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第七章 国家機密は、薔薇の香りがする

「……あ。ピコん、とスマホが鳴った」



「『あいり、おはよ。なんか今日のあんた、いつもより邪悪なオーラが薄くて機嫌良さそうじゃん』って、一ノ瀬、あんた目の前にいるんだからLINEじゃなくて口で言いなさいよ」



「だって朝のHR前だし、今のあんた妙にニヤニヤしてて話しかけづらいんだもん。GW明けて早々、何その余裕? もう『は?』って言わない練習、完璧になったわけ?」



「フッ……甘いわね、一ノ瀬。今日の私は一味違うわよ。だって今朝の登校中、すでに二人から告白されたけど、全員もれなく秒殺バックドロップで処理済みだからね! 今日はなんだか、フりやすい相手ばっかりだったから扱いが楽だったのよw」



「フりやすい相手って何だよ。相手のメンタルをポイント制にするのやめなよ」



「一人はワンチャン狙いのチャラ男だし、もう一人はテンプレ通りのラブレター男子よ? そんなの私の鉄壁の防衛システムにかかれば、前者は視線一つで消去、後者は『……机に入れとけ』の五文字で完全シャットアウトよ。男子のパターンなんて完全に学習したわ。今日の私は無敵——」



「あのっ! 山崎先輩……っ!!」



「ひっ……!? (せ、先輩!? 教室の入り口に立ってるの、ショートカットがめちゃくちゃ可愛い一年の女子!? しかも顔を真っ赤にして、両手でなんかピンク色の可愛い手紙を差し出してきてるんだけど!?)」



「山崎先輩! いつも一匹狼で、凛とされてる姿にずっと憧れてました! これ、私の気持ちです! 受け取ってください!」



「……(えっ、女の子!? 嘘でしょ、毎日誰かに告白される呪いって、まさかの性別不問だったの!? 可愛い! 小動物みたいで超守ってあげたい! でも私そっちの趣味は……いや待って、手紙!? 女の子を傷つけずにフるなんて、私のクソザコな恋愛ステータスじゃ絶対に無理よ! どうしよう、どうすればいいの私——)」



「……読んだら、燃やす」



「えっ……? ……ひ、ひいいいっ! ご、ごめんなさいいいいっ!!」



「……」



「……行った?」



「……うん。あの子、泣きながら廊下を全力疾走していったわよ。今頃一年のフロアで『山崎先輩に目をつけられた』って大騒ぎになってると思うよ」



「……。……。……うわああああああああああああああああん!!! なんで!! なんで私はあそこで『……読んだら、燃やす』とか言っちゃったのよおおお!!! スパイ!!! 国家機密を受け取った裏社会のエージェントのムーブよこれ!!! 証拠隠滅の指示出しちゃったじゃないのよおおお!!」



「あはははは! お腹痛い! 『今日はフりやすい相手ばっかりw』からの、女子の特攻で完全敗北じゃん! あんた無敵じゃなかったの?」



「一ノ瀬ぇ……! 無理よ、あんな可愛い生き物から直球の好意をぶつけられたら、私の防衛システムが『未知の脅威』としてバグを起こすに決まってるでしょ! 本当はね、手紙を優しく受け取って『ありがとう、気持ちだけ貰っておくね(お姉様スマイル)』って返す脳内シミュレーションだったのよ!? なのに、なんで出荷段階で冷徹な隠蔽命令に化けるのよおおお!」



「いや、あんな据わった目で『読んだら燃やす』って言われたら、機密文書の処理担当だと思うって。おかげであんたのファンクラブ、初動で解散したじゃん」



「嬉しくないわよ! っていうか、この手紙、めちゃくちゃ良い薔薇の香りがするのよ……! あーあ、あの子に嫌われちゃったな……。今日の放課後は、家帰って猫が手紙をビリビリに破く動画見ながら、泣きながらこの手紙を家宝として神棚に飾るわよ……」



「はいはい。明日あの子に会ったら、せめて般若の笑顔で近づかないようにね」



「もう嫌、女子のイベントすら私のコミュ障でハードボイルドサスペンス映画に変わっちゃう……! 誰でもいいから、この証拠隠滅の奥にある大賛成のYESを見抜いて、無理矢理にでも『宜しくお願いします』って言わせてよ……!」


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