山登り
広場
「第二ステージは山登りでーす。代表者を決めてくださーい。決まったらコースを説明しまーす。
蜜蠭はそれだけを言い残し、台から降りる。
○○○
「私が行きます!」
蘭央が手をあげる。このチームで体力勝負ができるのは彼女だけだ。テンペランスもステラも、そして蝗もここには向いていない。そこで、彼女が名乗りをあげる。
○○○
「やだー、私こんなむさい勝負したくないー」
一方こちらはチーム林檎。ヘクセが箒で飛べば一発だし、バーシニアは完全に体力系だ。それでも、蝟は林檎を指名する。
「お前と一緒に走れるやつなどいない。どんな早いやつもお前よりも先にはいけないだろう」
林檎は代表者になる前の蝟を圧倒したことがある。それを踏まえての判断だろう。
「じゃあ、一位でゴールしたらキスでもしてくれる?」
「いや、しない」
林檎は恥ずかしげもなく、蝟に問う。蝟は少しも同様を見せずに拒絶する。
出会った頃からずっと誘惑をかけているが、全く動じない。だんだん腹が立ってきた。そんなにこの紅ずきんがいいのか。私の何が足りないのだ。どこらへんがこの女に劣っているというのだ。
「何でですかあ?」
林檎が何かを言う前にスカーレットが口を挟む。後ろからささやく声は蝟の耳を犯す。
「スカーレットが好きだから……あああもうやめて」
蝟は例のごとく赤くなる。
「だそうなんで、林檎さんは早く行ってきてください」
スカーレットは林檎を手で払う。
「そう、わかった……」
林檎は本当に寂しそうだった。とぼとぼと、スタート地点に向かう。
○○○
「私が行きますよ、レントさん。私、負けませんから」
それは、レントに言ったのか。それともシャルロットに言ったのか。
レオナは意を決してスタート地点に向かう。
○○○
広場中央から少し離れた白線の内側、蜜蠭と五人が集まる。
「ここから走ってあの山の頂上にある旗を持ってきてくださーい。一番から五番までの旗がありまーす。旗の番号が若い方が順位が高くなりますよー。ではー、よーい、どん!」
全員が駆け出す。
蘭央はすでにラオウ化を終えている。それでも前を行くレオナ・ストレングスにはかなわない。ラオウと並ぶのは林檎。後ろには水殺とサンが続く。足場の悪い山の中、木々をかき分け、ラオウと林檎は走り続ける。
「林檎殿、儂はお主の近くにいると疲れるんだが、先行くか後行くかしてもらえんかね」
走りながら、ラオウは林檎に問う。ラオウ化した彼女は口調が変わる。いつもは弱々しくおどおどしているが、今は完全に達人だ。
「うるさいですよ、そこで、寝ててください」
林檎の口調からは不機嫌が溢れている。
「かはっ」
林檎が振り向き様にラオウに強烈な蹴りを食らわせた。見た目とは違い、林檎の戦闘能力は高い。さらに、林檎の異能によりラオウの防御力が下がっている今、ラオウを倒すのは簡単だ。
ラオウ化が解け、だぼだぼの服の蘭央が地面に伏せる。
「味方でしょ、ねえ」
地面に寝そべる蘭央はべそをかきながら林檎に問いかける。
「あたし、今、とーってもイライラしてるの。だから、近づかないで。殺しちゃうから」
林檎は蘭央を残し、レオナを追う。
○○○
レオナは湖に差し掛かった。湖は透き通り、水底が見えている。藻は見えるものの、魚の姿はない。ここで、湖を渡るか、それとも迂回するかで大きく変わる。湖を渡れば近道にはなるものの、その後を濡れたまま走らなければならない。山の中、雪は被っていないものの寒いことには違いない。一方、迂回をすれば多少時間は掛かるものの安全に山頂にたどり着けることができる。
彼女は湖を渡ることにした。方法は……。
○○○
「嘘でしょ、あの女。本当に人間」
