広がる被害・食い止める者
「っ!」
魔力の強い膨らみ。
今ある全てを魔法に変換し、腕をふるった。
誰でもない、遠くにある校舎の空に向かって。
「……え?」
誰かの、間の抜けた声が聞こえた。
──それを合図にしたかのように、その上空に、雲のような大きな泥が広がった。
「っ!」
世界から魔力を供給し、再び逆の手を、同じように振るう。
それだけで、同じ校舎の反対側の端……その上に、同じものが現れた。
それは、時間差で校舎の上に降り注ぐ。
雨のようにではなく、ドロドロとした塊が、ゆっくりと落ちるように。
スライム、と呼ばれるおもちゃが、机の上からこぼれた時を思い浮かべれば良い。
粘度の強い水分が、その校舎の上に落ちる。
何の音もしない。
代わりに、悲鳴が聞こえてきた。
何が起きたのか、瞬間的に理解した。
校舎を溶かしている。
三階建てのその校舎が、塊のない中央以外のその端の、建物としてあった壁や天井が、消えていた。
溶かしている……という表現が、果たして正しいのか。
どちらかというと、音もなく削り取っているようにしか見えない。
発生源であるここだけが、間の抜けたような静けさに支配される。
遠くから聞こえた悲鳴は、放課後に残っていた生徒によるものだろうか。
上に誰かいたのか。
それとも下からその光景を見ていたのか。
ただ、それでも……規模に反してどこか、ヤバいことが起きているという危機感を抱けないソレが広がっているだけは、分かった。
……あまりにも衝撃的なことが起きると、人は思考が止まるという。
ここにいる皆、そんな状態になっていた。
でもそれも、すぐに解除される。
二階にいた生徒が、飛び降り始めた。
魔法でどうにか出来るのだろうから無事だろうが、少なくとも慌てて飛び降りなければならないほど、もうそこまで校舎が消えているということの証だろう。
上の階よりも下の階の方が人がいる。
そして、階段から逃げているのでは間に合わない。
距離があるから遅く見えているだけで、その溶かす速度はかなり早いのだろう。
このままだと、あの校舎が全て無くなるのを、ただ見ているだけになってしまう。
ヤバいと、ようやく認識できてきたのに……それでも、何も出来なかった。
呆然と、ただその光景を、見ているだけで……止めろと叫ぶことも、攻撃することも、出来なかった。
「とんでもないことしてるわね。酷い状況なのは聞いてたけど、まさかここまでとは」
不意に響いた声に、生徒みんなが振り返る。
「ああ、大丈夫。
あの泥はすぐにヴィルディット先生が止めてくれるから。
だから代わりに、私達があなたを止めに来たのよ。ルコリティさん」
「……どうして、私だと?」
「この状況を見てて、教えてくれた子がいたのよ。
ミミーシアさんのおかげでね。
いなかったら今頃、魔法を放った人を探し回って学校を飛び出してたかも」
肩を竦めて言っているのは、ここにいる生徒たちの授業を受け持っていた人。
小柄で、褐色肌で、いつものように色々な武器が入った籠を背負っている。
そんな少女の隣に、該当を羽織って静かに立つ、無口な男性教師。
生徒たちにとって頼もしい、二人の先生が、そこにいた。
「じゃ、勝手にここを使って戦ってた罰でも、受けてもらいましょうか」
キリが良いのでかなり短いです。
その上次の本編が最終章です。
そしてそれもまたそれなりに、全体的に短かったりしますが……。
まあ、あとは終わりに向かうだけなので早々に終わらせたいのですが、明日の十二時まででは多分ちょっとかなりの確率で出来上がらないので、十八時からの更新にずらさせてもらいます。
もし長くなったらそのまま翌日0時の更新まで食い込みますが、そこまでにはならないようにしたいと思っています。




