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魔王が唱える機械必要論  作者: ◆smf.0Bn91U
幕間(秋)
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55/69

戦闘開始前

 それは、九月に入ってすぐだった。


「パラットさん、勝負して下さいまし」


 授業が終わってすぐ、メイジ・ルコリティは約束事を果たしてもらおうと、その相手に声をかけた。


「ん? 今日で良いの?」


 かけられたのは、この学校において天才の名を欲しいままにしているレイス・パラット。

 夏に入ってより黒くなった肌にさらに強調された大きな胸。細い腰回りに妖艶な雰囲気を醸し出した、かなり露出度の高い服装をしたギャルっぽい女性だ。

 見た目に反した実力者、という表現が正に的を射ている。


「ええ。むしろ今日しか無いように思いますけど」


 対して声をかけたメイジは、金色に流れる綺麗な髪と高い鼻筋、生まれながら外見が一つ飛び抜けていると言っても過言じゃない程の美人ときている。

 だがその高飛車な雰囲気や強すぎるお嬢様口調然とした喋り方が、外見の綺麗さを少しばかり損なわせているように思う。


「それとも、あの時の約束を無かったことにされますか?」


 約束……というのは、お祭りの日、二人きりになった時にした勝負のことだ。


 メイジが初めて、レイスに“見てもらえた”日。


 彼女にとっては忘れられない出来事だった。

 魔法使いにとってはかなり覚悟が必要になる、宣戦布告めいたことをしただけの価値はあったと、今でも思うほどだ。


「まさか。

 でもほら、今日アイツいないし」


 エリアを借りて魔法の練習をする際、そのエリアの担当となる先生が見守っている必要がある。

 いつも放課後に居残って、授業内容を復習する際はいてくれるのに、今日に限ってその男性教師であるドールがいない。

 いつも放課後になるとすぐいなくなる女性教師の、小さな女の子に連れられてどこかへ行ってしまったのだ。

 これでは今いるこの、少し狭い学校の隅の敷地を使うことは出来ない。


わたくしたちは『魔力操作』の授業をやり直したい訳ではありませんわ。

 ただ、私のワガママを聞いてほしいだけ。

 でしたら許可も何も無いでしょう? 勝手にこの場所を使うだけの話なのですから」

「……ま、言われてみたらそっか」


 レイスにしてみればその言い分は、都合の良い解釈というか、そもそも先生が見守っている本質を無視した自分勝手理論甚だしいとしか思えなかった。

 が、それ以上に、メイジとの約束事を果たすことのほうが面白そうだったので、その気持ちはあっさりと捨てることにした。


 そもそも自分が負けることはないし、殺されそうになることもない。自分が相手を殺さないようにすればいいだけ。なんせ自分は天才なのだからソレぐらい出来て当然だ。

 ぐらいの気持ちだった。


「っていやいや、そういう訳にもいかないですよ」


 ただまあ、この話は『魔力操作』の授業が終わって、先生たち二人が出ていってほぼすぐに始めたもの。

 他人の話を聞いていない生徒がほとんどの中、ここ最近レイスの近くにいることが多い、真面目さがウリのウリシャ・ミミーシアの耳には届いて当然だった。

 となれば、彼女が止めに入らない訳もなく。


「もう先生たちもいないのですから、早くこの敷地から出ないと」

「でもこのままですと私達、こことは違う場所で同じようにやり合うだけですよ? どうせそうなるなら、この人気のない隅っこの方がよろしいのではないですか?」

「いや、そもそも戦わないという選択肢をですね……」

「それはありませんわ。

 だってこれは、私のプライドの問題ですもの」

「だったら余計に先生が立会人としていてくれる時のほうが良くないですか?

 でないと、相手を殺さないよう全力を出せないんじゃ?」

「いや、それはないでしょ」


 言ったのはレイスの方だった。


「あたしがメイジを殺しちゃうようなほど力出すと思う?」

「……その言い方ですと、私には負けないと言っているようですわよ?」

「そう言ったつもりだけど?」


 あっけらかんと言うその言葉に、挑発の色はない。

 本当に、純粋に、そう思っているのが分かる。

 せっかく見てもらえたのに、その態度はやっぱり、メイジにとってはちょっと悔しい。


「その言い方は……」


 まああなたらしいけど、というウリシャの言葉は、ため息として吐き出された。


「……まあでも、だからって認めることは出来ないってことは分かってよ」

「ホント真面目なんだから、ウリシャは」


 やれやれ、とレイスが呆れたように首を振る。

 他のクラスメイトは話の流れが分かっているのか、その場に留まり、遠巻きで状況を見守っているだけに、一人反対している図式に見えなくもない。

 それでも引かないからこそ、ウリシャの真面目さが際立っているとも言える。


「じゃあさ、あの男を探してきてくれない?」

「あの男って……ドールさんのことですよね?

 別に良いけど……その間に戦ってるとかナシですよ?」

「決まってるっしょ。ちょっち準備運動してるぐらいだって」


 そう言って見送るレイスに不審げな瞳を向けながらも、友達の頼みだからと断れないウリシャは、駆け足で敷地から出て行った。

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