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不死の受命と無神論者の神  作者: 自然対数
第二章 泡沫と消える絶食の誓い
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悪人には最強の力で正義の鉄槌を

 聖温泉

 ジャンヌとスカーレットはある作戦のために蝟《はりねずみ》よりも先に、広場の近くの温泉に向かった。


「ジャンヌちゃん、この女湯の暖簾と男湯の暖簾を交換しちゃいましょう」


 スカーレットは男湯と女湯を交換して蝟《はりねずみ》を“鼻血ぶー&ノックダウン”させてやろうという魂胆だ。夕方は引き分けてしまったが、今回は絶対に負けない。


「兄ちゃん、うぶだから直ぐにやられちゃいますよ。うふふ」


 スカーレットとジャンヌは男湯の暖簾をくぐっていった。


 中に入るとすでにシャルロットとレオナが湯に浸かっている。


「あんたなんかに負けないわ、乳女! 私の方が長く浸かっていられるわよ」


「美貌と胸の大きさで負けているのに今さら何ですか、馬鹿馬鹿しい。まあ、私が勝ちますけど」


 相変わらず仲が悪いようで、こんなどうでもいいことで喧嘩をしている。

 ジャンヌが湯船に向かって駆け出す。


「ジャンヌちゃん、体洗ってからお風呂にはいるんですよ」


 スカーレットは“ジャンヌに”説明したのだが、


「何ですって! レオナ。一時休戦よ。まずは洗ってからよ!」


「そうですね、マナーを守って戦うのが淑女です」


 二人は湯からでて、洗い場に向かった。四人は並んで体を洗う。


 ペタペタと四人の後ろを過ぎる音が聞こえる。四人とも“偶然にも”頭を洗っていて振り返ることができない。


 ふふっ、来た来た蝟《はりねずみ》鼻血ぶー作戦開始! 

 スカーレットは心の中でつぶやく。


 ○○○


 蝟《はりねずみ》は言う通り、遅れてきた。そして、確かに“男湯の暖簾”をくぐった。つまり、女湯である。

 蝟《はりねずみ》は女湯の脱衣所に入ると直ぐに異変に気づく。


「女の匂いだ。あいつら嵌めやがって。まったく」


 そういって蝟《はりねずみ》は本当の男湯に戻っていった。

 これが普通の反応である。


 ○○○


「風呂でも入るかあ」


 レントは温泉に向かう。そして、男湯の暖簾をくぐる。


「さみー、早く風呂入ろー」


 レントは扉をがらがらと引き、湯けむりの中、一直線で湯の中に入り、異変に気づく。


「よし、レオナ! 私との勝負続けるわよ」


「いいですよ。何なら私が先に入っても、いいんですよ。お子さまにはハンデが必要ですから」


「乳がでかい女なんて馬鹿の象徴なのよ!」


「馬鹿でも構いません。レントさんはこっちの方が好きですよ、絶対」


 そう言ってレオナは自分の胸を強調する。


「せーので入るわよ」


「「せーの」」


 レントは戦慄した。今は岩に隠れているが、万事休すだ。誰に何されるかわからない。予想ができない。だがそれでも……それでも少し見たい。少しでいい。少しで。

 そう言ってレントは岩影からまず、シャルロットを“ガン見”する。

 シャルロットの胸は物凄く小さい。だが、美しいのだ。妖精のような感じてはいけないエロスを感じてしまうのである。これで欲情してしまうのはダメだ。犯罪者だ、犯罪者だと、甘美な罪悪感に苛まれる。ずっと見ていたい。というか潜って下を……の時点でやめる。

 一方、レオナのそれは下品なほど大きい。だからこそ、男なら、その胸に引き寄せられないことはない。シャルロットの胸は触りたいが、レオナの胸は挟まれたい。顔も腕も指先も体全身を挟んでしごかれたい。二人の胸に飛び込みたい。飛び込んで……食べ……


「たったっ、助けてええええ、蝟《ファスト》!」


 スカーレットは異変に気がついた。まず、足音が蝟《はりねずみ》のとは少し違ったような気がするし、何より岩から二人をじろじろと見る影が揺れているのである。蝟《はりねずみ》は覗きのようなことはしないし、スカーレット以外の女の子に興味を持っている時点で別人だ。林檎の誘惑にも一切動じない蝟を見て、スカーレットには自信があった。

