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33・廃墟の子供

前回のあらすじ


カストラ商会からの依頼を受けることにした。

 


『アネット~ 何かいる~』



 静寂が支配する狭い廃墟群の只中で“盲目さん”の声が辺りに木霊した。彼の言う通りそんな無音な世界でも周りの音に集中すれば、複数の気配を感じ取る事ができた。


 しかし向こうも此方を警戒してか鳴りを潜め、更には崩れかけの家々が空洞化していて相手の正しい位置を教えてくれない。


 そんな中、明確に聞き分けられる「ジャラリ」と言う鎖の音だけが徐々に此方(こちら)に近付いて来る事だけは分かった。


 “盲目さん”の発言で周囲に耳を研ぎ澄ませていた案内役の男性も、そろそろ微妙に何かを聞き取れるようになったらしく、音が大きくなるにつれ彼の鼓動も大きく速く脈打っていった。


 彼が見たと言う幽霊だろうか? でも幽霊は鎖の音をたて地面を歩くものなのか。


 僕の目に写ったのは明らかな感情だった。しかし喜怒哀楽が一緒くたになった感情は果たして人の心と言えるのか。



「ひぅ!」



 近付く足音はもう反響音ではない。直接僕の耳に届いた。つまり幽霊は僕の目の前にいる。それを証明するように案内役の男性は小さく悲鳴を上げて後ずさった。



「あなたが 幽霊さんですか?」



 幽霊が自分を幽霊だと認識しているかは分からないけど、僕も幽霊と会話をした事が無いのでありきたりな質問を投げ掛ける。


 仮に本物なら言葉を投げ返されても困るのだが・・・



「幽霊? 似たようなものかな~ ご飯くれてた人はいなくなっちゃうし 帰る場所も無いし」



 驚いた事にそれは子供の声だった。


 その声は精神や頭の中に直接語りかけてくるものではなく、人の声帯から発せられるいわゆる普通の声だった。


 それは目の前の子供が幽霊ではなく生きた人間の子供である事の証だ。幽霊の声とか知らないけど・・・


 しかし宿した感情だけは尋常じゃない。


 色んな色をグチャグチャに混ぜたような感じ。正直これで正常とは思えない。人にもモンスターにも見た事の無い心を幼い内に秘めていた。



「君は・・ここで何をやっているの? 建物も古くなっているから 崩れると危ないよ?」


「人を探しているの ねぇ プルトンさん知らない? プルトンさんの言う事は聞かなきゃいけないんだよ? よく頑張ればご褒美が貰えるの~」


「ごめんね 僕はそのプルトンって言う人の事は分からないかな そのプルトンさんが見つかれば良いの? 知り合いに聞いてみる事はできるけど・・・ その人この町の人?」


「違うよ? でもこの町にいるんだって ガウが言ってた」


「そうなんだ 見つかると良いね」


「うん!」



 理解できない。


 どうしてこんな感情をさせながらハツラツとした返事を返せるのか。混沌とし過ぎていて心が読めないなんて初めてだ。


 この子に一体何があったのだろう。どう育てばこうなるのか。話の内容から孤児なのかもしれないが・・・


 とは言えこの子が何者であろうと崩れかけの廃墟の中いるのは安全とは言えない。


 何とか場所を変えて話し合いをしようと思ったが、この子の存在に呼応するかのように鎧を(まと)ったような幾人もの足音と恨みがましいうめき声が四方を囲んだ。


 ガチャリガチャリと家の隙間から地を踏む音。足を引きずる音など複数人の幽霊がノッソリとその姿を現した。



「出~て~い~け~~~・・・・」

「呪ってやる~~~・・・・」


「ひぃぃぃ~~~~!!」



 案内役の男性は今にも飛び上がらんばかりに驚くが、壁の向こう側からは「クスクスクス」と小さく笑う声と、目の前の幽霊も自分達の怨嗟の言葉とは裏腹にどこか楽し気だった。



