執務室
執務室。
広い部屋には、円形になるように、四つの灰色の机が置かれていた。
円形の中心には観葉植物が置かれている。大きな窓から光が入っていた。
「総隊長。こちらの調整は終わりました。殲滅部隊にも連絡済みです」
ブルトランがドミトルに報告する。
「出発はいつにしますか?」
晶映石から目線を外すと、聞く。その視線を受けて、ドミトルは考えた。
「明日の朝、出発するか」
自分の仕事の手を止めると、腕を組み、視線を斜め上に向ける。
ドミトルは休みを与える為に殲滅部隊への出張を決めていたので、早めの方がいいと思っていた。
一緒に連れて行く者達の名前を思い浮かべていると、違う方向から声がかかる。意思の強い瞳が、こちらを見ていた。
「なら私も一緒に行かせて下さい」
「リングレアは待機だ」
「総隊長!」
自分の椅子からリングレアが立ち上がる。
追いかけ回されて内心ドミトルは疲弊していた。
それが分かっているブルトランとラブレスは、リングレアの評価を一段階上げている。中々、見所のある相手だと思っていた。
ドミトルが睨みつけると、二人は少し肩を上げて自分の仕事に戻る。喧嘩するほど自分には関係ないと思っていた。
「この機会に、ブルトランとラブレスについて回って教えを請うといい。俺が許す」
突然の被弾に、二人はドミトルの方を向く。
ブルトランは眼鏡を上げつつ自分の机の資料を取って、晶映石に接続して何かを決定する。素早い行動だったので誰も気づかなかった。
「すみません。私は遠くの予定が入っています」
「そうか?・・本当だな」
ドミトルが確認すると、確かにブルトランにはリングレアに構うほど時間がなかった。
「じゃあ、ラブレス・・」
「総隊長に付いて行く事が出来るように、手続きしています」
ブルトランと話をしている内に、ラブレスはリングレアの予定を決め、手続きをしている。高速でやっているのかラブレスは集中していた。
「ちょっと待てっ・・」
晶映石に接続するが遅い。次々と決定されていくので、ドミトルは間に合わなかった。
「遮断しておくべきだったっ」
総隊長権限で停止させるが一歩遅く、リングレアの予定が組まれてしまう。
ラブレスは鼻で笑っていた。
「二人とも一緒に行って下さい。私とブルトランで十分です」
「まぁ、そうですね。護衛の意味もありますから、一緒に行くとよろしいでしょう」
性格の悪い二人に組まれると、暴力以外ではドミトルでも太刀打ちできない事が多い。実力行使でも突破するのに時間がかかるぐらい、二人の連帯力は高かった。
だからこそ任せる事への安心感もある。自分がいなくても、あらゆる伝手を使って対処出来るので、頼もしいやら腹立たしいやら、複雑な気分だった。
「王獣討伐部隊と違って、殲滅部隊は女性が多いので、リングレアさんの見学に丁度良いのではありませんか?」
ブルトランは資料を見ながら言う。反論しにくい事を言ってくるので、ドミトルは聞くだけにしていた。
それに追従するラブレス。
「そうですよね。補佐官として、まだ慣れていないリングレアの訓練は必要です」
言いながらドミトルの方に視線をやると、続ける。
「第二補佐官は、重点的に総隊長の意見を聞く立場なのですから、一緒に行けばいいですよ」
自分の意見をはっきりと伝え、ラブレスはまた自分の仕事に戻った。
少し無言になっていたドミトルは口を開く。
「お前は第二補佐官には絶対にならなかったな」
「偶然です。私には恐れ多いだけです」
「ブルトラン。ラブレスがこんな事を言っているぞ」
「私も、第一補佐官を辞める事があったら、第四補佐官でよろしくお願いします。第二補佐官など恐れ多くて・・やはり皇帝の威光は輝かしいですねぇ」
ああ眩しい、とばかりにブルトランは眼鏡を手で覆う。
「貴様ら・・」
ドミトルに対して、容赦のない二人だった。
「総隊長、よろしくお願いします」
微かな微笑みを浮かべてリングレアが言うと、背後から光が射しているように見える。
うっ、とドミトルはその光を遮るように、腕を目の前に持ってくると、少し後ずさった。その後退する姿を、興味深そうにブルトランとラブレスは見ている。
それに気づいたドミトルは、気まずげな表情をして、体制を整えた。
「あー・・、まぁいいだろう」
「ありがとうございますっ!」
「だが、一つ条件がある」
リングレアの目の前に指を一本立てる。
「俺を庇う事をせずに、自分の命を最優先にする事。これを守らなければ連れて行く事はできない」
「それは・・」
「俺より実力が高くなれば、庇う事も否定しない。だが、今の実力では俺が庇う方が先だな」
「っ・・・」
リングレアは微かに顔を歪める。実力の差は、歴然としていた。
「気にする事はないですよ。私も庇えませんから」
「庇う気もおきませんね。盾にしたいぐらいです」
「ブルトラン、ラブレス。お前ら二人は黙っていろ」
威圧を込めた表情で見るが、二人は平気な顔をして、仕事を続けている。こういう相手だからこそ、ドミトルの側近として側にいられた。
葛藤するかのようにリングレアは下を向いている。その様子を見ながら、返事を待っていた。
諦めたのか、顔を上げてドミトルを見る。
「分かりました・・」
「そうか」
リングレアの返事に満足する。
「自分の命を最優先にしながら、警護に徹します」
「求めているのは、そう言う言葉じゃないんだよな」
ドミトルの言葉に、二人の側近が耐えきれないように、静かに笑っている。押されている姿に、面白味を感じているようだ。
「そこ、笑うんじゃない」
注意するが気にしている様子はなかった。
「さすが、アルス殿の刺客・・いえ、娘さんですね。第一皇女殿下におかれましても、流石の人選で脱帽です」
「確かに。これ程の適任者もいないですね。殿下の側にいる、アルス様にそっくりです」
「ラブレスもそう思いましたか。私も来た当初から、そう思っていたんですよ」
二人は和気あいあいと話しているが、ドミトルは苦虫を噛み潰したような表情をしている。
やはり二人はドミトルが気づいていない時も、事情を把握していたようだ。そして分かっていても、報告も教えもしなかったと言う事で、気分の良いものではない。だが、自分の姉が関わっている事なので、何も言えなかった。




