魔法による反撃
「……っつ~……! 今のはさすがに効いたな~……」
拘束されていた泥の足場からも吹き飛ばされ、地面に転がっていたレイスは、上体を起こして自分の身体を確認しながら、脚で挟まれた右腕を何度も上下に振る。
その二の腕には幅五センチ程の泥の線。
逆に前足だった左足首には、泥の手形が付いている。
この『魔力操作』の授業に限らず、生徒たちは基本的に動きやすい格好をしてくる。レイスに至っては特にソレが顕著で、胸元の開いた服と太腿が露わになっているデニム生地のショートパンツと、その自らが作り上げた褐色の肌を惜しげもなく晒している。
肌の色的には目立ちはしないが、格好が格好だからか、メイジが付けたその泥の跡が際立っている。
それはただ体表に魔力を集めるのではなく、しっかりと放出するために魔法として放った証だ。
大量の魔力を魔法とし、ゼロ距離でぶつけたようなもの。
だから互いに吹き飛ばされる程の反動が生まれたのだろう。
「いえ、まだまだですわ。
もっと他にも、それこそ魔力操作ではない普通の魔法で、あなたに負けを認めさせますわ」
泥で汚れた服を気にせず、ゆっくりと立ち上がりながら、レイスを真正面から見据える。
「確かに、魔力操作じゃあたしの負けかもね。
でも、それ以外でメイジに負けることは無いと思うけど」
「どうでしょうね」
「ううん。これは絶対。今の魔法を見て分かったことだから」
挑発している訳ではない、極々普通に真実を告げるような物言い。
その言葉遣いで、自分のことをまだ認めてもらえていないことが分かり、メイジは少しだけムッとする。
「まあでも正直な話、メイジが魔法を使えるとは思ってなかったからビックリしたわ。
今まで使ってなかったのはワザとかって思っちゃうわマジで」
言いながら、「よっ」と勢いをつけ立ち上がる。
「じゃあまあ、魔力操作だけで戦う必要もないってことね」
「……?」
その、言い方に……メイジは少しだけ違和感を抱く。
「あなたが魔法を使えるんなら、あたしも魔法を使わせてもらうわ」
「っ……!」
今更ながらに、気付いた。
レイスが全く魔法を使っていなかったことを。
こちらの連撃に魔法を使うタイミングを見つけられないだけかもと一瞬思ったが、彼女の魔法を考えれば、そんなことあり得るはずがない。
まして自分の魔法に対して絶対の自信を持っているレイスのことだ。どんな状況であれ自分の魔法が使えるよう練習していてもおかしくはない。
つまり、ワザとメイジに合わせて、魔法を使っていなかった。
メイジが魔法を使えないものとばかり思っていたから。
だから……メイジが魔法を使えるのなら。
レイスがもう、その枷を付けたままでいる理由がない。
「正直、こればっかりは嬉しい誤算だわ。
メイジが魔法使えなくてもめっちゃ強かったら、どちらにせよ魔法使うつもりだったけどさ。でもそうなるとなぁんか、こっちが負けたみたいになるじゃん?
あの男の先生と同等に扱ってるみたいでさ。
でも、そっちも魔法が使えるんなら、そういう考え持つ必要無くなるし」
言いながら、『蛇』の魔法を展開。
ここから、本気の戦いだ。
メイジも構える。
少しだけ腰を落とし、魔力操作を全身に広げ、『泥』の魔法で生み出したものを相手に飛ばせるよう、準備する。
レイスと二人きりになった夏祭りの時、彼女が見せてくれた『蛇弾』という魔法。それをヒントに、ただ泥を生み出すだけの魔法を、目眩ましとして放てるよう練習している。
レイスが『蛇弾』を放ってきては、見て避けることは難しい。
目に魔力を集中させ、変質させることで動体視力を上げれば見えることは出来るだろうが、躱すための運動神経がメイジには無い。
だから、受ける。
全身に広げた魔力を、瞬時に『泥』化し体表に出す。
それを固めた上で再び全身に魔力を走らせて、二重の防御を身体に施す。
正確な威力は分からないが、何度来ても何度もそれで防御し……レイスが焦れたところでさっきの目潰しをし、再び格闘戦に持ち込む。
そんなメイジのプランは──
──我に眠りし目覚めぬ種子よ──
──レイスの詠唱が聞こえた段階で、破綻した。
──水を喰らう水蛇の化身よ
開いた花の力と交じりて
今一刻の芽吹きをここに──
唱え終えたレイスはすぐさま、そのいつもとは違う『蛇』を具現化する。
自分の周りを纏うようにではなく、地面を這う普通の蛇のように。
だがその大きさは、いつも彼女が具現化する『蛇』よりも小さい。
いつもの『蛇』が術者であるレイスの腕とほぼ同じ大きさなら、今回生み出されたのは彼女の指二本分といったところか。
「……なに……?」
その、小ささこそが、逆に怪しい。
魔力で作られた半透明の『蛇』を見て、メイジは改めて警戒する。
指先の大きさを持つ蛇の頭を放った『蛇弾』なんていう速度特化の魔法があった程だ。眼前の魔法もただ魔力を『蛇』の形に具現化しただけのはずがない。
「そう警戒しなくてもいいって。『蛇弾』みたいにいきなり喰ったりしないから」
でも──
とレイスは続けた。
「コイツは、水を喰らったらすぐに大きくなるんだけどね」
──瞬間、地を這い、『蛇』がその名の通りの動きを再現しながら、メイジへと迫った。




