出発の朝2
「話は終わりだ。さて、行くか」
素早くモイスを肩に担ぎ上げたドミトルは歩き出す。
「ほえ?」
行動についていけなかったモイスは、何が起こったのか一瞬把握できなかった。
「ついて来い」
ドミトルに声をかけられた他の補佐やオスマンド、リングレアが歩き出す。向かう先は転移の塔だった。
殲滅部隊のいる場所には、一度の転移では到着する事が出来ないようにされているので、塔から何度か中継地点の塔に転移する必要がある。
個人で勝手に転移する事はギルデイザイス国内では違法で禁止されており、転移できないように防衛もされていた。
ドミトルぐらいになると自分で簡単に転移できるが、防衛している結界の一部が切れる可能性があるので、緊急事態でない限り事前報告する必要がある。それほど個人の転移は推奨されないものだった。
王都から離れた未開の地の一つでもある殲滅部隊のいる地域には、村も街も存在しておらず、誰かが住んだとしても期間限定の移住者か物好きな者だけが住んでいる。許可をとらずに住んでいる者もいるらしく、それを見つけて咎めようとする者がいないので基本野放し状態になっていた。しかも殲滅部隊の邪魔をすれば消される事が確定する危険地帯である。
そんな剛の者がいるなら勧誘したいぐらいだった。
そんな事をドミトルが考えていると、肩に担いでいるモイスが暴れる。
そこまで捕まえておきたい相手でもなかったので下ろすと、手の届かない範囲まで直ぐに逃げた。
「無理矢理連れて行こうとしないで下さい」
「無理矢理じゃない。決定している事だから拒否権も選択肢もないな。軍に所属している限りは諦めろ。
最高決定権は全て俺にある・・ように見せかけてブルトランとラブレス、高位貴族や隊長格の者達に握られている部分も多いから、逆らいたいなら協力するぞ?」
「いやーーっ怖すぎるっ!総隊長でも無理な事に挑戦したくないぃ」
「そう言うな。俺と付き合う奴らは大体怖い奴しかいないから普通だ」
自信満々にドミトルは言うが、それを聞いているモイスの顔色は悪く、唾を飛ばしながら拒否している。
そんなやりとりをしているとオスマンドが助けに入った。
「総隊長。モイスで楽しむのも程々にして下さい。それにそんな事をしていると時間が過ぎますよ?」
「そうだな・・この辺にしておくか」
ドミトルは戯れていたのを止める。
「ご自由にどうぞ。いつまででも待ちますよ」
朗らかな声でゲルモンテが言った。
モイスが睨みつけるが何の効果もなく、アルフォンドに至っては真面目な顔をして観察している。自分とモイスの違いがどういうものか分析していた。
「勉強になります」
「何がっ!?」
意味の分かっていないモイスはアルフォンドの方を見て、不気味な者でも見るような表情をしている。
それにドミトルは理解を示した。
「アルフォンドはもっと強靭な心を持つ必要があるからな。そうでなければ将来、隊長になる事は不可能だろう」
「総隊長のお婿さん一直線ですね」
アタランテがドミトルの言葉に付け加える。それを聞いて、ダー、とアルフォンドは涙を流した。
「こらっ、アタランテ。今は涙腺が緩んでるんだ。怖がる事を言うのは止めなさい」
「すみません。口が滑りました」
てへ、と頬に指を当ててアタランテがドミトルに可愛く笑顔を向ける。それにリングレアが反応した。
「ドミトル様・・総隊長はアルフォンドと結婚がしたいのですか?それならば私に言って下されば一ヶ月もあれば話をまとめますが、どういたしますか?」
アルフォンドの意見は一切聞かずに純粋な表情でリングレアはドミトルに尋ねる。仕事を処理するぐらいの様子で聞いてくるので、冗談で言っているようには思えなかった。
ドミトルが頷けばアルフォンドがどう言おうが何をしようが、淡々と話し合いと手続きを同時進行して一ヶ月で決着をつけそうな様子に、周りにいる者達は怖くなる。
アルフォンドの顔色が紫色になっているので、さすがにドミトルも真面目に否定した。
「冗談を真に受けるな。モイスの事もアルフォンドの事も遊びのようなものだ。リングレアが気にして動く必要はない」
「そうなのですね。了解しました」
リングレアはドミトルに向って頷く。大人しく従ってくれたのでリングレアの中では結婚とはその程度の事のようだ。
「これから先もそうやって俺に聞いてから行動してくれ」
ドミトルがそう言うと少し嬉しそうな顔をしてリングレアは目線を合わせる。少し前までは無表情が多かったが、この頃はこうして笑顔を見せる事も多くなった。
「もちろんです。そう望むと言う事は私は側にいても良いと言う事ですね。お任せ下さい。一生の忠誠を捧げます」
輝きに満ちた瞳で胸の前で拳を握りしめるリングレアの様子に本気を感じる。父親のアルスも姉に張り付いているので、その娘のリングレアの発言は嘘には思えなかった。
「程々に頼む」
受け入れる立場のドミトルはそう言う。
帝国の根幹とも言える忠誠心を否定する事は、国を否定する事にも繋がるので受け入れるのは当然だった。
「行くぞ」
気にせずドミトルは歩き出す。その後ろにリングレアと他の者達も続く。
転移の塔までまだ距離がある。
七人はゆっくりと移動した。
ーーーー
その後ろから見送っている者がいる。
ファイディがリランヌから手を掴まれた状態で、悔しそうに地団駄を踏んでいた。
「私も行きたかった!」
「今回はぁ負担になりそうだから無理は言わないのぉ」
不満の声を上げるファイディをリランヌが宥める。それに納得せずに口を曲げていた。
「そんな顔しないの。せっかくの可愛い顔なんだからぁ」
リランヌから言われ、ファイディが少し表情を和ませる。それにリランヌも少し微笑んだ。
「落ち着いたら帰ろう」
納得するまで、その場で見送る事にする。
建物の中から見ていた隊員達は、自由に移動していった。