「あの あなた方は死んでいる方達なんですか?」


「死~ん~で~る~~~・・・・」



 どうやら死んでるらしい。


 この場合どうしたら良いのだろう。すぐさま教会に駆け込んで聖水でも貰ってくるか。相手がモンスターなら斬って終わりだが・・・


 しかしあいにく僕は冒険者。ここは斬られて成仏してもらおう。なので取りあえず鞘のついた剣で軽く叩いてみる事にした。


 ポカッ



「いだっ! おのっ・・・・! お~の~れ~~~~・・・・」


「あの・・・生きてる方々ですよね? 何をやってるんですか こんな真っ昼間から・・」


「うぐ・・・・・・ ちっ ばれちまったらしょうがねぇ」



 どうやら観念したのか幽霊改め年配の男性は周囲に合図を送ると、廃墟の影から仲間と思われる人達がぞろぞろと出てきた。


「ふぅやれやれ」「肩こったのぉ」と皆一様にその声はしゃがれている。後は彼等のお手伝いらしき小さな子供達。大人はほぼ全員老齢であるようだ。



「一応理由をお聞かせ願えますか? 僕は今回冒険者の仕事として此方(こちら)に伺いました」


「ふん! 知れた事よ! そこにいる町長の回し者の邪魔をする為に決まっとろうが!」


「何故邪魔を・・・・」


「町長は嘘つきだっ! ここら一帯を建て替えると言い商人とグルになって 儂らを追い出す魂胆だ!」


「その話は・・・ 僕もこの旧市街に住んでいる者です ですのでこの仕事を引き受ける際 同じ事を聞きました


 商会側によると 建て直しはするけれど今住んでいる住民を追い出す真似はしないと ハッキリ僕に言いました」


「バカモン! そんな舌先三寸を真に受けたのか! 口だけなら何とでも言えるわい!」


「分かりました 皆さんの意見は僕が責任をもって 依頼主に報告させていただきますので 今日のところは矛を納めていただけませんか?」


「いくらこっちの意見をぶつけても 結局向こうの都合で決まるんだ! 昔からそうだ! 優先されるのは冒険者で儂らはいつも二の次


 約束も 決め事も 裏切られてばっかりだ! もう何を信じる訳にはいかん! バカを見るだけだからなっ!」



 町の有力者が信じられない。

 だから自分達しか信じない。


 彼らの意思は固かった。


 兎も角、ここで問答をしていても始まらないので今一度話し合いの場を設ける・・・ と言う旨をバードラットさんに伝える約束をして、この場は解散の運びとなった。


 彼等の感情もまた複雑だ。


 長年暮らしてきた故郷を(いつく)しむ気持ちと、その思い出の町の人間を疑う気持ちとがせめぎ合って、自分でもどうするのが最適なのか分からなくなっているのだろう。


 そして子は(かすがい)の字のごとく、孫と思われるこの子供達にも自分の育ったこの場所ですくすく育ってもらいたいと願う気持ちが、彼等を駆り立てる理由の1つになっているのかもしれない。


 そんな彼等に気を取られてると最初に出会った複雑怪奇な心を宿した子供は、いつの間にかその姿を消していた。










「・・・・・・と言う事があったんです」



 僕はバードラットさんの元に戻ると、廃墟群であった出来事を違えず彼に報告した。


 問題を解決する為に向かった先で、新たな問題を抱えて戻ってきた事になったが、同じ旧市街の住人として是非とも穏便に事を済ませていただきたいものだ。


 しかし僕は自分の意見を述べる事を避けた。ここから先はきっと交渉事になる。どこかで区切りをつけなければ、どんどん泥沼になっていくのを廃墟の人達が教えてくれたからだ。


