女王と騎士団
結局、人生ゲームは蝗の圧勝だった。二位も三位もない。
蝗は全員を破産させたあと、悠々とゴールしたのだった。
『さて、サン・フレア。一つ聞きたいことがあるのですが』
サン・フレアは蜏の傀儡。そう思っていたが、結局はみんなで仲良く……はなかったが、普通にゲームを楽しんでいた。明らかにおかしい。
「なんだ?」
サンの言葉を聞き、蝗が口の封印を解く。
「なぜここにいる?」
女王の言葉は絶対。だから、サンは必ずその目的を言わなければならない。しかし、
「何でだ?」
サンは本当になぜここにいるのかがわからないらしい。蜜蠭の、人を食ったような『さあ、なぜでしょう?』とは全然違う。
呆けているというのが、適当だろう。
「あなたの目的は?」
「さあ?」
サンが首をかしげる。なぜここにいるのか。今、はじめて疑問に思ったようだ。
「あなたの主人は?」
「わ、私は結婚などしてないぞ!」
こちらは至って真面目な質問をしているのだが、その反応には笑ってしまう。
「あなたは操られていますか」
この質問は一応だ。我ながら、ばかばかしいと思う質問だ。操られていることに気づいている人間というのは、もうすでに操られてなどいない。
「たぶん、操られているような……。おい、ステラ、私の首をはねてくれないか?」
驚きの発言だ。
ステラは蝗に目で確認した後、サンの首を日本刀で一刀両断する。
『躊躇ないですね』
蝗は口を縫いながら、サンの頭が生えてくるのを待つ。
「スパッといかないと逆に痛いですよ」
ステラは笑って答えた。
今、蝗の目の前にいるのはステラ、テンペランス、エレミット、蘭央に首が生え終わったサンだ。彼女はもう誰の傀儡でもない。
『えっと、皆さんにお願いがあるのですが』
ステラはなんのことだかわかったらしく、他の面々とは違い、真剣な眼差しだ。
『私はもう一度、世界征服がしたいんだ。そこで仲間を募りたい。今はステラとヘクセだけ。協力してくれないか?』
誰か入ってくれるかな、と内心ビクビクしていた。こんな訳わからないお願いを聞いてくれるものなど……。
「はい、はーい! 私は女王さまについていきます!」
蘭央が手をあげてくれた。
「まあ、ステラが入ってるし、助けてもらったことだから、入ってやっても……」
サンも手をあげる。なんだかんだで結構優しいやつなのだろう。
『エレミットとテンペランスは嫌かな?』
エレミットが知恵熱を起こしたように真っ赤になる。どうしてこうも、女の子に好かれるのか。
「わ、私も入ります!」
エレミットがもじもじしながらちょこんと手をあげる。
「うーん、私はパスです。面倒そうですし。まあ、でもなんかお手伝いできればしますよ」
テンペランスは乗り気ではないようだ。おそらく理由は、これだろう。
「ふん、この腐った女に頼ることなどないわ!」
「ああ、うるさいですよ。覗き魔。男女の恋路を覗く人は馬に蹴られて死ぬんですよ」
「そこ、覗く人じゃなくて邪魔する人だから。そして、邪魔する人。それはお前のことだ、テンペランス!」
ステラとテンペランスのあいだには火花が散る。
蝗は人生ゲームが終わった後、そのボードを折り畳み、笑顔で『私が返しに行きますよ』というスケッチブックを掲げ、扉を出て行った。
蝗は蜜蠭のいるログハウスに向かった。日はもう暮れている。
「はーい」
出てきたのは蜜蠭。
蜂蜜色の髪は嘔吐するほど美しい。というかゲロまみれになればいい。
『これ返しに来ました』
蝗はとってつけたような笑顔でボードを返す。ここで怒りの形相をすれば敗けだ。勝者は笑うべきである。
「まあ、アリスちゃん。珍しいー。ありがとうー」
甘い声で蝗からボードを受けとる。
『では、私はこれで』
蝗は蜜蠭に背を向ける。無駄話をしても仕方ない。戦いは何も、暴力や異能だけではない。
「アリスちゃん、ちょっと待って」
蜜蠭が蝗を引き止める。
「ちっ、何ですか」
蝗は振り返りざまに口の戒めを解く。念のためだ。油断は敗北を招く。
「あなたのお母さん、戻せますよ」
蜜蠭は笑いかける。
「もう遅い、黙れ」
もう遅いのだ。蝗の母親は刑務所の附属病院で眠っている。耳元で起きてと言えば起きるかもしれない。だが、起きた場所が刑務所の病院なら、蝗の母は蝗に戦慄するであろう。刑務所が怖くて、自分の娘に怯えていたと言うのに。
蝗は再び足を進めた。
○○○
蜜蠭はもうしばらく口を開くことができなかった。『黙れ』を願いと受け取ってもよかったが、そんなことでいちいち目くじらを立てるのもない。
部屋に戻った蜜蠭がニコニコしながらボードを開く。彼女からのメッセージが何かと何かと期待する。罵倒か懇願か。蜜蠭もボードに何か書かれる前提でステラとテンペランスに渡したのだ。ウキウキしながらボードを開くと、
そこにはーー何も書いていなかった。
「小娘、やるじゃないか」
○○○
次に蝗が向かったのはサンのいるログハウスだ。首を切るようにステラも連れてきている。ここには、サンの他に、スノーと見知らぬ女性がいる。
ノックをして出てきたのはスノーだ。雪のように美しいのだが、年齢には抗えないようだ。シワはないが、なんというか……年期がある。
『こんばんは。スノー』
「何の用?」
サンと同じような質問をして、ステラが首をはね、最後に仲間にならないかと誘ったところ、意外にも。
「いいわよ。別に」
快くオーケーを出してくれた。とそこで、奥から見知らぬ女性が現れる。一見するとただの主婦だが、様子がおかしい。おそらく、この人は蜏の傀儡だろう。
「あー、もしもし、蝗? 悪いんだけどね。この人と向こうにいる青年は僕のだからね」
この人というのはこの見知らぬ女性のことだ。向こうの青年というのもエーゼルではなく、午前中、火蟻と戦っていた天使のことであろうか。
『わかりました。そうやってそこでずっと引きこもってろよ。蜏』
この男を許すわけにはいかない。雷蜘蛛を殺したのはこいつだ。
「わお、字が汚いですよ、女王。そんなんだと嫌われてしまうよ。せっかく」
「黙れ!」
何をそんなに怒ることがあるのか。
あんなに顔を真っ赤にして。
確かに雷蜘蛛の仇なのだろうが、だとしても切れるタイミングが違う気がすると、ステラは疑問に感じた。
○○○
最後にエーゼル……だったが、
「私は……」
エーゼルは入らないようだった。
それに、蝗もエーゼルを入れたくはない。
異能の相性が最悪だし、何より女の子だけで組みたかったのもある。
ここで、エーゼルを誘わないことは不自然だから、誘ったが、本当は入ってほしくなかった。このときばかりはエーゼルに感謝だ。




