恋人と戦車
早朝、レントをいつものように起こそうとしたが、隣のログハウスには誰もいない。誰かレントの居場所を知らないかと聴きまわったところ、レントは女湯に入った罪で、広場の中央で磔になっているらしかったのだ。
「あんた、大丈夫?」
シャルロットは目をそらしながらもレントを労う。
広場には裸のレントとシャルロットのみ。朝の静けさが彼らが二人きりであることを際立たせる。
「大丈夫……じゃないかも。ごめん、俺……」
レントの体はもう傷一つない。だが、心は傷だらけだ。
「何で、女湯に入ったのよ」
ほんのりと赤くなりながらもシャルロットは問いかける。
「男湯と女湯の暖簾が変わってて……」
「はあ! そんなのあんた悪くないじゃない! どうしてこんなにされなきゃいけないのよ」
シャルロットは憤慨する。もしそれが本当なら断罪されるべきはレントではないはずだ。シャルロットにとってレントは大切な人なのに、罪もなくこんな風にされたら怒り狂う。
「いや、みんなの言う通りだよ。気づいた時点で、出ればよかったんだ。それに、下心がなかったかと言えば嘘になるし」
レントの声には覇気がない。
「誰に欲情してたのよ」
シャルロットはレントの目をじっと見つめる。目線を下にそらすと“あれ”が見えてしまうからだ。
「お前とレオナ」
レントは素直に答えた。ここで嘘をつく元気も残っていなかったのだ。
シャルロットの顔が耳まで赤くなる。いつもならここで『レントのへんたーい』からの銃乱射なのだが、やつれたレントに対し、そこまでできるほど、シャルロットは非情ではない。というかこうやってときどき素直になってくれるレントがいとおしくてたまらない。
「どうだった?」
いつもなら、聞けないことを勇気を出して聞いてみる。
それに対し、レントの口は開かない。
「なんか言いなさいよ……ってなっ何を立ててるの!」
シャルロットはレントの下腹部を見てしまった。顔を手で伏せるものの“それ”が頭から離れない。
「よっ、よかったのはわかったから、それどうにかして」
レントはシャルロットの裸を思い出してしまったのだ。こうなると、シャルロットがどこかにいくか、シャルロットが“何とか”しない限り収まらない。
「とりあえず、服、持ってきてくれるか」
レントはシャルロットを遠ざけることを選んだ。さすがに何とかしてくれとは言えない。
「う、うん」
シャルロットはレントの服一式を持ってきた。さらに彼を磔から外してあげる。
「ありがとう、シャル」
レントは本当に感謝した。全員が敵の中、彼女だけが味方してくれたのだ。
シャルロットに手を引かれ、レントはログハウスに向かう。
「あたしとレオナ、どっちがいい?」
レントからは見えないが、シャルロットの顔は真っ赤だ。手汗も止まらないし恥ずかしい。それでもシャルロットはレントの味方は自分だけなのだと、自分を鼓舞する。ここでレオナと言われても逆上しないと心に誓う。だいたい、可愛さはともかく女としての魅力では負けているのは薄々感じている。レントもどうせ、胸が大きい方が好きなのだろう。そう考えながら、答えを待っていた。
「シャルに決まっているだろ、今、こうやって助けてくれてるんだから」
レントの答えにシャルロットは天にも昇る気持ちになった。そして、彼女は錯乱する。
「あたしは、あんたなんて、あんたなんて大っ嫌い!」
いつもの意地っ張りと、今の気持ちがごちゃごちゃになって我慢できない。
彼女は嫌いと言いながら、おもいっきりレントに抱きついた。
「お前、どっちなんだ?」
レントは困惑しながらもシャルロットにされるがままになった。
女神の加護がなくとも彼女は……。
○○○
広場
朝、全員が高台の蜜蠭に集まった。レントに向けられる視線は良くないものばかりだが、シャルロットがレントの手を握ってあげている。
「何で、シャルロットがレントさんと手をつないでいるのよー。じゃあ、こっちの手は私がもらっていいわね」
レオナがシャルロットを睨み付ける。いつもならここでシャルロットは逆上するのだが、今日のシャルロットは一味違う。
「レントが良いって言ったらいいわ」
シャルロットの余裕の表情にレオナが逆に萎縮する。この余裕な感じはなんだ。まるで正妻のようなキリッとした表情は。
「レントさん、この手もらいますね」
レントの腕を胸に挟む。それでもレントは動じない。心がボロボロの時に助けてくれたのはシャルロットだ。
だが、こうなるとおもしろくないのはレオナ。レントの気持ちが完全にシャルロット側に向いているのが手に取るようにわかる。
「シャルロット、私も本気で戦うわ」
その声は獅子のように力強い。
ここで、初めてレオナがシャルロットを敵対視した。とるに足らない少女ではなく、一人の女としての彼女を敵と認識したのだ。




