過去の象徴の打倒
「あなたは、かつての魔法使いの環境を望んでいる。
でもそれは本当に必要なことですか?
今必要なのは、機械と魔法を共に歩ませる世界。
あなたには、最も新しい魔王としての立場で、人と魔法使いとの架け橋になってほしいと、私達は思っています」
「……そのための、過去への回帰よ。
機械と共存することなんてしなくても、それが一番良いに決まってる」
「過去は、かつて勇者に滅ぼされました。魔法使いは生きていようともね。
だからそれと同じことをしても、また同じような存在に滅ぼされるだけです」
「魔人ってやつ?」
「ソレは知ってるんですね。
でも、それじゃない。
ソレはあくまでも、神が魔法使いを用いて、人間と魔法使いの両方を減らすためにと作り上げた新たなシステムです。
確かにソレにも機械は必要でしょう。
でもあくまでも、機械が在れば楽になる、と言うだけ」
だから、と続ける。
「私達魔法使いが恐れるべきは、魔物の方。
勇者を生み出すシステムは壊された。
けれどもそれは完全じゃない。
だから利用することが出来る。
そうして、それによって生み出される存在は、勇者と同じで、魔法使いではどうすることも出来ない。
それなのに勇者の機能として呼び出されるせいで、人間には全く危害を加えない。
ソレに対抗するためにも、機械と魔法は、共に在らなければならない」
「なにそれ。聞いたこともない突拍子もない話ね」
「……まあ、確かにその通りですね。
でも、ただ過去に戻るだけではどうにもならない。それが分かってくれれば、魔法が優れていた過去が如何に素晴らしくても、戻ろうという気にはならないですよね?」
「? どういうこと?」
「ここにいるドールが、あなたを倒す」
ずっと隣に立っていた彼の腕を、ポンと叩く。
「だって彼こそが、あなたが目指す過去の象徴そのものですから」
「は?」
「彼は、勇者と共にいた、勇者一行の生き残りです」
「……は? なに、そのデタラメ。
嘘ならもっとマシな嘘をつかないと。
だいたい勇者云々の話なんて伝説そのものじゃない。何世紀も前の話持ち出してきて。
そんな年月生きてるなんてそれこそ魔王しか──」
言いかけて、気付く。
「──もしかしてその人が、『並行世界』の……!?」
「いいえ。さすがにそれは違いますよ」
いや、気付いていなかったか。
「魔法使いは条件さえ満たせば歳を取らないようになることは、魔王に成ったあなたなら分かるでしょ?
つまり魔法に関する存在は、一定の条件さえ満たせば、その寿命を延ばすことが出来るということです」
世界と契約し、己の属性を他の魔法使いにも使わせる。
それは誰かが自分の属性を使えば使うほど、使用した魔力の何割かが、魔王の元へと届くということ。
そしてその他人の魔力は、そのままだと自分の身体に吸収されることがない。
それでも魔力を渡す仕組みをと世界が動いた結果、魔力は寿命となって、魔王の元へ届くようになった……とされている。
本当にそうした原理なのかは分からないが、現に『並行世界』の魔王は、勇者が死んだ時からずっと、老けることなく生き続けている事実はある。
「今のあなたが本当は何歳なのか知りませんが……少なくとも魔王に成って、『念動力』の属性が世界に登録され、そのことが魔法使いたちに認知されて使われるようになってからは、老いが遅くなったんじゃありませんか?
