32・商人からの依頼
前回のあらすじ
ミストリアがソフィリアと留守番をしていると、そこに公爵家に支える執事長のルドマンがやって来た。会話をする内心境に変化があったのかアネットが変えるとミストリアは頭上に水でできた文字を浮かせていた。
僕達がバードラットさんの元に行っている間に、ミストリアは魔法を使う事が出来るようになったらしい。
でも以前の様に水を自在に操る事はまだできないそうで、何故か自分の意思から離れて駄々漏れている状態なのだそう。
何が駄々漏れているのか分からないけど、マルティナの話によると「このまま人前に出たら取り返しのつかない事になる」とだけ言われた。
なのでミストリアはきちんと力を制御する為にも暫くは家にいるそうだ。
それでも念願の魔法が使えるようになったのは大きい。それ以来ミストリアの感情の起伏は出会った頃とは比べ物にならない程揺れ幅が大きい。
特に僕が近付くとそれは極端な色の変化となって表れた。カラフルで見ている分には面白いのだけど、あまりの激しさにちょっと心配になってくる。
まぁ折角使えるようになったスキルだ。自在に使いこなせなくて困るのは本人。ここはじっくり時間をかけて問題の解決に取り組んでほしいものだ。
と言う事で今日は久しぶりに1人で依頼を受ける事にした・・・訳なのだけど、ギルドに着くなりポリアンナさんは「ちょっと来て!」と僕の腕を掴んで半ば強引にカウンターの奥へと引っ張っていく。
「ちょっと! これどういう事!?」
語気を強めた口調で目の前で紙をピラピラ振っているのだけど、残念ながら僕の目に書かれた内容までは写らない。
「今朝早くカストラ商会からの依頼書が 直接私に手渡されたわっ! 何? この旧市街の調査って」
「あぁ早速・・ そ・・・それはですね 止むに止まれぬ事情がありまして・・・」
「はぁ~ 私もギルド職員だから そう言う裏の事情も知ってるけど・・・ 商会と懇意にするのは利点ばかりじゃないのよ?」
「そうなんですか? 商会が後ろ盾になる事で ある程度の面倒事から距離をおけるって・・・」
「いい? 商会との関係は誰もが持ちたがるものなの 気に入られれば何かと優遇されるからね
その冒険者が誰の目から見ても非の打ち所の無い実力者なら 何処からも文句は出ないわ
でも 冒険者になりたてのランクも低い無名の新人が この町の大店カストラ商会から目を掛けられてます なんて知れ渡ったらどうなると思う?
何でアネット君だけが! って怪訝な目で見られたり 嫉妬から絡まれたり 恨まれて刺される・・・・何て事も無くはないのよ!?」
「まっ まさかそこまでは・・・」
「それだけじゃないわ この町の商会はカストラ1つじゃないし ライバルを蹴落とすため水面下では小競り合いもあったりするんだから
他の商会の回し者に狙われる可能性だってあるのよ? ねぇ 今後商会と仲良くするのが自分の身にとって損か得か よく考えてみて」
彼女なりの気遣いなんだろうけど、そう言われると自分がした契約が果たして身の丈に合ったものなのかと改めて考えさせられてしまう。
いや分かってるんですよ? そんな事は自分がよく・・・ でも僕が欲しいのは今後入るかもしれない情報なので懇意にするとかでは・・・
まぁ僕の事情なんて人様には関係無い訳で・・・
「ありがとうポリアンナさん でも・・僕は彼の依頼を受ける事にするよ 僕がバードラットさんの依頼を受けるのは とある情報の為なんだ
それに商会からの依頼が僕に釣り合っているかは ポリアンナさんが精査してくれるでしょ?
