33・廃墟の子供
前回のあらすじ
カストラ商会からの依頼を受けることにした。
『アネット~ 何かいる~』
静寂が支配する広くて狭い廃墟群の只中を“盲目さん”の声が木霊する。“盲目さん”の言う通り無音な世界に耳を傾けると、何もいないと言われた世界で複数の気配を察知した。
人なのか、それともこれが幽霊なる存在なのか。そこに居てでも居ないような、この閉所がそれを曖昧にする。
そんな中を「ジャラリ」と鎖にも似た音が、微かにそして段々とその所在を明らかにしていった。案内役の人にもそろそろ聞こえるんじゃないかな。
これが幽霊の正体かは兎も角、不気味な場所で不気味な現象にだけは会いたくはない。それは案内役の人も同じなようで、鎖の音に負けず劣らず彼の心音も自己主張を止めなかった。
「ひぅ!」
幽霊・・・それは魂の形。死してなお未練を残しこの世をさ迷う人の意思・・・
だったら幽霊に色があるのも納得できる。僕達の目の前まで来た鎖の音にはしっかりとした人の意思、色が付けられていた。
でもそれは普通の色とは違う。色んな色が混ざり合って黒く伽藍堂にも似た闇になってさ迷っている。これが幽霊・・・なのか。
もっとも幽霊に足が付いてるとまでは聞いた事がなかったんだけど・・・
「あなたが 幽霊さんですか?」
色があるなら意思がある。後は話ができるかできないかの違いだけだ。
「幽霊? 私がー? ん~・・・似たようなものかな~ ご飯くれてた人はいなくなっちゃうし 帰る場所も無いし」
子供? 足音の感じから随分と小柄だとは思っていたけど、実際に声を聞いてみると驚いてしまう。そして何よりこの色だ。
とても子供がしていい色じゃない。この子の隣に浮かぶ小さな感情スキルさんもだ。むしろ「本当に人間?」と疑ってしまう程には異様な事になっている。
「君は・・・ここで何をやっているの? 建物も古くなっているから 崩れると危ないよ?」
「人を探しているの ねぇ プルトンさん知らない? プルトンさんの言う事は聞かなきゃいけないんだ よく頑張ればご褒美が貰えるの」
「ごめんね 僕はそのプルトンって言う人の事は分からないかな そのプルトンさんが見つかれば良いの? 知り合いに聞いてみる事はできるけど・・・ その人この町の人?」
「違うよ? でもこの町にいるんだって ガウが言ってた」
「そうなんだ 見つかると良いね」
「うん!」
理解できない。
こんなグチャグチャな感情させながら、どうして無邪気な声色を出す事ができるのだろう。色が混ざり過ぎていて心が読めないなんて初めてだ。
話の内用から孤児なのかもしれないけどだからって・・・
でもそんな異質な存在が呼び水になったのか、次々と潜んでいた気配がその正体を表し始めた。
「出~て~い~け~~~・・・・」
「呪ってやる~~~・・・・」
「ひぃぃぃ~~~~!!」
案内役の男性は今にも逃げ出しそうな程驚くけど、その様子を見て壁の向こうからは「クスクス」と小さく笑う声と、目の前に現れた幽霊も怨嗟の声とは裏腹にどこか楽しそうにしている。
「あの あなた方は死んでいる方達なんですか?」
「死~ん~で~る~~~・・・・」
どうやら死んでるらしい・・・どうしようこれ・・・
まぁ僕は冒険者で神父ではないので冒険者なりのやり方で解決しようと思う。
ポカッ・・・
「いだっ! おのっ・・・・! お~の~れ~~~~・・・・」
「あの 生きてる方々ですよね? 何をやってるんですか こんな真っ昼間から・・・」
「うぐ・・・ ちっ ばれちまったらしょうがねぇ」
どうやら観念したらしい。幽霊改め年配の男性は周囲に合図を送ると、廃墟の影から仲間と思われる人達がぞろぞろと出始めた。
「ふぅやれやれ」「肩こったのぉ」と皆一様にその声はしゃがれてる。後は彼等のお手伝いらしき小さな子供達と大人はほぼ全員が老齢であるようだった。
「一応理由をお聞かせ願えますか? 僕は今回冒険者の仕事として此方に伺いました」
「ふん! 知れた事よ! そこにいる町長の回し者の邪魔をする為に決まっとろうが!」
「何故邪魔を・・・・」
「町長は嘘つきだっ! ここら一帯を建て替えると言い商人とグルになって 儂らを追い出す魂胆だ!」
「その話は・・・ 僕もこの旧市街に住んでいる者です ですのでこの仕事を引き受ける際 同じ事を聞きました
商会側によると 建て直しはするけれど今住んでいる住民を追い出す真似はしないと ハッキリ僕に言いました」
「バカモン! そんな舌先三寸を真に受けたのか! 口だけなら何とでも言えるわい!」
「分かりました 皆さんの意見は僕が責任をもって依頼主に報告させていただきますので 今日のところは矛を納めていただけませんか?」
「いくらこっちの意見をぶつけても 結局向こうの都合で決まるんだ! 昔からそうだ! 優先されるのは冒険者で儂らはいつも二の次じゃないか!
