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不死の受命と無神論者の神  作者: 自然対数
第二章 泡沫と消える絶食の誓い
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泡沫の幸福と理想の体現

 広場

 広場にいるのはレント、シャルロット、レオナに、蝟《はりねずみ》、スカーレット。そして蜜蠭だ。日は傾きかけていて、他の人たちはすでにログハウスの中にいるか、行き来をするだけだ。


「俺の願いは女神をはめたやつを知りたい」


 レントは高台の蜜蠭に願う。そして、


「ジャンヌ・ファントマ・キルハンティングをよみがえらせてくれ」


 蝟《はりねずみ》の目は見開き、息が荒くなっている。スカーレットがついてきたのは蝟《はりねずみ》が心配だったからだ。


「いいでしょう、その願い、叶えましょう」


 ○○○


「ジャンヌか?」


 蝟《はりねずみ》の傍らにいるのは彼の妹。蝟《はりねずみ》と同じオリーブ色の髪、瞳も色素が薄い。そして、


「うわっ、ちょっと私に似てる…かも」


 スカーレットの山吹色の髪をオリーブ色にすれば、姉妹のようである。


「兄ちゃん、私」


 蝟《はりねずみ》は妹を強く抱きしめた。そして、彼女の胸から腹の辺り、ちょうど胃があるところが光を放つ。蝟の選抜者になったのだ。


「ジャンヌ、ジャンヌ、ジャンヌ。これで、お前も俺の仲間だよ」


 目の前の光景が信じられない。あのとき腕の中で死んでしまった妹は、いま腕の中で心臓を動かしながら確かに生きているのである。

 スカーレットも近くで笑う。


「兄ちゃん、私、あの時……」


 ジャンヌは今だ状況がつかめていない。自分で自分の腹を刺し、気づいたら、今ここで兄に抱き締められているのだ。


「ああ、もう大丈夫だ、大丈夫だぞ。とりあえず、向こうのログハウスの行こう。そこで話そうな」


 兄妹は手を繋いでログハウスに向かった。その後ろをスカーレットがついていく。


 ○○○


 禁忌とわかっていても、感動せざるを得なかった。

 レントは手を繋ぐ兄妹を眺めつつ、満たされた気持ちになったが、それはそれでこれはこれだ。


「シャルロット、レオナ。敵がわかったぞ。敵の名は……」


 レントはシャルロットとレオナに敵の名前を伝えた。


「やっと、私たちも追いついたってところかしら」


「敵が定まっただけです。ここからが本番ですよ」


 恋人は片手に戦車を、片手に力を持ち、まだ見ぬ敵を睨み付ける。


 レントは自分の発言に気がついていない。あれだけ傾倒していた“彼の”女神ははめられるはずなどないのだ。


 ○○○


 チーム蘭央 第一ログハウス 

 蝟《はりねずみ》は妹を連れて、ログハウスの中に入った。中にいるのはキルハンティング兄妹だけだ。スカーレットはログハウスの扉の前で止まっている。彼女なりに気を使ってのことだった。

 蝟《はりねずみ》は今までのことを説明した。黒蛾に拾われたこと、火蟻や蝗のこと、そして雷蜘蛛のこと。黒蛾を助けるために今頑張っていること。今、ジャンヌは自分の選抜者であること。そして最後に、蝟《はりねずみ》は深呼吸をする。


「ハングドマンは地獄に落ちた」


 蝟《はりねずみ》は意を決して話した。人を地獄に落としたことを攻められるのか、それとも仇を討ったことを喜ばれるのか、約束を勝手に違えられて怒られるのか、彼は覚悟をした。


「お父さんとお母さんを……その人?」


「うん」


「そっか」


 ジャンヌは責めも喜びも怒りもしなかった。ただうなずいただけだった。


「あと兄ちゃん、あの時からなにも食べてないぞ」


 蝟《はりねずみ》は自慢げに話す。蝟《はりねずみ》もあまりハングドマンの話をしたくない。


「選抜者ってのはな、飯を食わないでいいんだ。お腹はすくけどもう慣れたぞ」


 蝟《はりねずみ》が説明する。


「本当に!」


 ジャンヌの顔が晴れる。にぱっとした表情はとても愛くるしい。


「じゃあ、私、これから誰も傷つけないですむの!」


「そうだよ」


「兄ちゃん、やった!」


 ジャンヌはファストに泣きながら抱きついた。


 ○○○


 扉がノックされる。


「もう入ってもいいですか」


 スカーレットは日が暮れるまでずっと待っていた。ここに誰も入らせないようにするためだ。兄妹の家族水入らずの話に邪魔が入ってはいけない。スカーレットにとってもログハウスの中は神聖な空間であったのだ。

