34・マルティナの初陣
前回のあらすじ
旧市街の廃墟群で気になる子供と出会った。
プルトンと言う人物を探しており、彼はラトリアの一件とも関係しているらしい。
あの心の奥底で何を考えてるか分からないエセ商人の店から帰って来ると、家で留守番をしていたミストリアに異変が起きていた。
この子の頭上には色付いた水で作られた文字が次々と形を変えて並べられていく。どうやら自分で制御できるものではないらしく本人も困惑してワタワタしてる。
それにしたって・・・
〔このスープ もう少し塩がきいてると良いのだけど・・・〕
〔この肉固いわね・・・〕
〔ルドマンも もっと胸の開けた大胆な服を持ってきてくれれば良かったのに これじゃアネットに見せられないわ〕
〔今 壁の向こうでアネットが体を拭いているのよね 偶然を装って部屋に突撃してみようかしら・・・ドキドキ///〕
等々・・・年頃の女の子が口にしてはいけない言葉の羅列が遠慮なしに浮かんでは消え浮かんでは消えを繰り返してるのだけど。
私の中の無口な女の子の印象は一瞬で吹っ飛んだわ。
唯一の救いはアネットとソフィリアが文字を読めない事だけど、オモチャと思ってぴょんぴょん跳ねながら遊んでる妹の教育に宜しくない。あと他人が見たら色んな意味で引かれる事かしら。
なので私はミストリアにとうぶん外出を控えるよう厳命した。
〔太いですね〕〔薄いですね〕〔シワがありますね〕等々、人を見る度本心が駄々漏れていては町中で抜き身の剣を振り回してるのと変わらない。
おそらくどんな達人でも躱せないだろう。
そして今日。彼女に関して前々から気になっていた点が解明した。初めてミストリアを見た時の印象は場違い。
私が普段から見ている人の身なりとはだいぶかけ離れた出で立ちをしていたから・・・
「き 金貨が1・2・3・4・5・6・・・ 全部で15枚・・・ あ あのねミストリア これは流石に貰い過ぎだわ ここでの生活なら月一でも 金貨一枚もいかないんじゃないかしら・・・」
〔分かりました 次に家の者が来た時にそう伝えておきましょう 私は世事に疎いところがありますので ここで一般常識なども教えて頂けると助かります〕
とまぁ、丁寧な口調ならぬ水の文字で返答されたけど頭上の文字は〔ふ~ん〕と素っ気ないものへと変わっている。
本音と建前は大事だけど本音の部分を隠せるまでは修行が必要ね。
アネットは彼女の出自を語らない。きっと偉い人と何かやり取りをしてきたんだろう。でもその正体は世間知らずのトンデモお姫様だったらしい。
それから数日の後。
ギルド職員の仕事の後任が決まって私はようやく冒険者としてのスタートラインに立つ事ができた。
これからはアネットと2人、最良のパートナーとして冒険者街道をひた走る! 筈なんだけど・・・
「それじゃ 張り切って行こー」
『あいさー』
何故か隣にカルメンがいる。
「ちょっと! どうしてカルメンがいるのよ! あなた狩人の仕事はどうしたの?」
「ふぇ? んー お母さんがね 雑木林の雲行きが怪しいって だからしばらく入っちゃダメなんだって
他の狩人仲間も 雑木林には入らないんじゃないかな~ だから今は冒険者の仕事がメインだよー」
「ぐぬぬぬ・・・」
「僕も最近 外のモンスターの分布がおかしいって噂で聞いてたんだ それにコドリン洞穴はハルメリーの冒険者にとっては主要な場所なんだし・・・ね?」
「はぁ せっかくのデビューなんだから お日様の下がよかったわ・・・」
そう言う訳で私達3人はコドリン洞穴の第一層に来ていた。
ハルメリーの発展と生活に寄り添ってきたダンジョン。そこに生まれて初めて足を踏み入れて感慨深さを染々感じるものと思ってたのだけど・・・
洞穴のクセに普段から嗅ぎ慣れた露店の串焼きのせいで情緒が台無しなのよ! もっとこう・・・荘厳な空気とか伝説に恥じない幻想的な風景とか! あるでしょう・・・そう言うの。
「まぁ これはこれである意味凄いわね もう洞穴の中で生活できるんじゃない?」
「ホントだねー でもお母さんがダンジョン価格だから止めときな だって」
ダンジョン価格・・・いかばかりか。家計の財布を握る身としては要チェックだわ!
「うっわ・・・ 何これ 中々いい値段するじゃない」
私はテーブルの上に置かれたお品書きからソッと目を反らした。うん・・・見なかった事にしよう。ここで買うべき物はない。
気を取り直して仕事仕事!
