第八章 ショップの聖域には、亡霊たちが集う
「……ふぅ。今週も学校が終わったわ。一ノ瀬、私はこの土曜日、いつもの行きつけのショップへ『装備品』を買いに行こうと思っているの。黒いレースのチョーカーと、スタッズ付きの新しい指輪をね。防御力をさらに高めないと、来週の特攻に耐えられないわ」
「え、あ、いつものあの、駅裏の地下にあるパンク系のセレクトショップ? ……あー、あいり。その、今週末は……行くの辞めといた方がいいんじゃないかな……?」
「は? なんでよ。あそこの店長、私の見た目にビビらずに新作の入荷情報くれるから大好きなのよ。新しい装備品がないと、月曜日から裸で戦場に赴くようなものなんだけど」
「いや、なんでもないの。なんでもないんだけどさ……。あんたがそこまで言うなら、止めないけど……。うん、強く生きてね、あいり」
「なによ、不吉な予言者みたいな顔して。私の防衛システムに死角はないわよ。……というわけで、土曜日の午後。私は意気揚々とショップのドアを開けたの。そしたらさ……」
「あ。……山崎さん?」
「……っ!? (嘘でしょ!? 店の奥のソファ席に座ってスタッズ付きのベルト眺めてるの、第一章で秒殺した野球部の東雲くんじゃない!? なんでユニフォームじゃなくて私服なの!? 白シャツにデニムとか爽やかすぎて、パンクショップの空間がそこだけイオンモールみたいになってるわよ!)」
「あ、東雲。次それ試着する? ……って、え、山崎ちゃん……!?」
「……っ!? (ひええええ! 試着室から気まずそうに顔を出したのは、第三章で除霊されかけたチャラ男の神宮寺先輩!? しかも何その手、隣にいる黒いライダースジャケット着た不気味なヤンキー……第二章の荒金くんに、お揃いのシルバーリング勧めてるの!?)」
「……おい、神宮寺。それよりこれ、山崎が好きそうなデザインじゃ……。……あ。山崎」
「……(待って待って待って! なんで私の行きつけの聖域に、過去にフった男子たちが大集合してんのよ!? しかも何その、別々のコミュニティのはずのイケメンたちが、傷を舐め合って謎の友情を育んじゃってるみたいな空間は!? 気まずい! 気まずすぎて店内のBGMの重低音が心臓にダイレクトアタックしてくるわよ!)」
「……何。ここ、私の、縄張り」
「ひっ……! ご、ごめん! 荒金に『あいつのチョーカー、ここで買えるぞ』って教えてもらって、みんなでなんとなく集まってただけで……!」
「……(違うの東雲くん! 睨んでない! ただフった男子が三人も私服で並んでる尊さに、私の網膜と脳のキャパシティが限界を迎えて、声帯が勝手に威嚇音を発しただけなの! っていうか一ノ瀬ぇぇぇ! あんたこれを知ってたから止めたのね!?)」
「……帰る」
「あ、待って、山崎ちゃん! 逃げないでー!」
「……」
「……撒いた?」
「『撒いた?』じゃないわよ、あいり! あんたがショップに突撃した瞬間、男子たちのLINEグループが『本人登場!!!』って大パニックになってたんだからね! 私が言った通り、辞めとけばよかったじゃん!」
「一ノ瀬ぇ……! 先に言いなさいよ! 何よあの『フラれたイケメン同盟』は!? 傷を癒やすための互助会か何かなわけ!? 本当はね、お揃いの指輪選んでる荒金くんと神宮寺先輩の横で、『それ、二人とも似合ってますよ(微笑)』って聖母のように佇みたかったのよ! なのに、なんで『私の縄張り』とかいう、野生のゴリラみたいなセリフが出ちゃうのよおおお!」
「いや、あんな冷徹な声で『縄張り』って言われたら、密猟者として駆除されると思うって。おかげであんたの行きつけの店、完全に男子たちの『山崎あいり観測基地』になっちゃったじゃん」
「嬉しくないわよ! もうあそこへ装備品買いに行けないじゃないの! あーあ……東雲くんの私服、めちゃくちゃかっこよかったな……。今日の放課後は、家帰って猫が知らない猫と縄張り争いしてる動画見ながら、泣きながらネット通販でチョーカーポチるわよ……!」
「はいはい。通販の引き落とし額見て、般若の顔にならないようにね」
「もう嫌、休日の買い物すら私の不器用さで修羅場のサバゲー会場に変わっちゃう……! 誰でもいいから、この縄張り主張の奥にある大賛成のYESを見抜いて、無理矢理にでも『宜しくお願いします』って言わせてよ……!」