確かに周囲との関係もあるけれど それだって冒険者になった時から覚悟しているし やらせてほしいんだ」
「・・・はぁ 分かったわ アネット君も もう冒険者だものね でもいい? 何かトラブルに巻き込まれたら すぐに私に報告するのよっ!」
「うん 分かった ありがとうポリアンナさん 大好きっ」
「ふにゃぁ~」
僕はポリアンナさんに手を握ってお礼を言うとカストラ商会からの依頼書を受け取って指定されたお店に向かった。
「ようこそお出でくださいました 正式に依頼を受けてくださると言う事で 此方もひとまず安心しました それで今回の仕事の内容ですが・・・」
「あの その前に 貴方が今知り得ている情報をお聞かせ願えませんか?」
「そうですね そう言うお約束ですし お教えするのは当然なのですが・・・仮に事の顛末を知ったとしても 今のアネット殿ではどうする事もできませんよ?
それに下手に動けば 貴方や貴方の大切な人達にも危害が及ぶかもしれないと 先に申しおきます」
「・・・はい お願いします」
「そうですね まずは何処から話せば良いか・・・ 例の捕らえられた商人の背後には貴族がいます と言うかその商人自身も元々は貴族でした
彼は事件発覚後に有罪を言い渡されて今も牢に幽閉されている・・・という事になっています 表向きは
実際はその貴族の別宅に閉じ籠り 悠々自適な生活を送りながら 部下に指示を出しながら自分の店を切り盛りしている状態です」
「それはマルティナには聞かせられませんね」
「彼の動機に関しては 隣の領地の事情と密接に関係している点がございます」
「どうしてそこで領地の話が出るのでしょう」
「それは例の商人が 実は別の領地の人間だからです」
「それがわざわざコルティネリ領に来てあのような犯罪を?」
「う~む 何処から話せば良いか・・・ まず領地の境界線はダンジョンを均等に分けるように引かれている訳ではありません
すると収益にバラつきが生じる
なのでダンジョンが少ない領地の貴族は 複数所有する貴族と契約をして自分の私兵をダンジョンに潜らせているのです
ちなみにハルメリーにもコルティネリ家と契約をした貴族が貴族街を作っていますよ?
で 中には特殊な統治を行っている貴族がいまして それが隣の領地 セルマレイ公爵領なのです
あそこもまたダンジョンの数が極端に少ない所なのですが 山間部を貫く街道は王都への交通の要衝となっており セルマレイ公爵はそこにスプリントノーゼと言う街を築いたのです
ですが そこがまたかなり問題のある街でしてね 彼の御人は商業と言う力でハルメリー同様貴族を集めました
欲望の街スプリントノーゼ そこでは如何なる行為も許される 正に犯罪者の巣窟 例の商人はそこに席を置いた貴族家の一員でした
とは言え表立った貴族の争いは公爵家と言えど 流石に看過はできません そこで商人が彼等の矛となって角を付き合わせる
重要なのは貴族と商人の繋がりが 何処よりも密接であると言う事 貴方の身を案じているのはそれが理由です
例の商人はスプリントノーゼでポカをやらかしまして その罪を受け爵位は剥奪 このハルメリーに転がり込んできたと聞いています」
「なるほど・・・ 確かに一介の冒険者がどうこうできる案件ではなさそうですね それにしても 道を踏み外すと一瞬で転がり落ちるお話ですね」
「今私どもが有している情報は以上です ここから先は憶測として語る事はできますが それは情報とは言えませんので・・・」
「そう・・・ですね いえ お話しいただいて有難うございました」
困った・・・
ラトリアの一助になればと思っていたけれど、いくらなんでも相手が大きすぎる。とてもじゃないけど今の段階では彼女に話せない。
剣ないし盗賊の情報が入ってくるまで待つのが得策だろう。そうなるとこの案件の解決がいつになるかが問題となってくる。
それにしても・・・
こうして世間を知れば知る程この社会は誰かの都合で形作られているように思う。ポリアンナさんから掻い摘んで聞いた依頼書の内容もそれを暗示するかのような中身だ。
