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魔王が唱える機械必要論  作者: ◆smf.0Bn91U
幕間(秋)
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メイジの戦い方

「さて……それじゃあやろっか」

「ありがたいのですが……鬼ですか、あなた」


 さすがに真面目過ぎるウリシャをちょっと鬱陶しがっていたメイジでも、こればっかりはツッコまずにはいられなかった。

 が、当人であるレイスは飄々としている。


「鬼って何よ鬼って。

 だいたい、嘘じゃないから良いじゃない」

「え?」

「あたし、準備運動ぐらいはしてるって言ったし」


 それはつまり、今からやるメイジとの戦いは準備運動みたいなもの、と言っているのか。


「そもそもさ、今日じゃないとって言ったの、先生が来たら止められるかもってメイジも思ってるからっしょ?

 だったらあの場で追い出さないと、今度はいつこの機会が巡ってくるか分かんないじゃん。

 むしろあたしとしては感謝してほしいって感じ」

「……まあ、確かにそっか」

「で、いつでも良いけど、どうする?」


 言われて改めて、レイスを見る。

 構えを取っている様子もなければ、自分の魔法を展開してもいない。

 ただ、フラットな状態で立っているだけだ。


 ……ドールを相手にしている時は構えていた。


 何も、彼と一緒の対応をしてほしい訳ではない。

 だがそれでも、本当に何もされないのは……我慢ならない。


 さっきからの態度もそう。

 本当に自分との戦いを──自分の実力を、舐めきっている。


「分かりましたわ。

 それでは、いきますわよ」


 自分に興味を持ってもらって、ちょっと喜んでしまった。

 そこで、ちょっとした満足感に浸ってしまった。


 でも、そこじゃない。


 本当に欲しいのは……彼女の評価じゃない。

 彼女を倒せるという、自信を付けるための証だ。

 認めてもらいたかったのは事実だが、そこで終わるような気持ちで、魔法使いが宣戦布告なんて、するはずもないのだから。


「──ふっ!」


 おもむろに、少しだけ上げていた足を──強く踏みしめた。

 それでも、淑女らしい所作通りの軽い音がなっただけ。


 ──ではなかった。


「っ!」


 ただ静かに佇んでいたレイスの身体が、不意にグラついた。

 何が起きたのか当人すら分かっていない。


 その隙に、メイジがレイスとの距離を詰める。

 当然、その両足には魔力操作を用いている。

 数メートルの距離は、瞬く間に縮まった。


「はっ!」


 その、飛び込むような迫る勢いを乗せたままの中段蹴り。

 脇腹を狙った回し蹴りはしかし、少し身を屈めて高さを合わせた腕で防御される。

 ただそれは織り込み済みなのか。

 メイジはここでようやく“全身に己の魔力を巡らせる”。


 格闘訓練を受けていないただの女の子が放つ蹴りなんて、どれだけ魔力を乗せていようとも、威力はたかがしれている。

 だから魔法使いが近接戦闘をする際は、あらゆる足りない経験を補助するために、全身に魔力を巡らせ・その魔力を変質させて身体の重心を安定させ・足りない筋肉量を補強することで、訓練に費やすはずの時間を短縮させる。


 もちろん、この三点以上に必要なものも存在する。


 だがとりあえずでもこの三つがあれば、本格的に鍛えている上で魔力操作を行わない限り、魔力操作を行っていないものや、魔力操作がより巧い人でない限り、負けることはない。


 これぞ『魔力操作』の真髄。

 人間の鍛えるという努力を、魔法使いの魔力による努力で凌駕する。


 ただ今回は魔法使いが相手だからこそ、よりその精度と──その他の要素を求められるだけだ。




 そして、その“その他の要素”がそのまま、メイジがレイスに勝つための要素となり得る。




 ガードされた足をそのままに、重心と魔力を移動させ、その足を起点に全身を浮かせ、反対側の足で、今度は顔を狙う。

 跳び後ろ回し蹴りのような軌道を描いたその攻撃は、当然のようにガードされる。

 が、再びその足を起点に、地面に並行となっている身体を回転させ、今度は逆の足で脳天を狙う。


 そうして次々と、着地することなく、重心と魔力移動だけで捻りを加えた威力のある蹴りを、あらゆる角度から何度も放ち続ける。


 黒の花柄が映える綺麗なワンピース。

 その上からお腹の部分だけを守るよう、コルセットのような形状の茶革防具が、彼女の胴体を絞っている。そんな格好でそんなアクロバティックな技を繰り出しては、スカートの中が見えてしまいそうである。


 しかし、この戦いを見守っている『魔力操作』の授業を取っている生徒たちは誰も、そんなことを気にもしなかった。

 なんせそのアクロバティックと称した技自体が、人間技ではないからだ。


 ただただ驚き、戦いの行方を、息を呑んで見守っていることしか出来ない。


 そしてそんな技だからこそ、あのレイスが防戦一方に甘んじることになっているとも言える。

 さらに理由の一端として、おそらくはレイス自身の足元も関係している。


 ──最初の攻撃で、彼女の上体がグラついた理由。


 それは彼女の地面だけが柔らかくなり、足首付近までその足が埋まってしまっているせいだろう。

 そのせいで動きが安定しない。

 どれだけ魔力操作でフォローしようとも、その場から抜け出さない限りは反撃もままならない。


 レイスは特に、魔力操作を極めようとしていない。

 「『魔力操作』だけで脱出できる状況」というのが想像できないからだろう。

 ほとんどが自分の『蛇』でどうにかなるせいで、局地的な魔力操作よりも、全身にまんべんなく魔力操作を施す方が良いと考えているフシが在る。


 対してメイジは、全身に施した魔力操作を、状況に応じて足先に移動させ、さらに元に戻すという行為も巧い。

 それに加えての、この魔法だ。




 メイジの魔法──『泥』。




 あの、優雅な動きで地面を踏んだ時、遠くに伸ばす魔力移動を応用して、レイスの足元にその魔法を発動させたのだ。

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