「それじゃあ余計に、彼がそんな年月生きているという証拠が無くなるでしょ。
だって魔王以外でそうした存在がいるはずもない」
「あくまで魔王化は、寿命を延ばすための一例ですよ。
かつて、勇者の手によって最後に殺された魔王。『生命』の属性を持っていた彼女が、魔法使いだった頃に作り出した存在。
ソレは魔力を与えれば、老けることなく生き続ける。
それが彼、というだけの話です」
「そんなこと……! ……あり得ない」
「魔力を別けて貰うことで、歳を取らない人工的な人型の生命が魔法使いによって創られた。
今は死んでしまった『生命』の魔王の代わりに、『並行世界』の魔王が彼に魔力を与えているんです」
「…………」
「もちろん、戯言と切って捨てることも出来ます。
でもその場合、“今あなたが見ている彼の内側の魔力の流れについて、説明できなくなる”んじゃないですか?」
「……………………」
あまりにも超常的な存在を目の当たりにして、言葉を失っている。
魔力を移動させ、変質させたその目は開いたままで、口も半開き。
今見ている状況を受け入れるために、頭をフル回転させているのだろう。
……今なら大丈夫か。
“こうなるよう話を持っていって、こちらの提案に疑問を持っても流してしまうような状況を作り出すのに、遠回りしてしまった”。
『並行世界』の魔法で最短の会話を見てしまったから仕方がないといえば仕方がないだろうが。
「そんな彼と戦って、あなたが勝てば、過去に戻る価値は確かにあるでしょう。
ですがもし、あなたが負ければ……過去に戻ることに利点が無くなるということになる」
「……なんでそうなるのよ。
彼は過去の象徴なんでしょ? だったらその過去が勝つんなら、過去に戻ることは願ったり叶ったりじゃない」
「人間はちゃんと未来に進んでいるんですよ。銃も小型化し、ミサイルを担いで空を飛び、手の届かぬ場所から一方的に焼き払うなんていうのが当たり前の時代になりました。
魔女狩りをしようとしてた頃よりも、人間は強い。
それなのに、“そんな力が無かった頃の人間に魔女狩りされそうな程追い詰められた時代に、何もないのに逆行するだなんて、無謀にも程がある”とは思いませんか?」
「それは……」
「何より今の魔法使いは、かつて魔女と呼ばれていた頃よりも確実に弱くなっています。
魔王の数がその最たる例でしょう。一度世界に登録された属性は二度と登録できないせいで、昔はあった『炎』や『水』といった基礎的な属性すらも、個人の才能が無ければ生み出せない。
そんな魔法使いが、強くなった人間が今、何かをキッカケに魔女狩りを起こして、抵抗できると思いますか?
ただの魔力操作だけで──それすらも『強化』の魔法だと嘘を広めている状況で、本当にどうにかなると思いますか?」
「……………………」
「だから、新しい道を模索するしかないんです。
少なくとも『並行世界』の魔王はそう考えている。
それにそもそも今の人間は、あなたが目指している「魔法使いに頼ること」をしなくなっている。
昔はソレがあっても魔女狩りを起こそうとしたのに、ソレが無い今、魔法使いを絶滅させるキッカケがあったら、本当に何をしでかしてくるか」
「……だから、その頼ってもらえる時代に戻ろうとしているの、私は」
「未来を見続けている人間が、そうなってくれるとは思えません。
もしそれが出来て再び魔法使いを慕ってくれたとしても、やはり兵器開発が進んでいるという事実からは目を逸らせない。
もう昔のように、手放しで人間を信用してもいい力関係では無くなっているんです。
例えどんな兵器であろうとも魔力移動を行えればダメージを受けないとはいえ、世界がいつか人間に加担して、魔法使いにもダメージを与えることが出来る知識を与えるかもしれません。
だから──」
「過去に戻るのなら、少なくともその“過去”よりも強くなってからでないと安心できない、と」
「──……はい」
「分かりました。
要は、あなたを通して、『並行世界』の魔王に、過去に戻る価値があることを示せれば良いわけですね。
そしてその手段こそが、彼との戦い」
「…………はい」
「……良いわ。
だったら、戦ってあげます」
このままだと中途半端なのでと、次の話数に入る分も一緒に。
ついでに次を1話だけ載せるのもまたキリが悪くなるので、5時分の更新はストップします。
重ね重ね申し訳ない。




