『魔力操作』の強さ
もちろん、ただ泥化させただけじゃない。
最初に防御されたただの回し蹴り。
蹴りを放ったのとは違う足──軸足に集中させていた魔力はそのまま、そのぬかるんだ地面を、少しだけ固めてみせた。
『泥』化させることも出来るなら、その逆もまた可能。
理屈としては簡単だが、実際にやるとなればそれなりに練度が必要になる。
それをメイジはやってみせた。
だからレイスは、地面がぬかるんだせいで力強く踏み込めず、だからといってその場から脱出しようにも、地面に足ごと捉われてしまったためそれも叶わない。
両足を誰かに掴まれているような今の状況から、抜け出せないのだ。
だがそれでも──
「……ちっ」
──メイジは、攻めきれない。
『魔力操作』で整った人外の身体バランスを持ってしても、ただ魔力操作をしているだけのレイスに傷一つ与えられない。
さすがに、脚だけに魔力を固めているメイジの攻撃を、そのまま棒立ちで受け止めてはダメージが入ると踏んでいるのだろう。彼女の着地しない蹴りの連続は、魔力を腕に集めることで防御している。
もし、攻撃する箇所に集めたメイジの魔力が、レイスが全身に巡らせる魔力の総量を超えないのなら、わざわざ防御動作を取る必要はない。魔力移動を全身に行って、攻撃されているのも気にせず動けばいい。
ただ逆に考えれば、メイジは局地的に魔力を集めなければ、レイスにダメージ一つ与えることが出来ないということでもある。
ずっと中空に浮いたまま蹴りばかりを放つのも、全身に巡らせて身体バランスや筋肉量を調節した後、今現在足に集めているよう魔力を腕に集めるのは、まだまだ苦手なのかもしれない。
攻めきれないが故にその弱点を晒してしまった──もしかしたら悟ってしまったかもしれないと気付いたのだろう。
あらゆるミスによる舌打ちがメイジの口をついたのは仕方がない。
ならばと、メイジは次の手段に移ることを決めた。
浮かしていた上体を逆さにし、地面に手を付き・逆立ちの状態で、脳天を狙った蹴りを放った。
もちろんコレも防がれてしまう。いやむしろ、さっきまでよりも隙が大きい。
それを狙わぬレイスのはずがない。
両腕を交差させるよう、その脳天を狙った蹴りを防御した後、すぐにその右腕を引き、上体の捻りだけで、その自らの正面にあった足の付け根を狙って殴りかかる。
──かかった。
瞬間、メイジは手を地面から離し、わざと肩から落ちる。
自分が泥化させた地面にだ。服が汚れるのも気にしない。
そして彼女の空振った腕の──肩の近くにある筋肉。
上腕二頭筋よりも少し上を、その脚で交差させるよう挟み込む。
レイスにしてみれば、突然片腕に体重が乗っかった形だ。
さすがにこればかりはガクンと、姿勢を崩す。
そして腕を足に挟んだまま、そのレイスの足首を、これまた交差させるようメイジは掴んだ。
お腹側をレイスに向けたまま。さながら大きな弓がレイスの身体にくっついたようにも見える。
──そう、見えたのは一瞬で。
「ふんっ!」
バチン! と思いっきり皮膚を叩いたような音と、電気が弾くような音が混じり合ったものが聞こえたかと思うと、メイジとレイスは、互いに距離を取るように吹き飛んだ。
──両脚と両手の中に生み出した魔力。
それを、双方交差させた状態から、身体を解放する力を利用すると共に放ったのだ。
腕も脚も、内側に締めるよりも外側に放つほうが力を発揮する。
局地的に防御していたレイスでも、さすがに腕に意識が向きすぎていたのか、足首の防御が疎かになっていた。
そのため足首に激痛が走り、つい咄嗟に、魔力移動をしてしまった。
“腕に集めていた魔力すらも移動させてしまった”。
反射的な魔力移動を授業で教わり、続けてしまっていたせいだ。
ほぼ同時でありながら、意識されていない方を先に攻撃する。
そうすることで、反射的な魔力移動の弱点を衝くことに成功した。
攻撃する側だったメイジは、事前に両手両足双方に魔力を分断できるだろうが、腕に何かされるとしか思っていなかったレイスは、足首を掴まれたと思っても、咄嗟に何も出来なかった。
その状態で、少し固められた泥から抜け出し、吹き飛んでしまうほどの衝撃が、その足首と腕に掛かったのだ。
こればかりはさすがに、レイスも無事では済まない。
「手応え……ありですわ!」
魔力操作を用いて身体を捻り、逆さになっていた状態から吹き飛ばされたとは思えないほど綺麗に着地してみせるメイジ。
その言葉には確かな勝利が見て取れた。
もしその手応えが勘違いで、レイスがしっかりと魔力移動を用いて防御できていたなら……初めてレイスとドールが戦ったときのように、火に水をぶっかけて蒸発する時のような音が鳴ったはずだ。
魔力が相手の魔力や魔法をかき消した音ではなく、魔力を上回る魔力や魔法がぶつけられた音が鳴ったのが、その証拠だ。




