第一章 購買の焼きそばパンは、罪の味がする
「……はぁ。お弁当の卵焼きが喉を通らないわ……」
「タコさんウインナーを虚ろな目で凝視しながら箸で突き刺すのやめなよ、あいり。せっかくお母さんが作ってくれたキャラ弁が泣いてるよ」
「キャラ弁じゃないわよ、私の精神状態を表す血の海よ……。一ノ瀬、私は昨日の放課後からずっと考えていたの。どうして私の口は、目の前に好みのイケメンが現れると自動的にロックがかかるのかしら」
「ただの重度のコミュ障でしょ。ほら、そんなことより購買でギリギリ勝ち取ってきた焼きそばパン食べなよ。炭水化物摂ればその残念な脳みそも少しは働くって」
「焼きそばパン……! 炭水化物と炭水化物の暴力的な出会い……素晴らしいわ……。でもダメよ、今の私がこんなジャンキーなものを口にしたら、東雲くんへの罪悪感で胃がブラックホールになっちゃう!」
「まだ引きずってたんだ。昨日の野球部の彼。っていうか、相談って何? お昼休みの貴重な時間を私の愚痴に付き合わせるんだから、建設的な話をしてよね」
「もちろんよ! 私はね、今日こそこの『毎日告白される呪い』に打ち勝つための、具体的かつ実戦的なライフハックを編み出したの。一ノ瀬、ちょっと私の正面に座って、男子のトーンで『好きだ』って言ってみて」
「え、私が? ……コホン。山崎、ずっと前からお前のことが……って、何その顔! 超怖い! 目が完全に獲物を屠るハンターのそれじゃん!」
「違うの!! これでも精一杯、優しく微笑み返そうと顔の筋肉を総動員した結果なの! 画像で見た海外のコレクションのモデル風に、アンニュイな大人の色気を醸し出そうとしたら、なぜかドスの利いたガン飛ばしになっちゃうのよ!」
「無理無理、色気ゼロ。ただの修羅場。あとさ、なんで私のセリフの途中で、無意識にそのチョーカーを右手でキツく締め直してんの? 威嚇? それともセルフ絞首刑?」
「チョーカーはただのポジションチェックよ! なんか首元が落ち着かないと、口から『あ?』しか出なくなる気がして! あーあ、どうして世の男子たちは、私のこの完璧な戦闘態勢を前にして、わざわざ特攻してくるのかしら……。謎の呪い体質、マジで勘弁してほしいわ……」
「まあね。あんたのその見た目に騙されて『ギャルっぽいから、ワンチャンいけるかも』って勘違いするチャラ男先輩もいれば、『あの冷徹な視線の奥にある本質を見抜きたい』とかいう拗らせたインテリ眼鏡の生徒会長もいるわけだし。あ、ほら、噂をすれば。教室の入り口、めちゃくちゃこっち見てる男子いるよ」
「ひっ……! 嘘でしょ、お昼休みなのに!? まだ焼きそばパン半分しか食べてない! 待って、あの学ランの着こなし……もしかして、他校との喧嘩で無敗を誇るって噂の、隣のクラスの不気味なヤンキー、荒金くんじゃない!?」
「あ、本当だ。手、めちゃくちゃ包帯巻いてる。……あ、こっち歩いてきた」
「一ノ瀬! ちょっと待って! 心の準備が! ヤンキーの告白とか、威力が物理攻撃なのよ! 心臓がもたない、死ぬ、死んでしまう!!」