約束も 決め事も 裏切られてばかりだ! もう何も信じられん! 儂等の事は儂等で片付ける!」
ここまで意固地になるからには町と色々あったのだろう。でも何の権限もない僕に当たられても状況は変わらない。なので依頼主ことバードラットさんにこの旨伝える事を約束してこの場はお開き。僕達も無事帰路につく事ができた。
それにしても望郷の念か。
長年暮らしてきた故郷を慈しむ気持ちと、町の人間を疑う気持ちとがせめぎ合って、自分でもどうしてよいのか分からなくない。それが彼等を駆り立てる理由になっているのかもしれない。
なんて事に気を取られてると最初に出会った複雑怪奇な心を宿した子供は、いつの間にかその姿を消していたのに気が付いた。
「・・・・・・と言う事があったんです」
僕はバードラットさんの元に戻ると、廃墟群であった出来事を違えず彼に報告した。
問題を解決する為に向かった先で、新たな問題を抱えて戻ってきた事になったけど、同じ旧市街の住人として是非とも穏便に事を済ませていただきたい。
「なるほど 彼等の意見はもっともですね」
「何か・・・町の人達との約束を反故にした事でもあるんですか?」
「あるか無いかで言うなら あります 特に古い方々とはね・・・ アネット殿も旧市街の住人なら知っておいた方が良いでしょう
問題の根幹はダンジョンにあるのです
この町の歴史は実に古く ここの住人は幾度の戦争が町を傷付けても 連綿と続く祖先の血を絶やさず受け継いできた人達です 当然 彼等も誇りに思っている事でしょう
ですが・・・そこに突如ダンジョンが出現しました 伝説の探窟家コドリンの発見が ハルメリーの岐路になったのです
コドリン洞穴の歴史は浅い 発見されてまだ50年も経ってないでしょうか 知っての通りダンジョンは資源です 町の様相もそれに順応したものへと変えていかなければなりません
つまりは 冒険者の優遇
棲家も店も まずは冒険者が優先となり 様々な掟 約束が取り交わされていたにもかかわらず ここの住人達の諸々は後回しになってしまったのです
これは言い訳にしか聞こえないでしょうが 宝に群がる者達を諌める為には優先順位が必要だった その結果が確執を生んでしまったのですが・・・」
う~ん・・・当事者としては理解はできても納得はできない。そんな感じなんだろうか。僕が気を揉んだところで何がどう変わる訳ではないけれど、双方話し合って和解してもらいたいところではある。
「もっとも今は昔とは違いこの町も比較的安定しています 彼等との会談は 今一度前向きにさせていただきますよ」
「そうですか 良かった・・・」
「それともう1人の子供の件ですが その子はプルトンを探していると言ったのですね?」
「はい 間違いなく」
「ふむ・・・そう言えば 例の商人の名をまだ教えていませんでしたね」
「・・・まさか」
「はい そのまさかです それと鎖の音がしたと言いましたか 恐らくその子供は『奴隷』だったのではないでしょうか 彼の商品の中には奴隷もありましたからね」
「奴隷ですか? あんな小さな子が?」
「言葉を濁さず言うと両親が事故で他界したか 何らかの理由で売られたか 或いは奴隷から産まれた望まぬ子か ・・・奴隷紋が確認できれば早いのですがね」
「奴隷紋・・・?」
「奴隷商に売られると そこで奴隷さんのスキルによって奴隷紋が刻まれます 奴隷紋にはそれぞれ種類があり 軽いものだと行動範囲を限定されたり 酷なものだと その身は主の意のままにされる事も」
「それじゃまるで道具じゃないですか」
「道具・・・そうですね 買われる とはそう言う事かもしれません」
「・・・何とかならないんですか? それ」
「残念ながら奴隷さんはスキルさんです その性質上どうにもなりません そして契約する者と奴隷を欲しがる者 双方に利害がある以上根絶も難しいでしょう その証拠に人に害があってもマイナス等級と呼ばれない」
「どこまでも人の都合 なんですね・・・」
需要・・・あんな小さな子に何の需要があると言うのだろう。他人を貶める犯罪を繰り返してきた人間の事だ。僕達の想像しえない行いをしていたのかもしれない。
でなければあの歳であんなグチャグチャな心になる筈がない。
彼は罪に問われたと言う。
それで彼は変わったのだろうか。子供まで巻き込む業の深い人間の何をもって反省とするのだろう。
罪に問われた事により彼は何から許されたのか。
自分の行いが誰かの心に刻まれた以上、それから目を背ける事はできない。ならば安全な場所に引き篭もっている今の彼の心境は一体如何なるものなのか。
僕はプルトンと言う人物に対し相応の興味をひかれる事となった。