 だが、もう限界だ。寒かったので、ついにノックしてしまった。


「いいよ、スカーレット」


 スカーレットは手を擦りあわせながら部屋に入り、暖炉の火に手をかざす。蝟とジャンヌはソファでゆったりと座っている。


「わー、私にそっくりでかわいいー」


 暖炉の傍らのスカーレットはソファーに座るジャンヌを見つめたあと、そのまま抱きつきにいった。


「かわいいー」


 スカーレットは無抵抗のジャンヌを抱え、そのまま膝の上にのせる。


「うちのジャンヌは確かにかわいいが、自分に似てかわいいーって言うのはどうなんだ」


 蝟《はりねずみ》はスカーレットをいつもの調子で挑発した。ジャンヌは顔を赤くし、スカーレットはいたずらっ子のような顔になる。


「ジャンヌちゃんは、全部説明してもらった?」


 スカーレットは膝の上のジャンヌの耳に問いかける。


「兄ちゃんは全部教えてくれたよ、おねーちゃん」


 スカーレットはおねーちゃんという言葉に痺れるが、今はまだ我慢だ。


「お兄さん。ねえ、隠してることあるでしょ」


 スカーレットの目が細くなる。


「ねえよ。妹に隠し事なんか」


 蝟《はりねずみ》はまだ気づいていないようだ。

 ーー馬鹿め、私をここに入れた時点で、お前の敗けは決定しているのだ!


「ふーん。じゃあ、お兄さんが今、好きな人がいるの知ってる?」


 蝟《はりねずみ》はビクンとする。気づいたようだが、もう遅い。歯車はすでに回っている。


「えっ兄ちゃん、好きな人がいるの? 聞いてないよ、どういうこと!」


 ジャンヌはスカーレットの上で憤慨する。


「いや、いないぞ。そんな人はいない。断じていない。いるわけがない」


 蝟《はりねずみ》は足掻く。足掻きに足掻く。だが遅い。ここで逃げてもジャンヌは執拗に聞いてくる。だから、足掻き終わったあと、彼は天を仰いだ。


「ねえ、誰が好きなの?」


 スカーレットは蝟《はりねずみ》の耳元でささやく。その声は甘く溶けてしまいそうだ。


「そこにいるスカーレットさんが好きです」


 蝟《はりねずみ》が呟いた。その場の全員の顔が紅潮する。一番は、蝟《はりねずみ》。二番はジャンヌ。スカーレットも耐えるが、わずかに顔が赤くなってしまった。


「えー、あの兄ちゃんが愛の告白をするなんて!『俺、別に女なんか興味ねえし』の兄ちゃんが!」


 ジャンヌは興奮する。スカーレットは大きく笑う。だが、彼女は笑っている場合ではない。


「スカーレットさんはどうなんですか?」


 ジャンヌは興奮しながら、無邪気に質問する。その質問はスカーレットにとって予想外だった。いつもなら、蝟《はりねずみ》に告白させたあと、あははと笑って終わりだった。だから、この先は予想していない。

 スカーレットは気合いで顔が赤くなるのをこらえる。私は冷静だ。大丈夫大丈夫と。


「スカーレット、お前の気持ちが知りたいな」


 蝟《はりねずみ》が自爆しながら突っ込む。もう彼の顔は湯気が出るほどに赤くなっているのだが、それにも関わらずスカーレットに顔を近づける。両腕でソファに手をつき、スカーレットの顔を挟む。これで彼女も逃げられない。

 スカーレットも蝟《はりねずみ》が大好きだ。こうやって赤くなりながらも頑張るところとか、何だかんだでやるときはやるし、そもそもかっこいいし……はっ、これでは蛇さんではないか!

 スカーレットは火蟻のように自分を制御しているわけではない。自分の気持ちにも気づいているし、だからこそ蜜蠭に蝟《はりねずみ》になんかあったら助けるようにしてくれと願ったのだ。だが、これで、自分が簡単に好きと言ってしまえば、負けた気がするのだ。スカーレットの理想は蝟《はりねずみ》を自分がからかう構図。だからといって、嫌いだなんて言えないほど好きなのは事実。だから彼女の答えは、


「あなたと……同じ気持ちです」


 スカーレットはうつむいて答える。


「ふぁああ、素敵!」


 無邪気なジャンヌは頬に手をあてて、さらに赤くなるが、


「あれっ二人ともどうしたの?」


 二人ともノックダウンだった。蝟《はりねずみ》は初めて引き分けに持ち込めたのである。


 ○○○


こうなってしまったか。

 泡沫《うたかた》の幸せを今はここに願う。





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