鉄槌を下すのは
広場
暗闇の中で、人で作った円の中、中心には罪人。三つ巴の戦いが始まる。
「私、可愛いでしょ、こっち見て」
林檎は胸の谷間を寄せるが、あいにく暗闇で見えない。しかもそんなことをしたら、千里の大蛇が怒り狂う。
「私の火にちょっかい掛けんじゃねえええ」
ログハウスから叫び声が聞こえる。もちろん蛇のものだ。暗闇でも千里眼なら目が合う。
「どうやら、あっちの人の方が弱そうですね」
聖 自殺は林檎の背後に回り、カッターナイフを首に突き立てる。だが、その刃は林檎の真皮に届かない。
カッターナイフはボロボロに折れ、林檎は無傷で終わる。林檎の負荷領域だ。彼女に近づくものはパフォーマンスが下がる。カッターナイフくらいなら簡単に壊せる。
「二人捕獲」
林檎と自殺を地面から生えた土壁で囲いを作る。
いつもはここで終わるか、轟音と共に壁が壊されるのだが、今回は土壁がボロボロと崩れる。
「この人、動かないので使いやすいですね」
自殺は林檎を盾に火蟻の鎖を防ぐ。
「せっかく、習ったんだ。異能はよそうか」
火蟻は鎖を止め、林檎に向かって駆け出す。
「女の子は蹴りたくないんだ、降参してくれるかな」
林檎の額に指を当てる。林檎は動けないので、降参すらできないはずである。だが、
「降参……し・な・い」
林檎は火蟻の腹を思いきり殴る。殴ることができる。
そして今、火蟻も林檎も視界が奪われている。夜が深いからではない。
「かはっ……スーハー」
火蟻はなんとか耐える。呼吸をしているおかげだ。
林檎に蛇の目が効かない理由。それは、林檎の目を完全なる暗闇にしたからである。
聖 暗殺。林檎の視覚を奪うことが逆に林檎を助けてしまっている。
さらに火蟻を第二撃が襲う。
「君たち、連携がすごいね」
第二撃は血の刃。自殺が新しいカッターナイフで手首を切り、あふれる血を水殺が操る。血の刃は火蟻の首を狙ったが、それは土壁で押さえることができた。見えなくても何か危ないものが来ることぐらいはわかる。
「なんのことですか? 干渉は厳禁なはずですよ」
とぼける自殺。
「そうだったね」
「何も見えないよー」
林檎の能力は負荷領域。近づく者のパフォーマンスが低下する、反撃タイプの能力だ。つまり、今は無視して自殺と戦った方がいいと火蟻は判断した。
「自殺ちゃん、僕も血を使えるんだよ」
目が見えなくとも、エネルギーを感知することは可能。鎖よりも安全かつ効果的な攻撃を仕掛ける。鎖で刺すの場合、当たりどころが悪いと、とんでもないことになるが、氷の華は一瞬で消せば血液循環障害だけですむ。
「鉢特摩」
叫ぶのは自殺。彼女の腕には血が凍り、赤い華が咲いている。彼を“血色の氷華士”と呼ぶ所以がこれである。
「降参してくれるかな」
「降参……です」
目の前が真っ暗になり、自殺は横に倒れた。
残る林檎はもう動けない。暗殺が能力を解除した今、蛇の千里眼が林檎に恐怖を与える。
「蜜蠭! もういいんじゃないのか」
「チーム火、十ポイントとレント君をボコボコにできる権利獲得!」
蜜蠭は両手を広げ、高らかに叫んだ。
○○○
「さて、レント君。僕は君が嫌いだ。今回の件もそうだし、生理的に君を受け付けない。だからといって、痛め付けるのはよくないと思うんだ。だから、僕は……なにもしないよ」
火蟻は何もせず、蛇のいるログハウスに戻ろうとする。
「あ、あの……」
戻る途中で自殺が話しかけてきた。血色の華は一瞬で散らしたが、やはり、ひどいことをしてしまった。こんな小さな女の子相手に情けないことをした。
「ごめん。いたかったよね。本当は箱で囲めればよかったんだけど」
「あ、いや私の能力は自己再生なんで大丈夫です」
「でも、痛かったでしょ。本当にごめん」
火蟻が膝をつき、自己と目線を合わせる。謝るのに、上からは無いと思ったのだ。
「え、いいんです。私が弱かっただけですから。あの、えっと、その……」
「ん?」
「私、今まで自分より強い人と戦ったことなくて、その、よかったら、あの、そ、その……」
「ん? そうか! 君ももっと強くなりたいわけか! やっぱり聖なんだね。そうだ! よかったら、バーシニアさんの特訓一緒に受ける?」
「はい!」
自殺の顔がニパっと明るくなった。とそこで、動けなくなる。
「ねえ、火? どうして私以外の女に膝をついてるの?」
後ろには大蛇。言い訳?をさせてくれるようで、やっと動けるようになる。
「え、蛇。相手は小さい女の子だよ」
今度は前の自殺がにらみつける。自分も小さいとき子供扱いされたらムカついていたことを失念していた。
「小さい女の子でも、女の子は女の子です。それに、この子はもう生理」
蛇の言葉が止まる。それは、通りすがりのステラが蛇の口の中に日本刀を突っ込んだせいだ。
「確かにそうかもしませんが、このくらいの年の子にはデリケートな問題ですよ。さすがに口をつつしんでください」
自殺の顔を手でかくす。蛇も我に帰って反省しているようだ。それにしてもいったい……
何の話だ?
○○○
広場の中央、裸のレントは早朝まで磔になっていた。
「すいませんでしたあああああ」
女神の加護がどんどん弱まっていく。女神の加護がない彼などただの罪人の……。




