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不死の受命と無神論者の神  作者: 自然対数
第二章 泡沫と消える絶食の誓い
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女王と騎士団

 結局、人生ゲームは蝗《いなご》の圧勝だった。二位も三位もない。

蝗《いなご》は全員を破産させたあと、悠々とゴールしたのだった。


『さて、サン・フレア。一つ聞きたいことがあるのですが』


 サン・フレアは蜏《かげろう》の傀儡。そう思っていたが、結局はみんなで仲良く……はなかったが、普通にゲームを楽しんでいた。明らかにおかしい。


「なんだ?」


 サンの言葉を聞き、蝗が口の封印を解く。


「なぜここにいる?」


 女王の言葉は絶対。だから、サンは必ずその目的を言わなければならない。しかし、


「何でだ?」


 サンは本当になぜここにいるのかがわからないらしい。蜜蠭の、人を食ったような『さあ、なぜでしょう?』とは全然違う。

 呆けているというのが、適当だろう。


「あなたの目的は?」


「さあ?」


 サンが首をかしげる。なぜここにいるのか。今、はじめて疑問に思ったようだ。


「あなたの主人は?」


「わ、私は結婚などしてないぞ!」


 こちらは至って真面目な質問をしているのだが、その反応には笑ってしまう。


「あなたは操られていますか」


 この質問は一応だ。我ながら、ばかばかしいと思う質問だ。操られていることに気づいている人間というのは、もうすでに操られてなどいない。


「たぶん、操られているような……。おい、ステラ、私の首をはねてくれないか?」


 驚きの発言だ。

 ステラは蝗に目で確認した後、サンの首を日本刀で一刀両断する。


『躊躇ないですね』


 蝗は口を縫いながら、サンの頭が生えてくるのを待つ。


「スパッといかないと逆に痛いですよ」


 ステラは笑って答えた。


 今、蝗の目の前にいるのはステラ、テンペランス、エレミット、蘭央に首が生え終わったサンだ。彼女はもう誰の傀儡でもない。


『えっと、皆さんにお願いがあるのですが』


 ステラはなんのことだかわかったらしく、他の面々とは違い、真剣な眼差しだ。


『私はもう一度、世界征服がしたいんだ。そこで仲間を募りたい。今はステラとヘクセだけ。協力してくれないか?』


 誰か入ってくれるかな、と内心ビクビクしていた。こんな訳わからないお願いを聞いてくれるものなど……。


「はい、はーい! 私は女王さまについていきます!」


 蘭央が手をあげてくれた。


「まあ、ステラが入ってるし、助けてもらったことだから、入ってやっても……」


 サンも手をあげる。なんだかんだで結構優しいやつなのだろう。


『エレミットとテンペランスは嫌かな?』


 エレミットが知恵熱を起こしたように真っ赤になる。どうしてこうも、女の子に好かれるのか。


「わ、私も入ります!」


 エレミットがもじもじしながらちょこんと手をあげる。


「うーん、私はパスです。面倒そうですし。まあ、でもなんかお手伝いできればしますよ」


 テンペランスは乗り気ではないようだ。おそらく理由は、これだろう。


「ふん、この腐った女に頼ることなどないわ!」


「ああ、うるさいですよ。覗き魔。男女の恋路を覗く人は馬に蹴られて死ぬんですよ」


「そこ、覗く人じゃなくて邪魔する人だから。そして、邪魔する人。それはお前のことだ、テンペランス!」


 ステラとテンペランスのあいだには火花が散る。


 蝗《いなご》は人生ゲームが終わった後、そのボードを折り畳み、笑顔で『私が返しに行きますよ』というスケッチブックを掲げ、扉を出て行った。

 蝗《いなご》は蜜蠭《みつばち》のいるログハウスに向かった。日はもう暮れている。


「はーい」


 出てきたのは蜜蠭《みつばち》。

蜂蜜色の髪は嘔吐するほど美しい。というかゲロまみれになればいい。


『これ返しに来ました』


 蝗《いなご》はとってつけたような笑顔でボードを返す。ここで怒りの形相をすれば敗けだ。勝者は笑うべきである。


「まあ、アリスちゃん。珍しいー。ありがとうー」


 甘い声で蝗《いなご》からボードを受けとる。


『では、私はこれで』


 蝗《いなご》は蜜蠭《みつばち》に背を向ける。無駄話をしても仕方ない。戦いは何も、暴力や異能だけではない。


「アリスちゃん、ちょっと待って」


 蜜蠭《みつばち》が蝗《いなご》を引き止める。


「ちっ、何ですか」


 蝗《いなご》は振り返りざまに口の戒めを解く。念のためだ。油断は敗北を招く。


「あなたのお母さん、戻せますよ」


 蜜蠭《みつばち》は笑いかける。


「もう遅い、黙れ」


 もう遅いのだ。蝗の母親は刑務所の附属病院で眠っている。耳元で起きてと言えば起きるかもしれない。だが、起きた場所が刑務所の病院なら、蝗の母は蝗に戦慄するであろう。刑務所が怖くて、自分の娘に怯えていたと言うのに。


 蝗《いなご》は再び足を進めた。


 ○○○


 蜜蠭《みつばち》はもうしばらく口を開くことができなかった。『黙れ』を願いと受け取ってもよかったが、そんなことでいちいち目くじらを立てるのもない。

 部屋に戻った蜜蠭《みつばち》がニコニコしながらボードを開く。彼女からのメッセージが何かと何かと期待する。罵倒か懇願か。蜜蠭《みつばち》もボードに何か書かれる前提でステラとテンペランスに渡したのだ。ウキウキしながらボードを開くと、

そこにはーー何も書いていなかった。

 「小娘、やるじゃないか」


 ○○○


 次に蝗が向かったのはサンのいるログハウスだ。首を切るようにステラも連れてきている。ここには、サンの他に、スノーと見知らぬ女性がいる。

 ノックをして出てきたのはスノーだ。雪のように美しいのだが、年齢には抗えないようだ。シワはないが、なんというか……年期がある。


『こんばんは。スノー』


「何の用?」


 サンと同じような質問をして、ステラが首をはね、最後に仲間にならないかと誘ったところ、意外にも。


「いいわよ。別に」


 快くオーケーを出してくれた。とそこで、奥から見知らぬ女性が現れる。一見するとただの主婦だが、様子がおかしい。おそらく、この人は蜏《かげろう》の傀儡だろう。


「あー、もしもし、蝗? 悪いんだけどね。この人と向こうにいる青年は僕のだからね」


 この人というのはこの見知らぬ女性のことだ。向こうの青年というのもエーゼルではなく、午前中、火蟻と戦っていた天使のことであろうか。


『わかりました。そうやってそこでずっと引きこもってろよ。蜏』


 この男を許すわけにはいかない。雷蜘蛛を殺したのはこいつだ。


「わお、字が汚いですよ、女王。そんなんだと嫌われてしまうよ。せっかく」


「黙れ!」 


 何をそんなに怒ることがあるのか。

あんなに顔を真っ赤にして。

確かに雷蜘蛛の仇なのだろうが、だとしても切れるタイミングが違う気がすると、ステラは疑問に感じた。

 

 ○○○


 最後にエーゼル……だったが、


「私は……」


 エーゼルは入らないようだった。

それに、蝗もエーゼルを入れたくはない。

異能の相性が最悪だし、何より女の子だけで組みたかったのもある。

ここで、エーゼルを誘わないことは不自然だから、誘ったが、本当は入ってほしくなかった。このときばかりはエーゼルに感謝だ。



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