殺しのない名前を
チーム火 第一ログハウス
「蛇、向こうどんな感じ?」
火蟻は隣に座る蛇に訊ねる。命に関わるような何かが起これば止めてくれと火蟻は言っている。
「ちょっとした戦闘はあるけど、みんなちゃんとレースしてるよ」
「そっかー。あと昨日はごめんね。倒れるほど痛かったなんて思わなくて」
蛇はムッとする。火蟻は謝ってばかりだ。それに痛くて倒れたんじゃない。気持ちよすぎて倒れたのだ。もっともっと痛いことしてほしい。だが、さすがにそれは言えない。でも、それでも自分を受け入れてくれたら、毎日……、とそこでやめる。それ以上妄想してしまうとダメになってしまうのだ。
そして、謝るなら……いいや、よそう。確かに小さい女の子相手にライバル心をむき出しにするのはさすがに可笑しすぎた。
「気にしないで火。私がしてって言ったんだから。それに……少し気持ちよかったよ」
蛇は揺さぶりを掛けてみる。
「本当? これね、マッサージだから毎日やった方がいいんだって。毎日やってくれる?」
蛇は笑みがこらえきれない。火蟻に痛めつけられる毎日……。
「じゃあ、やって」
蛇は唖然とする。火蟻が膝立ちをしているのだ。逆だ逆。大好きな火蟻に痛めつけられたいのだ。痛め付けたくなんてない。
「もう、知らない。スカーレットちゃんところ行ってくる」
蛇はぷりぷりと怒って部屋を出ていった。
「どうしてだ?」
火蟻は本当にわからなかった。
○○○
蛇はスカーレットのいるログハウスに入ると、一直線でスカーレットに泣きついた。
「スカーレットちゃん、聞いてよー」
「何ですか、蛇さん」
スカーレットは蛇の頭を撫でる。
「蝟! これから女の子どうしの話をするんで出ていってもらえますか」
「えー、やだよ」
蝟はスカーレットに抗議するが、この二人の関係性はスカーレットの方が上だ。スカーレットがにらみつけると、蝟はとぼとぼと、外へ出た。
蝟は扉に手をかける。
「俺、どこ行けば……」
「火蟻さんとこでも行っといてください、あとジャンヌちゃんは勉強のために残ってて」
蝟に着いていこうとするジャンヌを引き留めた。
○○○
「あのね、火蟻が私を痛めつけてくれないの。どうすればいい」
スカーレットは苦笑いで済んでいるが、ジャンヌは完全に引いている。
「ジャンヌちゃん、この人が火蟻さんの彼女だよ」
スカーレットがからかう。
「かっ、彼女じゃないよ……まだ……」
ジャンヌのひきつった顔は変わらない。いきなり現れた女の人が『痛めつけてくれないの』はパンチが強すぎる。
「火蟻さんはわかる?」
「兄ちゃんのお師匠さん!」
ジャンヌにはそう見えているらしいが、実際に選抜者になったのは蝟の方が早いし、今の蝟の方が強い。本当の年もそう変わらない。
「うーん、お師匠さんじゃないよ。友達ね」
「ふーん。おねーさんと火蟻さんは付き合ってるの?」
ジャンヌは核心をついた質問をする。その質問は是非火蟻にしてほしい。
「あのね、このおねえさんと火蟻さんは……うーん、何て言うのかなあ」
「兄ちゃんとスカーレットさんみたいな感じ?」
「そっそうだね」
スカーレットは少し頬を染める。蛇も同様だ。
「どうして付き合わないの? 好き同士なんでしょ」
ジャンヌは二人に訊ねた。
「私は……その……」
スカーレットには理由がある。蝟と痴話喧嘩する関係に満足しているのだ。これ以上関係を進めたらどうなるかわからない。確かにスカーレットも蝟も、体は童女と少年だが実際はキス以上をしてもいい年齢だ……とそこで、スカーレットは顔から湯気をだし、倒れる。想像してしまった。
「スカーレットちゃん!」
蛇はあわてふためくが、ジャンヌは冷静だ。
「大丈夫ですよ、兄ちゃんもスカーレットさんも倒れてばっかですから。それよりも、おねーさんと火蟻さんはどうして付き合わないんですか?」
「火蟻が“ニブチン”だからです!」
こちらのほうも重症である。火蟻は異能で自分の心を制御しているのに、蛇は待ちの姿勢を崩せない。火蟻の片目を赤くすれば万事解決なのだが……。
「おねーさんが好きですって言えば?」
それもそうなのだが……それもそうだ。
「私、勇気出してみる!」
「じゃあ、私を火蟻さんだと思って練習してみて」
蛇もジャンヌも盛り上がる。