 人間譲れないものもあるが、どこかで線引きをしなければ、(わだかま)りが確固たる固執へと変貌を遂げる。



「なるほど 彼等の意見はもっともですね」


「何か・・・町の人達との約束を反故(ほご)にした事でもあるんですか?」


「あるか無いかで言うなら あります 特に古い方々とはね・・・ アネット殿も旧市街の住人なら知っておいた方が良いでしょう


 問題の根幹はダンジョンにあるのです


 この町の歴史は実に古く ここの住人は幾度の戦争が町を傷付けても 連綿(れんめん)と続く祖先の血を絶やさず受け継いできた人達です 当然 彼等も誇りに思っている事でしょう


 ですが・・・そこに突如ダンジョンが出現しました 伝説の探窟家コドリンの発見が ハルメリーの岐路になったのです


 コドリン洞穴の歴史は浅い 発見されてまだ50年も経ってないでしょうか 知っての通りダンジョンは資源です 町の様相もそれに順応したものへと変えていかなければなりません


 つまりは 冒険者の優遇


 棲家も店も まずは冒険者が優先となり 様々な掟 約束が取り交わされていたにもかかわらず ここの住人達の諸々(もろもろ)は後回しになってしまったのです


 これは言い訳にしか聞こえないでしょうが 優先順位を設ける事でしか この町を発展たらしめられなかったのです」



 これもまた根の深い問題だ。

 じっくりと話し合って和解してもらいたいところだが彼等の時間はあまり長くない。


 その世代がいなくなると言う時間的解決を、どうか着地点にしないでいただきたいものである。



「承知しました 今は昔とは違いこの町も比較的安定しています 彼等との会談は 前向きに検討させていただきますよ」


「そうですか 良かった・・・」


「それと・・・もう1人の子供の件ですが その子はプルトンを探していると言ったのですね?」


「はい 間違いなく」


「ふむ・・・そう言えば 例の商人の名をまだ教えていませんでしたね」


「・・・・・・・・まさか」


「はい そのまさかです それと鎖の音がしたと言いましたか・・・


 恐らくその子供は『奴隷』でしょう 彼の商品の中には奴隷もありましたからね」


「奴隷ですか!? あんな小さな子が!?」


「何も不思議な話ではありませんよ 両親のどちらかが冒険者であったなら ギルドでの保護もあったでしょうが そうでない場合 教会や孤児院が面倒を見る事になります


 しかしそこは国からの補助があるとは言え ギルドほど優遇されている訳ではありませんから 限界はあります


 そうした場合 奴隷商に売り払われる事も ままあるのです 確かに倫理的にどうか と言う問題はつきませんが 行った先で必ずしも不幸になる訳ではありませんよ


 買わされ先によっては生活に困窮しなくなる可能性もありますからね」


「可能性・・・ですか」


「・・・奴隷商に売られると そこでスキルさん“奴隷さん”のスキルで 奴隷紋を刻まれます


 奴隷紋にはそれぞれ種類があり 軽いものだと行動範囲を限定されたり 酷なものだと その身は主の意のままにされるものもあります」


「まるで道具じゃないですか・・・」


「道具・・・そうですね 買われる とはそう言う事かもしれません


 しかし“奴隷さん”はそこら辺に普通にいて 契約する者と奴隷を欲しがる者がいる以上 止めようがありません


 国も奴隷を冷遇しないよう条例は出していますが 資源獲得の為 犯罪者を奴隷にしてダンジョンに潜らせる刑罰も存在していますし・・・ 何だかんだと奴隷の需要はあるのです」



 戦える者はダンジョンに必要とされるが、ではあんな小さな子供に何の需要があると言うのだろう。


 他人を貶める犯罪を繰り返してきた人間の事。あんな小さい子供に対して碌でもない事をしたのかもしれない。


 でなければあの歳であんなグチャグチャな心になる筈がない。


 彼は罪に問われた。


 それで彼は変わったか。子供まで巻き込む業の深さの人間の何をもって反省とするのか。


 罪に問われた事により彼は何から許されたのか。


 自分の行いが誰かの心に刻まれた以上、それから目を背ける事はできない。ならば安全な場所に引き篭もっている今の彼の心境は一体如何なるものなのか。


 僕はプルトンと言う人物に対し相応の興味をひかれる事になった。





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