 衝撃波と共に、木でできた男湯との境に穴が開いた。それだけだった。


 ○○○


「レント・ルクセリア。どういうつもりだ」


 脱衣所には蝟とレントのみ。蝟《はりねずみ》は裸のまま痴漢を捕まえたあと、速攻で着替え、裸のレントを地面に縫いつけた。それは、一秒未満の出来事。


「暖簾が逆になってて……」


 レントは言い訳をする。


「そんなことはしっている。だが、ふつうはすぐ気がつくんだ。少なくとも俺は気づいた。わざとだろ、色欲《ルクセリア》」


 蝟《はりねずみ》の顔には青い紋様が浮かんでいる。完全にぶちぎれている。


「あっちにはおれのいもうとと、そのー、あー……ライバルがいるんだ」


 これほどまでに怒っていても、大好きなスカーレットがいるんだ、とは言わない。そのくらい意地っ張りなのである。


「いますぐ、ひありにつきだして、じごくにおくってもいいんだが?」


 火蟻はこういう輩が大嫌いだ。だから、ボコボコにしたあげく、黒い炎で焼き尽くすであろう。

 レントは震えが止まらない。一瞬だけだったが彼は黒龍に触れたことがある。虫の大群に体を犯される感覚。さらに苦痛、恐怖、絶望、あらゆる感情が彼を襲った。


「ジャッジは女性にまかせよう。といえば……」


 蝟《はりねずみ》は裸のレントの首をつかみ、そのままとあるログハウスに向かった。服を着ずに蝟《はりねずみ》についていくのは拷問である。全身から出血し、ボロボロになったレントの髪を片手でつかみ、ノックをする。


「ん? なんですか、ってうわっ、気持ち悪っ」


 蝟《はりねずみ》とレントは嘔吐した。女王の咄嗟の“気持ち悪っ”という発言のせいだ。口を縫っていないとこうなる。

 その女王はいつもと違い、口を縫っていない。寝巻きはピンク地にハート柄で女の子らしい姿である。でも、

 ーーまあ、スカーレットの方がかわいいな……って、スカーレットなんか好きじゃないんだからな! 

 彼女はスケッチブックを取りに部屋の奥まで行き、戻ってきた。


『すいません、歯を磨いてたもので、横着はよくないですね。ところでそれは何ですか』


「女湯に入っていた輩です。どうしますか」


『まあ、このくらいの年齢の男の子なら覗きくらいするんじゃないですか』


 蝗は心が読めたのだ。そのくらいの年の子の欲求などわかりきっている。


「覗きじゃないですよ。女湯に“入っていた”んですよ」


 蝟《はりねずみ》は、重くなったのかレントの髪を放す。彼の顔はそのままゲロの中に埋もれた。


『うーん、どうすればいいかなあ』


 スケッチブックを掲げた後、蝗が蝟《はりねずみ》の後ろを睨み付ける。


『何のようだ?』


「私闘は禁じるって言ったんだけど」


 そこにいるのは寝巻きの蜜蠭。彼女の寝巻きは黄色い地に、かわいい蜜蜂が壺を抱えている。壺の中身はなんなのだろうか。


「女湯に入っていた変態を捕まえただけだ」


 蝟《はりねずみ》は蜜蠭に抗議する。


「ほう、そうか、じゃあ」


 聖《ひじり》を広場に全員集めろ。

 そう言い残し、蜜蠭は去っていった。


 ○○○


 広場

 広場では火蟻、正義子、蘭央、ステラ、サン、林檎、暗殺、圧殺、刺殺、水殺、自殺がレントを囲んでいる。


「こいつ、どうする?」


 蜜蠭が高台から全員に呼びかける。レントの震えが止まらない。まさかあの程度でこんなことになるなど思っていなかったのだ。

 だが痴漢は犯罪だ。わはは、きゃーで済まされるわけがない。というか運命はそれで済ませない。だいたい、あの場には幼女と童女がいたのだ。


「我々、聖の家訓を知っているだろうか?」


 幼い頃に、研究所に売られた火蟻や暗殺たちは知らない。けれど正義子は知っている。

 それは聖という因子を持つものの宿命だと言える。


「悪人には最強の力をもって正義の鉄槌を!」


 正義子は唱える。


「そうそう、正義子ちゃん、正解」


 蜜蠭は拍手をする。


 裸のレントは恥ずかしさではなく寒さで震えていた。


「あれは、俺が悪いんじゃない! 暖簾が!」


 レントは震えながらも抗議するが、


「気づいた時点ですぐに謝って出ればいいだろう。だいたい普通は気づく。違うかな」


 火蟻の目は赤くないものの、笑ってはいない。


「こいつをどうしようか、みんな!」


 蜜蜂が叫ぶ。皆口々に、拷問だ、処刑だ、地獄送り、抹殺等々、罵声が上がる。


「なんかこうやって、よってたかるのも悪党みたいじゃないですか」


 ステラが声を挟む。レントは味方を見つけたと思った。


「そこで、この中で一番強い方がこれをどうするか決めませんか」


 ステラが提案する。


「じゃあ、自分がこの中で一番強いと思うものは前へ」


 蜜蠭が宣言する。

 前に出たのは火蟻、林檎、自殺。正義子やステラも一歩前に出ようとしたが、火蟻を見てやめた。


「じゃあ、この中で一番強い人を決めましょう。ここで勝ったら、レントくんを自由にする権利と、その勝った人のチームに十ポイントボーナスってことで。他のみんなは下がって」


 レントを囲む輪が大きくなる。


「エクストラステージ 聖最強決定戦、開始!」


 ○○○


 女神の加護が弱まっていく。女神が弱まっているのかそれとも……。



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