「わっ私、れっ、れっか……」
蛇もぶっ倒れた。蛇は火蟻の顔を思い浮かべただけで倒れてしまったのだ。ジャンヌは倒れた二人を見てため息をつく。
「はー、まったく、お腹す……」
“それ”は言ってはいけないと自制した。
その空腹は悲劇の前触れとなる。
○○○
「……で蛇が怒って飛び出しちゃったの。何でだと思う?」
火蟻は本当にわからなかったので何とも言えない。蝟の方はわかっている、というか火蟻以外は薄々感じている。蛇は“ど変態”だ。だが、『お前の相棒、被虐性嗜好の変態だぜ』とは言えない。
「まあ、謝っときゃいいよ」
「そんなんでいいのかなあ」
そんな二人を見つめる瞳が四つ。
○○○
「この組み合わせも有りっちゃ有りじゃない?」
「いやでも、ちょっと年齢差が……」
「それがいいんじゃないですか、おにショタですよ。おにショタ」
「いや、おにショタって鬼ショタみたいで、危険度増してますよ」
「だがそれが……」
「あんたら何やってんですか」
暗殺が話しかけたのは火蟻のいるはずのログハウスを覗く腐った女の子達。テンペランスとエレミットだ。
「刺殺ちゃんはどう思いますか?」
テンペランスは女の子はみんなホモが好きだと信じている。だが、刺殺には質問の意味がわからない。
「じゃあ、暗殺くんと誰がお似合いだと思いますか?」
テンペランスにとってその質問は『暗殺くんと何“君”の組み合わせがいいですか』だったのだが、
「わっ私なんて、そんな!」
刺殺にとっては『暗殺くんと何“ちゃん”の組み合わせがいいですか』なのである。そして、今の刺殺にとってそれはデリケート過ぎる質問だ。
「おい、貴様ら、何を布教してやがる」
テンペランスに刃を向けるのはステラ・スターダスト。
「おやおや、これは変態じゃあないですか、覗き女」
「いやいや、そちらの方が変態だ、腐り女」
テンペランスとステラの間に火花が散る。
「行くぞ、刺殺。こんなところで油売っても仕方ない」
暗殺は刺殺とともに扉に向かった。
○○○
「聞きたいことがあるんすけど」
暗殺は火蟻と蝟に問いかける。
「何?」
「雷蜘蛛さんって来てないんすか」
暗殺はぶっきらぼうに訊ねる。彼にとっては何気ない質問だったが二人の顔が暗くなる。
「死んでしまった」
火蟻がぽつんと答える。その答えは暗殺と刺殺にとって衝撃だった。視界を奪い、ナイフでめったざしになってもあの片翼の半神は余裕綽々で、自分達を試すようなことをしたのだ。あの最強が死んだだと。そんなはずはない。
「いや、あんな人が死ぬわけないだろ」
「死んでしまった。全能者の石に潰された」
今度は蝟が答える。
「どうして……」
火蟻は二人に説明した。蜏のこと、蜜蠭のこと、女神のこと……。
「俺も協力する。雷蜘蛛さんの仇を打つ」
「私も。雷蜘蛛さんは大切なこと教えてくれた」
雷蜘蛛はそんなつもりなかったが、一人の子供を少女にしたのだ。
○○○
「そうだ! 暗殺くんのとこ行っていいかな」
火蟻は暗殺たちとともに、彼らのログハウスに向かった。彼はある目的のために彼らのもとへ向かったのだ。
今、火蟻の前にいるのは暗殺、刺殺、圧殺、自殺。
「君たち、自分の名前気に入ってる?」
名前が暗殺や刺殺だ。名前をつけたのはハングドマンか、ハングドマンに彼らを売った誰かだ。いずれにしてもクズ野郎。人を人だと思っていない。
「うーん」
全員が首をかしげる。
「良かったら自分達で決めない? ステラもサンも、本当は星屑と太陽なんだよ。だから、考えてみてよ。名前に殺があるのは物騒だし、それに、名前つけたのはクズ野郎でしょ。だから……」
「自己」
彼女は呟いた。
「みんなは?」
「気圧」
「刺刀」
「暗雲」
暗雲の時だけ、刺刀が悲しい顔をする。
「なんだ、みんな考えてたんじゃないか」
火蟻は笑顔になる。
おそらく、水殺のほうも何か考えているはずだ。
「うっせーよ、もう帰ってくださいよ」
「はいはい」
暗雲が赤くなりながらも、悪態をつく。もう火蟻のやることはない。もともとなかったかも、おせっかいだったかも。そう思いながら火蟻が扉に手をかけると、暗雲が呼び止めてきた。
「あ、ありがとうございます」
「はいはい」
火蟻はやさしく笑いながら、そのログハウスをあとにした。




