レイシクルの実践
半身に構えるメイジ。
ただ腕を下げたままのその姿から、本当に構えているようには見えない。
ただてきとうにあしらってやろうという態度が見て取れる。
油断……いや、驕りだろうか。
多くの属性の魔法を扱えるようになったが故だろう。
ただそれは、レイシクルにとって好都合なのか否か。
そもそも彼はまだ、自分の属性が開花していない。
出来ることは『強化』と『魔力操作』の授業で学んだことだけだ。
──しかし。
それを把握しているからこそ、彼もまた学んでいたことがある。
「それはありがたいね。だったら、俺の魔力操作がどれだけ巧いか見てくれよ。
さっき空中に浮いたまま蹴りばかりを繰り出せるぐらい、魔力操作が出来るメイジに見てもらえるなら、これほどありがたいことはない」
ジーンズの後ろポケットから、T字型の棒を取り出す。
それを勢いよく振り下ろした瞬間……棒の部分が伸び、一つのステッキと成った。
「さてそれじゃあ……見てもらおうか」
同じく半身になり、杖をついた腕を前に出して、構える。
メイジとは違い、そこには戦う意志がありありと見て取れた。
「──ふっ!」
手の中にあるステッキをクルリと回し、その先端をメイジに向けて突き出す。
一歩退きながらその先端を掴もうとしたメイジの動きに、レイシクルは握っている杖に力を込め、その先端を再び地面へと向ける。
そして地面を突くと同時、そのステッキに『魔力移動』を施して強度を増させ、そこを第三の足として起点にし、回し蹴り。
が、『魔力操作』を施した腕でそれをガード──されたと同時、再びステッキによる刺突を斜め下から放つ。
その攻撃は首を後ろに動かすことで躱されるが、同時、メイジに腕で防御された蹴りを再び放つレイシクル。
もちろん全身に『魔力操作』をかけ、身体のバネを全力で活かす形だ。
斜め上から迫る蹴りを再び腕で防御するが、今度は振り上げたステッキを振り下ろす連撃。
再び一歩下がることで避けられるが、地面を杖で叩くと同時そこを起点に今度は飛び回し蹴りを、さっきまでとは違う逆の足で放つ。
……まるで、さっきまでのメイジとレイスの戦いだ。
『魔力操作』を用いた近接戦闘で攻める挑戦者側と、魔法が使えるのに使わずに対処する強者側。
ただ違うのは、今回は強者側に余裕がない部分だろうか。
しかもレイシクルに至っては、メイジの時とは違い、魔法を使ってすらいないのに、だ。
──杖を使った、蹴りを主体とする格闘技がある。
彼はドールに言われた身体の重心を鍛えるためと、結局強くなるためには筋肉だけではなく、戦う術を身につける必要があるという結論に達し、その格闘技を学んだのだ。
ただそれは、魔法使いにとって考えられないことではある。
なんせ格闘技というのは、人間が作り出した叡智の一つで、魔法使いにとっては『魔力操作』で真似事が出来ることとされているからだ。
しかしレイシクルは、それを学んだ。
人間に頭を下げ、一人の魔法使いとしてではなく、一人の人類として。
学んで上で『魔力操作』を用いれば、それだけでさらに強くなれると考えて。
自分の体一つで強くなる。
その格闘技の理念はどこか、機械の理念と似ているとも言える。
……奇しくも、ドール達が訴えている「機械との共存」を、別の方向性で形にしたようなものなのだ。
ただそれを本人は自覚していないし、周りも分かっていない。
きっと今まで、『魔力操作』だけでは、一定のレベルに達してから上にいくことがないからだろう。
……それでも……少なくとも今だけは……。
人間との共存体の方が、純粋な魔法使いを上回っているのだ。
「はぁっ!」
不利になっていることを自覚してか。メイジが反撃に出ようとその腕を振るう。
『泥水』の刃と化したその攻撃を、レイシクルは一度杖で受け、ほんの数瞬だけ食い止めたかと思ったら身を屈めて躱した。
──そのまま流れるような動きで、足払い。
が、これは『魔力操作』で足を強化することで、避ける間もなく防がれる。『魔人』化しようと魔力総量は変わらないが、魔力を集める場所を一点に集中すれば、レイシクルの全体に移動させている『魔力操作』で破られるなんてことはまずない。
だからこのままカウンターで魔法を当て──
「っ!」
──るよりも先に、メイジの顎に衝撃が走った。
……いつの間に。
きっとそう思ったに違いない。
警戒していたはずなのに。
視界の下からステッキの先端が、突き上がってきた。
……レイシクルの強さは、格闘技の訓練をしたことではない。
それを『魔力操作』でさらに強くしたことにある。
普通の動きなら出来ないことを──手元にあるステッキを『魔力移動』で操作して、地面スレスレから上に投げ飛ばすように操作するなんて攻撃方法を取ることだって、出来るようになった。
『魔力移動』で伸ばされ、操作されたその攻撃は、足に魔力を集めていたメイジにはかなりのダメージになっただろう。
ガクンと、膝から崩れ落ちる。
そんな彼女の脳天に、ステッキを振り下ろす──
「……ぐっ!」
──ことは、叶わなかった。
魔力を全て衝撃波とし、自らの周辺に放ったから。
「がっ……!」
文字通り吹き飛ばされ、背中から壁に叩きつけられた。
一瞬、息が止まった。
集中力も切れた。
……たった一撃。
これだけでもう、レイシクルの負けが、決まってしまった。