「それでこの旧市街の調査なんですが・・・ まさか本当に取り壊して歓楽街にするつもりなんですか?」
「え? 何の話です?」
「いえ・・・ 以前ディゼルがマルティナと一悶着起こした時に 彼が旧市街を取り壊して歓楽街にしてやると豪語していたと聞いたもので・・・」
「あぁ~彼なら言いそうですが 実際そんな事はありませんよ 歓楽街はこの町にもありますが 現町長が特定の場所でしか運営できないように定めていますからね
それに正確には取り壊しではなく 建て直しの為の調査ですので ご心配には及びません」
「でも・・・それなら そこに住んでいる住民はどうなるんでしょう まさか追い出されるなんて事には・・・」
「まさか そんな事はありませんよ いずれは新しく建てられた新居に移住していただく事にはなりますが 住民の方をホッポリ出すような真似はいたしません その点はご安心ください
今回の区画整備は町の安全と治安の為に執り行われるものですので 何せ歴史がありますからね
実際ハルメリーの旧市街はとても古いのです この国がまだ戦争をしていた当時ですから・・・ 今から200年ほど前ですかね
敵の兵に攻めこまれた際の防衛の要として 敢えてあの様な複雑に入り組んだ迷路状の造りにしてあるのです
しかし戦争も終わり その役目を果たした旧市街は陽当たりも風通しも悪く 平和な世での生活には不向き 長年放置されている空き家も点在して治安も悪い
それに家と言うものは人が住まないと劣化が早いですから 実際 子供達がその空き家に入り込んで 崩れた建物の下敷きになった・・・と言う事故もありました
古き良きを残すのも重要ですが 時代の流れと共に変えるものは変えていかなければ ただただ廃れていくのみです」
「そうですか・・・思い出の場所が変わるのは少々寂しい気もしますけど 後の世の為ならその方が良いです」
「そう言っていただけると事業に携わる者として 大変励みになります
それで・・その調査なのですが・・・・
お恥ずかしい話 測量を任せた者達が皆 青い顔して逃げ帰ってきて仕事にならないのですよ」
「え・・逃げ? 町中にモンスターでも現れたんですか?」
「そうではなく 皆口々にその・・・幽霊を見たと・・・」
「幽霊・・・ですか?」
「ハルメリーは一応古戦場跡地でもありますからね そう言う噂は昔から後を絶たないのです それで今回アネット殿に依頼したい仕事と言うのが実態調査です
果たして幽霊はいるのか いないのか それさえ分かれば手は打てますから」
幽霊か・・・僕も小さい頃「早く寝ないと幽霊さんがお迎えに来ちゃいますよ」と、オフェリナ叔母さんに言われたっけ。
仮に幽霊がいたとしてバードラットさんは何らかの手を打つ事ができるのだろうか。幽霊相手に?
僕としてはそちらの方が気になった。
この仕事をする際に同行者が1名つく事となった。幽霊の目撃者の方だろうか? 彼は終始心が不安一色に塗り固められている。もしかしたら顔も青白くなってるかもしれない。
本来なら大雑把に場所を教えてくれれば済む話だけど、僕が盲目なのと旧市街は迷路のように入り組んでいる為、案内人の彼はバードラットさんなりの配慮と言う訳だ。ご愁傷さまです。
「では道案内お願いします」
案内人の人に先導されて大通りから旧市街への小道へと入る。
僕の自宅のすぐ横を通りすぎるのは何だかちょっと不思議な感じがしたけど、流石に現場が家の近くとは思いたくない。
有難い事に案内役の彼は重い足取りで奥へ奥へと突き進んでいってくれた。
迷路をくねくね。ここまで奥まで来ると生活の息遣いは聞こえない。まだ町中である筈だけど静寂だけがここの住民なのかもしれない。
「俺が幽霊を見たのは 大体この辺りです」
確かにとっても静かだけど微妙に気配を感じなくもない。ただ家か壁か周囲の感覚が狭く正確にそれをさとれない。
彼の言う通り得体の知れないモノがいるのだろう。僕はこの後「それ」と出会ってしまう事になる。




