはない どの道許可の無い者が好きに通れる門ではないのだからな」
スキルに関してアネットには「特別に」と言ったけど、門を預かる上で完全に秘密と言う訳でもない。むしろ特定層に周知する事で得る信頼もある。
でもそこを突付かれると逃げられない側面もあるのよね。もし本当に逃亡者がいると分かったら・・・今回は確実にいるのだけど、痛手を負うのは私達。
本当かどうかは兎も角、父としては万が一を避ける為スキルの使用を渋るでしょう。
「そうですね そうあってほしいものです もし宜しければ我々からも監視に長けた者をお貸ししましょうか? 間違いは無いにこした事はありませんからね」
「それには及ばんよデルマリス卿」
デルマリス・・・確か闘技場を仕切ってる伯爵家ね。残りも商業派閥の重鎮達でしょう。雁首揃えてやって来ると言う事は「事件を解決したい」なんて殊勝な心掛けでないのは確かだわ。
おおかた失態にかこつけて私達の利権に食い込むか・・・そんなところかしら。
「そう言えば ルンドレン卿はナイームなる人物をご存知ですかな?」
「ナイーム 確かセルマレイ公爵に不敬を働いたとかで追われている人物かな」
「実は先日の混乱に乗じて逃げ出したのではと 噂がたっていましてね? 今やその者の名はスプリントノーゼ中に知れ渡っておりますので・・・
もし外に逃げられたとあっては公爵家の威光に傷が付くのではと・・・ もちろんルンドレン卿の預かる門です そのような間違いがある筈もない ですよね?」
「・・・当然だ」
父は頭の上がらない公爵家を出されたら途端に及び腰になるのよね。過去に何があったか知らないけど、そろそろ雲行きも怪しくなってくるかしら。
まず間違いなくスキルを使うところまで話を持ってかれるでしょうね。問題は父はまだ真相を知らないと言う点。ここは何としても回避しないと、こいつ等に喉元まで食い付かれてしまうわ。
でも相手が食って掛かるなら、逆に食い殺すくらいの意気込みで交渉しないと同格とは言えないわね。
いいわ・・・やってやるわよ。
「ナイームなる人物は街にとっての罪人 街の外であれ中であれ 賞金首を見付けたからといって譲る理由にはなりませんわよね? 何せ賞金首なのですから」
「ええ 全くその通りですルディア嬢 しかし此方の事情も少しは汲んでいただかないと釣り合わない ですよね? ベネデット」
「昨日うちのシマに襲撃がありましてね そいつがまた奇抜な特長を振り回してくれた だがお陰でそいつの正体が分かったんですよ
ハルメリーの冒険者アネット 信じられねぇようだが そいつは盲目のマイナス等級でありながら一端にスキルを使いやがった
そう言やぁルディア様もハルメリーに進出なさったとか これは偶然なんですかねぇ」
私に対してこの態度・・・平民のくせに不敬ね。平民だから礼儀も知らないのは仕方ないとして、この人を威圧する口調、敵意剥き出しの目付き、粗暴な言葉遣い。
どれをとっても不快だわ。
「・・・盲目の? まさか────」
「何を想像してるか知らないけど 憶測でものを言ってもらっては困るわ それにマイナス等級で冒険者? むしろそっちの方が眉唾よ」
「・・・昨日の現象 昼が夜になった 実はあれと同じ現象がハルメリーでも確認されている そして俺のアジトに乗り込んできたそいつも規模は小さいが同じ現象を引き起こした
犯人は間違いなくヤツだ そしてヤツはアジトからナイームを連れ去った 向こうも向こうで事情はあるんだろうが 奴の身柄は今ハルメリーに向かっている」
アネットアネットアネット・・・ 有名になるのも考えものね。
「貴方の言う事が本当かどうかなんて些末な問題だわ て言うか不覚をとる方が間抜けなのではなくて?」
「まぁまぁ そう仰らずに ただ・・・街に甚大な被害が出たのは事実でしてね? 私の仕切る闘技場でもパニックで怪我人が続出した それが街全体の規模ともなれば・・・
もしその様な大罪人を取り逃がしたとあっては その責はルンドレン家にも飛び火するのではないですかね」
「そっ それは! ・・・困る」
「ならばナイームの身柄で手を打ちませんこと? その者がハルメリーにと言うのなら 裏で手を回す事もできましてよ?」
「必要ねぇ 俺達に塗られた泥は俺達の手で拭う」
この不敬なベネデットと貴族とでは目的に微妙な齟齬がありそうね。綻びはそこかしら・・・
「そうは言っても・・・ 街が認知しているのはアーキア人達の暴走でしょう? そのアーキア人を管理していたのは誰かしら むしろトラブルに巻き込まれたのは私達も同じなのだけど?
責任と言うなら 当家も謂れのない中傷を浴びて名誉を傷付けられたし あなた達の指摘する脱走者が見付からなかった場合 それこそ責任の所在は何処にいくのかしらね」
「なる程なる程 確かに昨日のあの様子では もしかするとナイームもトラブルに巻き込まれて絶命していても不思議じゃない 全ては偶然・・・
しかしそうなると此方も損害の穴埋めを別の方法で考えなくてはなりませんね ・・・そうだ 面白い事を思い付きました 例の冒険者アネット 是非我々の行う興業に出ていただこうではありませんか
盲目の冒険者が衆目の前でどんな戦いを繰り広げるのか たまには違う趣向も取り入れていきませんと 飽きられてしまいますからねぇ 損害の補填にもなって此方の溜飲も下がる
そのアネットなる人物が 御当家と繋がりが無いのなら・・・ 構いませんよね?」
「アネットが誰かは存じませんが ルンドレン家に迷惑が掛からない範疇でならご髄意に」
話に任せていたらおかしな方向に流れていったわね。まぁ元はと言えば勝手をやって街にトラブルを持ち込んだのは彼等なのだし、相応の責任は負って当然よね。
アネットも大変な事になっちゃったけど、もし彼が本当に特別ならこれくらいはね除ける筈なのよ。
むしろそんな特別を引き連れてこそ私の株も上がると言うものだわ・・・フフ。
ウフフフフ・・・