湖に差し掛かった林檎は目の前の出来事が信じられない。
けたたましい水飛沫のその中心。レオナが力任せに水面を走っているのだ。
「人間じゃないわね」
林檎は素直に迂回ルートを選ぶ。
○○○
サンと水殺も湖に差し掛かった。途中、二人とも何か人のようなものを踏んだ気がしたが無視する。レオナと林檎の姿はない。
「水……」
水殺は笑う。彼女はこれをずっと待っていたのだ。
湖の中心が渦巻く。渦巻きから水が天高く昇る。
「水龍」
水でできた龍が現れ、水殺はその龍に乗って、頂上へ一直線に向かう。
「こりゃ、最下位を狙うしかなさそうね」
サンは湖の前で力を温存する。
最初に山頂に着くのは……。
○○○
山頂、一面が緑の絨毯で、見晴らしがよい。広場と湖も、そしてログハウスも小さくだが、見えないこともない。
この地面に刺さるのは五本の旗にはそれぞれ番号が振ってあり、一番についた彼女は一番の旗をもって帰ればいいのだろう。実際彼女は一番の旗を手に取り、二、三、四番の旗を折った。五番以外は全員興味がないし、下手に残してポイントを他のチームに渡すのも癪だからだ。五本の旗とは別に巨大な槍が刺さっているが、彼女はそれを無視し、帰りを急いだ。
水の龍に乗って
○○○
レオナが山頂につくとすでに五番の旗しかなかった。トップで走っていたつもりだったが、それでも前には誰かいたのだろう。
レオナは五番の旗と、ゲイボルグを持って山を下る。
この槍は正義子が飛ばしたものだ。目の中にいれたゲイボルグを山頂を見つめて出した。上りでは邪魔だが、下りでは木々を凪ぎ払いながら進める。
木々を凪ぎ払いながら勢いよく下る。
昼過ぎ、突然、ゲイボルグの切れが悪くなった。目の前にいたのは、
「それ、くれよ」
林檎が指差すのは五番の旗。男相手の時と口調がまるで違う。
「これ?」
レオナが強調するのは自分の胸。林檎がいつもしていることだ。
「いや、私もそれ持ってっから。でも、“それ”だけじゃ男の子は振り向きませんよ」
「そうらしいわね、どうすればいいのかしら」
レオナは頬に手を当てる。
「どうしてあの子なの」
それを言ったのはどちらか。
獅子に対するは禁断の果実。
○○○
水殺は水龍の水分補給のために湖で立ち止まる、だが水龍を炎弾が襲う。
「火に負けるのもムカつくが、水に負けるのはもっとムカつく。それ、渡してもらおうか」
水殺が振り返る先にいたのは、片手に小さな太陽を携えるサン・フレア。
水に対するは陽。
○○○
チーム暗殺 第一ログハウス
「あいつらは不死身。一方、俺たちは自殺以外はすぐ死んじまう。ずりーよ、クソ」
暗殺は悪態をつく。
「でも、私たちを助けてくれた」
刺殺が呟く。ハングドマンの能力により運命を操られていた彼らを救ったのは黒蛾達だ。特に雷蜘蛛に助けてもらった刺殺は複雑な気分である。
「しかも、火は最強だわ。あの人なら……」
昨夜直接、火蟻と戦った自殺は彼に少し心が奪われた。しかも火蟻が手を抜いていたこともわかる。
「まあ確かに……うーん」
圧殺も黒蛾に一瞬でやられた一人だ。彼らには一目も置いている。
「お前らなあ、火と雷蜘蛛さんはともかく、他のやつには萎縮すんなよ」
暗殺は雷蜘蛛には頭が上がらない。彼の人生の中であれほど格好いい人間はいないのだ。『やるじゃないか、少年』、薄れゆく意識の中、その誉め言葉は純粋に嬉しかった。
「そう言えば雷蜘蛛さん見かけないね」
刺殺もまた雷蜘蛛に助けられた……というよりもあれがあってからというものの、暗殺の顔がまともに見れない。稲妻が落ちたとき、真っ先に自分に向かって駆け出してくれたことが嬉しい。
「ちょっと聞いてくるか。刺殺、行くぞ」
そう言って暗殺は刺殺を連れて外に出た。




