最も新しい魔王
「ヴィルディットさんがどうしてそういうことをしたのか……と聞きたいところですが、実はある程度予想が出来ています。
あなたはただ、ミミーシアさんの魔法を開花させたかったのですね。
大方、過去に一度、ミミーシアさんに何か大きなピンチが訪れた時、彼女自身が一度魔法を開花させたのでしょう。
ですがそれは小さな時の話で、本人も覚えていない。
その上、その魔法のせいで何か、彼女自身が大きな後悔をしてしまった。
子供の頃にあった嫌なことは、記憶に蓋をしますからね。
そのまま成長した彼女は、自分が魔法に開花していることにも気付かず、魔法を学び始めた。
ですので同じような状況に追い込むことで、その蓋を無理やり外して、既に自分の魔法が使えることを教えたかったのでしょう?」
どうしてそこまでして……という理由もまあ、分かっている。
だがそれを話しては、私が知りたいことを知れない。
「どうして、そこまでしたのですか?」
だから、訊ねる。
「小さな頃からの知り合い、ではないのですよね? あの子が入学してから、あなたは彼女を弟子にしたと聞きました。
となれば、何か彼女にそこまで手を焼く理由があるのでしょう?」
「……彼女の魔法は、魔王になるだけの価値がある」
答えるその瞳は、師匠としての温かさ……ではない。
魔法使いとしての、冷静さだ。
「そこまでの知識があるあなたは、十分に魔法使いとしての──いえ、“魔女と呼ばれていた頃”の魔法使いの扱いも、知っているのでしょう?」
「……そうですね」
魔女はその魔法で人間を助け、助けてもらった人間は魔女に感謝する。
人間が争いで繁栄したように、魔女は慈しみで存続した。
ただそれを体現していただけの時代が、確かにかつてはあったのだ。
「ですが、それがどうしました?」
「私は、あの頃に戻りたい。
今のように、迫害する人間が多く、魔法使いを恐怖の対象として見ているだけの人間がいる時代を、止めたい」
「…………」
それは何とも……立派な目標だ。
ただ、それには一つ、勘違いがある。
昔から、人間は変わらない。
自分たちにない力を振るう魔女のことを、昔から人は恐怖していた。
争うことで繁栄してきた種族だからこそ、その力をいつ自分に振り下ろされるのかと、恐くて怖くて仕方なかったのだ。
自分たちがそんな力を持っていれば、何の疑問も持たず他人に振るい、自分の方が上だと知らしめる。
そんな種族だからこそ、魔法使いは優しさを根ざして生きている、なんてこと、信用できなかった。
だから助けてもらえれば全力で感謝した。
恨みを買わないためにと。
悪用しなかったのも同様だ。
迂闊な行動がバレればどんな報復があるか分かったものじゃない。
そんなものを知っているからこそ、彼女の望む完全な尊敬があったのかと問われれば……首を傾げざるを得ない。
人間が動いていたのは感謝じゃない。
その皮の内側には、間違いなく悪意があった。
だって、でなければ、勇者がかつての魔王を殺し尽くしたタイミングで魔女狩りを行うだなんて計画、立てるはずがない。
「そのために、ミミーシアさんの魔法が必要なんですか?
一体何の魔法なんですか、それは」
「……あなたに教える必要はないでしょう」
まあ、そう言われるか。
“並行世界”でも知れなかったそれが一番知りたがったが……仕方がない。
「でしたら、何故ソレを知れたのかぐらいは教えてもらえませんか?」
「……どうしてですか?」
「単純な興味ですよ。
なんせ私は、機械と魔法の共存を望んでいる人の傍にいますからね。
あなたの行動思想が、魔法だけを伸ばすものかどうか、知っておきたいんです」
「機械と魔法……人間と魔法使い、ですか。
私と似ているようで、大きく違いますね」
過去に戻ろうとする彼女と、新しい道を模索している私。
確かに、大きく違うが似ている。
少なくとも、魔法使いのことを考えているという点では同じだ。
「……どうして知っているのか。その答えは単純です。
私はただ、自分の授業をとってくれた生徒のことを、一人一人調べるようにしているだけです」
魔法使いのことを一番に考えた結果の行動をしているフリーシアらしいだろう。
「その中で、ミミーシアさんの魔法について知れた、と」
「彼女の過去のことで、少しね。
尤もそれも、話すつもりはありませんが」
確かにそれを話してしまえば、ウリシャの開花する属性が何なのか明かすようなものだろう。
それに何より、属性だけならまだしも、本人の許可もなく過去のことを聞くなんて、礼儀知らずでしかない。
「別に構いませんよ。そもそも私が知りたいのは、あなたが私達の目指す世界のバランスを崩す人かどうか、の部分だけですから」
「バランス……?」
「人だけでも、魔法使いだけでも、この世界は崩壊する。
あなたが魔法使いだけの世界にするような人なら、私はあなたの思想を曲げる必要がありました。
それが例え、戦うことになっても」
宣戦布告。
それは護ることによって世界に残れてきた魔法使いにとって、相当覚悟が必要なことになる。
争うことで世界に広がれた人間にとっては当たり前でも、私達にとってはそうじゃない。
「……戦う、というのは、穏やかじゃありませんね。
そこまでの覚悟があるというのは分かりましたが、逆にそこまでする必要があるんですか? だってそれは、『並行世界』の魔王の望みでしかないですよね?
あなたはそれで良いんですか?」
「良いんですよ。
だってそうしなければ、人類は滅びに向かうだけですから」
あまりにも大きすぎる言葉は受け入れられない。
それが分かっているからこそ私は、苦笑いを浮かべ、正気を疑われる前に勝手に話を進める。
「ヴィルディットさん、あなたはただ、ミミーシアさんの属性を開花させたかっただけ。
だから男の魔法使いに誘拐するよう頼んだし、講堂で彼女が捕まっている場面に遭遇しても、すぐに魔法を発動して制圧しなかった。
彼女が自分のピンチに魔法を開花させると信じて。
ただ、魔王のくせに、魔法を拒絶すると魔法自体が使えなくなると知らなかったんですね。
だからそんな大胆な手段を取ることが出来ていた」
「……………………え?」
あまりにも、自然と言ったからか。
私が言った言葉を理解できなかったようだ。
だからもう一度、言ってやる。
「知らなかったことを知って、このままだとミミーシアさんが魔法を使えなくなると困るから、すぐに恐怖から解放するためにと制圧に乗り出した。
その時あなたが使った魔法は、詠唱魔法ではなく開花した属性の魔法。
つまり、あなた自身の魔法です。
そしてその属性は『念動力』。
魔王が持つ、世界に記録された属性です。
私もよく詠唱魔法で使わせてもらいますからね。見間違うはずがありません。
そんなものを扱ったあなたは間違いなく、『念動力』の魔王」
そこで一度言葉を切り、彼女の目を改めて見据える。
「リフレシア・ヴァーデッド。
それがあなたの本名ですね」
少し長くなりましたが、キリが良いのがここだったので……。
そして次はその反動で、少しだけ短くなります。申し訳ない。