と言っても今日はギルドの依頼を受けた訳ではない。私とカルメンの洞穴デビューと言う事で、実戦に慣れると言う名目の素材集めをしに来たのだ。
鉱石類は持ち出せないけどモンスター素材は洞穴内の露店で買い取ってくれるらしい。
モンスターの素材は洞穴内の買い取り所で売れるらしい。ただしコドリン洞穴のメイン資源である鉱石類は別。禁を破ると最悪刑罰もあるんだとか。
「うわっ! 何よこれ・・・」
「ぎょえーーー!」
露店が軒を連ねる区画から少し歩いた場所で私達は奇怪な光景を目にしていた。話には聞いていたけど壁から生き物が生えてくるってどうなの・・・
「ねー このモンスターって土なの? ナマ物なの?」
「知らないわよっ」
例え生物でも食べる気にはならないわね。ここはダンジョンでも初歩の初歩。私達でもすんなり倒せるモンスターの生息地。ここでの目的は単純に敵を倒すだけじゃなく、互いの息を合わせる事。
つまりは戦闘訓練ね。
アネットとのペアはやり易い。ガンガン前に出る私に合わせて動いてくれるから頭であれこれ考えなくて済む。
カルメンも「ここは厳しい」と思ったところに矢が飛んでいく。
この2人私が思ってる以上にセンスあるんじゃ・・・むむむ。
それにしてもこうして3人パーティーを組んでいると訓練生時代を思い出すわ。冒険者はパーティーが基本の考え方で複数対複数の模擬戦をみっちり仕込まれたっけ。
大剣を振り回すウェグナス。長槍を振り回すラトリア。味方である彼等の得物が私をかすめていたのは良い思い出だわ・・・
「やたー! 敵たおしたー!」
「倒したー! じゃないわよ! 何でいちいちアネットに抱き付く必要があるの!」
「え~ いいじゃーん 狩った獲物の魂に敬意をって お母さんも言ってるもん だからちゃんと喜びを表現してるだけですー」
各ご家庭にはそれぞれ教えがあるんだろうけど、モンスターを倒す度に文句言うこっちの身にもなってほしいものだわ・・・
「って! ギャーーーー! カルメン!! ちょっと! 何やってるの!!」
「へ? 何って解体だよー このままお店に持っていくと 解体料とかで値切られるって お母さんが言ってたんだー」
「いや だからって・・・そんないきなり」
「へ~ そうなんだ カルメンは何でもできて偉いね」
「エヘヘー 誉めて誉めてー」
いつもの調子、いつもの笑顔でモンスターの皮・肉・内蔵を丁寧に切り分けてくカルメンを見て吐き気を覚えた私は、ここに来てようやく洞穴の洗礼を受けた気がした。
「む~ あまり高く売れなかったね」
「仕方ないよ 僕達の戦ってた場所は他の冒険者にとって通り道だもん」
「でも・・・ 私達ちゃんと戦えたわよね?」
「そうだね」
「前から思ってたんだけどー 私とアネットって相性良いよねー」
「ちょっとカルメン! アネットに抱き付かない!」
「えぇーーーーー」
そんなやり取りをどこか楽しみながら帰った私達は、見事検疫の行列に捕まり2度目の洗礼を受ける事となった。
帰宅すると母は夕げの支度をしていた。小さいながらもソフィリアは母の手伝いをしている。
いつも通りの我が家の光景が広がっている中、ミストリアと彼女のスキルさん達は何やら論争を繰り広げていた。
会話の内容は気になるところだけど、私が手伝いを始めると「今日はマルティナの冒険者記念日なんだから 主役はゆっくりしていなさい」と母に言われてしまった。
我が家では何か特別な事があるとお祝いをする。
と言っても盛大に何かをするなんて事はない。ただちょっとだけ食事が豪華になるとかだけど、家族の温もりを感じられる我が家の一大行事だ。
手持ちぶさたになった私は椅子に腰掛けて、今日あった出来事を反省して次に繋がるプランを練る。
やっぱり実戦の肝は連携だった。訓練生時代の特訓は無駄じゃなかった。だったらする事は1つ。
もっとアネットと密接した訓練をすべきじゃないだろうか!
〔そもそもカルメンはアネットにくっつき過ぎなのよ! そりゃぁ確かに腕は良いと思ったわよ でもいちいち抱き付く必要ないじゃない!
そこにくると私はちゃんと出来てたかしら 何だか盾を持って突っ立ってるだけだった気がするわ・・・ う~ん 盾職のアピールポイントって何だろう 前に出て攻撃を防ぐだけよね 華がないわ
私も戦闘が終わったらアネットにしなだれてみようかしら こう・・・さりげなく胸を当ててみたりとか・・・・
胸・・・ 胸か~・・ はぁ~ カルメンには勝ってるけど とんでもないのが我が家に居るのよね~ せめてミストリア程とは言わずとも もっとあればアネットも意識するかしら・・・って
ん? ミストリアがジト目でこっち見てる? 何かしら もしかしてライバル視?〕
「あー! マルティナおねーちゃんも頭に水浮かべてるー!」
「・・・え?」
ソフィリアに指摘されて頭上を見ると、ミストリアと同じようなあられもない言葉の羅列がふよふよ頭の上で駄々漏れていた。
「な゛っ!?」
こんな事ができるのはミストリアしかいない。私がジト目を返すと彼女のジト目は僅かに横に反れた・・・気がした。
それにしてもアネットと言いミストリアと言い。マイナス等級のスキルって存外曲者揃いなのかもしれない。




