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安い犠牲と決着

 『並行世界』の魔王が、機械と魔法の融合を目指す理由。


 それは、機械に魔力を通すと、物に魔力を通すのとは違う結果が伴うからだ。


 魔法使いが好んで使うものは、手作りや昔ながらの物が多い。

 しかしそれは人の情や信念のようなものが入っているからなのか、どちらかというと“人の身体の延長”としてみなされる。

 私が授業で魔力を伸ばす練習にと長い木材を買ってきたのも、それが理由だ。


 結局の所基準は世界に決められることになるが、自然物や人工物は、どうしてもそういったものになってしまう。


 だがそれが、今彼が咥えて投げた片刃の短剣のような“機械による量産品”となれば違う。


 そうして創られた機械が産み出した機械……とでも言えば良いのか。

 要は“機械そのもの”だと世界に認識されるものは、魔力は通しづらいが、もし通ってしまえば、相手側がどれだけ防御に魔力を割こうとも、その魔力をすり抜けてダメージを与えることが出来るようになる。

 普通に魔力を通すよりも約千倍程の魔力が必要になる上に、かなりのコツを必要とするが……もしそれが出来れば、その機械は“魔法使いの魔力防御を貫通する”。


 どれだけ強くても、魔力が宿っていなければ、魔力を通した全身に全くダメージが入らない機械。

 それなのに、ほんの少しでも宿せれば、今度はどれだけ魔力を通していようともダメージが入ってしまう。

 ある種世界のエラーにさえ思えてしまう、正に魔法使い専用の防御無視攻撃をする道具。


 それが、“機械そのもの”だ。


「な、なんで……!?」


 だから、ああして腕に刺さってしまう。

 もしかしたら、生まれて初めて、他人に傷つけられたかもしれない。

 魔法使いにとって怪我をするとは、それほどまでに衝撃的なことなのだ。


 そんなことがこれからも起きないとは限らない。

 だから魔法使いは機械を受け入れ、このことを周知し、再び新たな形でも良いので、人と共に歩んでいく必要がある。


「っ!」


 痛みで乱れた集中力。

 それでも一度放出した『念動力』の魔力は消えない。


 だがその腕の動きは止まってしまった。


 それでもリフレシアは、何とかソレを操作して、ドールの足を止めようとする。


 後ろは壁。

 逃げ道も無い。


 そんな中で見えざる腕を五本操作して、あらゆる方向からドールを掴もうとする。

 おそらく、ドールの手に握られている中剣二本を警戒しているのだろう。


 ……いや、あの表情は恐怖しているのか。


 一度でも自分を傷つけてきた武器を投げてきた。

 それと同系統のものを持っているとなれば、また傷つけられてしまうかもしれない。そう思ってしまうのは必然だろう。

 仕組みは分からないが、何か魔法道具のような一種なのでは、と。


 彼女は、機械量産品だからこそ傷つけられたという事実を知らない。

 だから今、ドールが持っているあの二本の中剣が、手足の延長としてみなされる人の手によって造られたものだということを知っていたとしても、ああして怯えてしまう。


 そしてその感情は、彼女の魔法の精細さを欠くことになる。

 人一人を掴もうとするその腕の動きは、本当にチグハグだ。

 もう少し統一されていれば、その一本で彼を掴むことが出来たかもしれない。


「ふっ!」


 身を捻って躱しながら、中剣二本を投擲。

 顔と足を狙ったその攻撃を、『念動力』で何とか弾き飛ばす。




 その動きでがら空きになった胴に向けて、ドールの左腕が伸びる。




 剣を手放したのは、彼女がその剣に向けてさらに恐怖しないようにするための配慮だろう。

 恐怖が暴走した結果、彼女がどうなるか分からない。

 もし年齢が素数なら、魔人化してしまう可能性だってある。


 ソレを避けるために取ったその行動は……死ぬことはないという安堵を、リフレシアに与えたのかもしれない。


 強張っていた表情が、少しだけ緩んで見えた。


「終わりだ」


 その、ほんの少しだけ削がれた戦意を見て、ドールがそう呟いた気がした。




 ──瞬間、リフレシアの身体よりも大きな掌の形をした『念動力』による見えざる腕が、現れた。




 自動防御。

 レイスがやった、自分に迫る攻撃を、大きな『蛇』で喰らったのと同様だろうか。

 攻撃が当たると思った瞬間、本能的に発動できるようにまで使い込んで、咄嗟に発動できる程にまで昇華させた魔法。


 このまま殴れば力が反射されたかのように弾き飛ばされる。

 そんな魔法に見えるのだが、ドールは気にせず、口元の笑みを張り付かせて、その腕を伸ばす。


「くれてやるよ」


 いつかの戦いで言っていた彼の言葉が、頭の中を反芻する。


 大きな見えない掌に、自分の掌を重ねた──と思ったら、少しだけ離す。

 そして前足を少しだけ上げ──地面を叩き踏むと同時、腕を再び前に伸ばした。


 ゼロ距離打撃。


 相手に触れた状態から放つその打撃は、全魔力を掌に集めて放つ、ドールの必殺技の一つだ。


 しかし全ての魔力を集めるせいで、そこに防御用に回す魔力は残されない。


 魔法を持たない彼は、魔力が体外に出ることはない。

 しかし『生命』の魔法で生み出された彼は、本能的に自分を守る魔力を残す人間とは違い、意図的に全て攻撃に回すことも出来る。


 そのせいで、相手の出している『念動力』の魔法を打ち砕いた、その放出される魔力の余波が……彼が触れている腕にまで、影響を及ぼしてしまう。




 結果、彼の左腕が砕けた。




 ……いや、その表現は正しくないか。

 無理やり引っ張って取ったかのような断面。

 肉の破片がその腕にぶら下がっている。

 鋭利な刃で切ったようなものではないその粗雑さが見て取れる傷口は、痛々しいを通り越してただただ怖い。


 千切れ、その先は消失した。


 だが、そこまでしなければ破れない魔法だったということでもある。

 ……ドールの魔力は貫通し、彼女のお腹に当たった。

 防御分すらも攻撃に回したその魔力打撃は、彼女の属性である『念動力』と同じようなもの。威力は桁違いだろうが。


「さて……今度こそ終わりだ。

 お前にも色々と考えてもらうぞ、『念動力』の魔王」


 腕がちぎれているとは思えないほど静かな口調で告げ、ドールは構えることが出来ないながらも全身に込めていたその力を、ようやく解いた。

 これで秋の本編は終わりです。

 短いですが……。

 ただ次の幕間とちょっとしたエピローグ的なもので終わりです。

 もう少しお付き合いください。

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