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魔王が唱える機械必要論  作者: ◆smf.0Bn91U
幕間(秋)
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『魔人』化現象

「っ!」


 空気の変化に気付いたのは、全員だった。

 この、戦いの成り行きを見守っていた、『魔力操作』の授業をとっていた全員。


 目に魔力操作を施すまでもない。

 肌から感じる強い魔力。


 魔法使いの本能が告げる、この場から離れたほうが良いという訴え。

 全身が震え上がりそうな魔力の奔流。


 ……だけど、それは一瞬だった。


 ゆっくりと、メイジが立ち上がる頃には……何もなかった。

 さっきのは気のせいだったとばかりに、何も。


 ただ、立ち上がったメイジに、違和感だけが残るだけ。


「メイジ……」


 だけど、レイスだけが。

 彼女のことを認めたレイスだけが、何もなかったとは思わなかった。


 あの、強い違和感そのものが、彼女の中に内包されたことが、容易に想像できたから。


 目に魔力を集めても分からない。

 魔力操作でどれだけ感じ取ろうとしても何もない。


 けれども、確かに。

 いつもとは違う彼女が、そこに立っているのだ。


「…………」


 何かを確かめるように、メイジらしき人が、自分の手を見つめながら、開いたり閉じたりしている。


「メイジ……?」


 始めて、彼女相手に警戒しながら、レイスは声をかけた。


 それが嬉しかったのか。


 メイジは笑った。


 不気味なほどに。


 彼女らしくない、満面の笑みを浮かべて。


「っ!!」


 本能的な動きだった。


 咄嗟に、自らを飲み込むように現れる大きな『蛇』を放っていた。


 ドールとの戦いでも見せた防御魔法。

 種子から開花させた属性はとっくに無くなり、魔力の塊で作られた『蛇』が現れただけ。


 だけど、それで十分だった。




 とりあえず、死なない分には。




「…………」


 メイジが、手を横に振るう。

 大きく距離が開いている。


 にも関わらず、それだけで……一閃の軌跡を描く泥が、レイスに迫る。


 その『泥』を蛇が喰らった。


 喰らった分だけが消え、喰らわなかった分はそのまま、レイスの両腕を傷つけ、後ろにあったフェンスを、横一線に真っ二つにした。


「なっ……!」


 高圧力の水を放つ機械が、この世界にはある。

 ウォーターカッターと呼ばれるソレと、原理は同じだ。


 しかし機械に詳しくないものから見れば、細い『泥』が刃と成り、メイジの腕から放たれたようにしか見えなかっただろう。


 ……もし、レイスが本能に任せた防御魔法を展開しなければ……今頃彼女は、真っ二つになっていた。


 今、彼女の背後で、大きな音を出して崩れている、あの鉄製のフェンスのように。


 それは、誰の目から見ても、明らかで……。


 プライドとか、訓練とか、そういう次元の出来事では無くなっているのは、明白だった。


 殺し合いではないとおかしいレベルに達していた。


「……なるほど……」


 周りが、それを認識し、恐怖している中……当のメイジ本人は、ガシャガシャと崩れるフェンスの音を聞きながら、一人何かに納得している。


 その声色に、メイジ特有のお嬢様口調からくる発音も、明るさもない。




 ただ、底の見えない深さと暗さがある声だった。




「……っ! メイジ……! あなた……!」


 少しだけ魔法で切られた己の腕。

 そこにある違和感に、レイスはあることに思い至っていた。


 その姿を外野で見ていたエスリンもまた、レイスの異変に気付いた。

 切られた傷口に付着していた『泥』。

 思えばメイジの魔法はあくまでも『泥』であり、『泥水』ではなかった。

 つまりあの泥水による一閃は、彼女が持つ『泥』に『水』の属性が付与されていたということになる。


 それだけならまだ分かる。

 種子を開花させれば元の属性と混じった魔法が使えるのだから、その呪文を聞き逃しただけということで納得できる。


 しかし、今。


 レイスの腕に付着している『泥』は、徐々にレイスの魔力を腐らせている。


 無くなっているのではなく腐っているという部分がミソだ。

 このまま魔力を全身に巡らせても、魔力は巧くレイスを強化してくれないだろう。

 『蛇』と化して体外に出すとなれば、どうなるか分かったものじゃない。


 ……そう。


 つまりメイジは、三つの属性を操ったということになる。

 『泥水』という属性だったのを隠していなかったのなら、だ。

 ……いや、『泥水』という属性だったなら、あんな補助的な使い方ではなく、今回みたいな攻撃的な使い方を最初からしていたはずだ。


 ならばこれは、普通に「あり得ないこと」になる。


「これは……!」


 そんなあり得ないことが出来る状況に思い当たるのは、一つだけ。

 『魔力操作』とは別の、座学メインの授業で聞いていたことと、あまりにも合致する。


 肌から感じた、魔力に直接伝わるような違和感。その変化を一気に内包したかと思う程の“戻り”。

 そして、一気にあらゆる魔法を扱えるようになる。

 全ての『種子』が、魔法として『開花』したかのように。


 だから、幾つもの属性を、一気に扱えるようになる。


 その正体こそ──


「『魔人』化……!?」


 ──エスリンの口から、驚きの声と共に、その現象の名が紡がれた。


 魔人化──世界が仕掛けた「人類全てを目減りさせるための仕掛け」。

 しかしそれは、ほとんどの魔法使いには知られていない。


 ほとんどの魔法使いにはただ、「魔法に愛された存在」として認知されている。


 素数の年齢の時に聞こえる声。

 その言葉に寄り掛かった時に、開花せず種子として存在したままの才能ぞくせい全てが開花される。

 またその当人の魔力は、常に世界から供給されるようになる。


 つまり、複数の属性の魔法を、際限なく使えるようになるということ。


 人類を殺す手段ではないのにそんなことが出来るようになるならば、確かにそれは、「魔法に愛された存在」と呼ばれてもおかしくはないだろう。

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