弟子への裏切り
「…………」
私の言い切った言葉に、しばし無言で間を持たせるフリーシア。
「……よく、そんな言いがかりが出来ますね」
「言いがかり。
そう、言いがかりですか……」
「……なにか?」
「分かりませんか? その二人の写真」
言われて改めて見た彼女は、それでも気付いていないようだった。
仕方なしに答えを教えてやる。
「それ、警察からもらったものなんですよ」
「え? いやいや、さすがに警察でも、犯罪者の写真だなんて……」
「ええ、普通ならくれませんよ。
ただ相手が魔法使いで、この街の警察の一部には『勇者の魔女狩り』と繋がりがある人もいるから、上手くタイミングを合わせればもらうことも出来る、というだけです」
そのタイミングを合わせるために、何度『並行世界』の魔法を使ったことか。
警察署を訪れるタイミングや時間を、何度も何度も魔法を使って見極めて、確率が高い日を狙う必要があった。
なんせこの魔法は『並行世界』。
使うことで分かった日付けや時間に合わせるよう向かった場合、その視た未来は必ず再現されないことを意味している。
あくまでも“訪れない未来”を見ることしか出来ないからだ。
だから幾つもの日付と時間を見ることで、成功する要素を抽出する必要が出てくる。
「だからといって……春先の事件ですよ?」
「確かにそうですね。
でもこの写真は、ここ一月以内の写真です」
「それは……牢屋にいるままの彼等を写真に撮ってきた、という意味ですよね?」
「違いますよ。というか春先の事件なら、とっくに別の場所に移動させられているでしょう。
そうではなく、彼等はここ一月ほど前にも、事件を起こしたんです。
つまりこれは、“別の容疑で再び捕まった時の写真”なんです」
「それは……! だってそれって、誘拐未遂をしておいて、そんな短期間で牢屋から出てきたってことに……!?」
「惜しいですね。
厳密には、出してもらえた、でしょうか」
もったいぶった言い方よりは、ハッキリキッチリと説明するほうが好きなので、キッパリと告げてやる。
「彼等二人は、夏祭りに起きた『勇者の魔女狩り』の誘拐事件に関与していたんですよ」
「なっ……!」
驚き、写真を落とすフリーシアに、私は続ける。
「警察の一部が『勇者の魔女狩り』と繋がっていると話したでしょう? あの夏祭りの事件、『勇者の魔女狩り』にとってはかなり威信を掛けた作戦だったようですよ。少しでも戦力が欲しいからと、捕まっているその魔法使い二人を、脅しと対価を利用して使うことを思いついたみたいです。
あなたが最後、腕の一振りで大量に倒しましたよね? その中に彼等がいましたよ。
魔法使いが来た時のためにと準備させていたのでしょう」
「でもそれじゃあ、『勇者の魔女狩り』は魔法使いを利用したということじゃ……!」
「まあ、そうなりますね」
「それはおかしいじゃないですか。
だってあの集団は、魔法使いを根絶するための……!」
「だとしても、自分たちが魔法を使わないのであれば、国によって罪を背負わされない限り、何をしても構わないと考えているんですよ。
もしかしたらこれをキッカケに、この男性二人が自らを責め、魔法が使えなくなるかもしれませんからね」
まあ、頼まれたからとはいえ、魔法を犯罪に使おうとした二人がそんなことになるなんてことあり得ないだろうが。
こんなものは他の信者を納得させるための口実でしかない。
例え国が魔法使いの保護を優先しようとも、街単位となれば差別などが横行するのは当然だ。
国の意向と民の意思が統一されないことなんて、それこそどこにでもある話だろう。
「そして、彼等自身が言っていました。
あなたに雇われた、とね」
「それは……まさか、警察に捕まっているのに、話をさせてもらえたのですか?」
「さあ。どこで話せたのかは言えないことになっているので」
答え、それっぽい笑みを浮かべる。
……嘘、という訳ではない。
本当に彼等から話を聞いたのだ。
ただそれは、この世界の警察署などで直接対面してではなく、“並行世界で対面している時に話してくれただけ”なのだが。
あの、講堂で生徒たちが捕まっている中視えた世界。
そこであの男たち二人は覆面を脱ぎ、リフィイルに雇われたことを大声で告げた。
そうすることで、弟子であるウリシャにショックを与え、魔法を使えなくするために。
『勇者の魔女狩り』は本当、見習いとはいえ魔法使いのことをよく調べていた。
いやそれとも、協力を要請したこの二人の事柄だけを把握していたのか。
どちらにせよ、捕まえた中にウリシャが・敵対する側にフリーシアがいると分かるや否や、確実に一人の魔法使いを消せる方法をとってきたのだ。
自分を誘拐しようとしていた怖い存在を雇ったのが、自分が信頼している師匠だった。
そんな裏切りを知ってしまえば当然、魔法に対する恐怖心が増すだろう。
ましてその理由が、ウリシャ自身の魔法を開花させるためとなれば、尚更だ。
魔法の為ならどんなことでもしてくる。
そんな存在が相手では再び裏切られてしまうかもしれない。
そうなるぐらいなら、二度と魔法なんて開花したくない。
……そんな未来にならなくとも、それに近しい未来を訪れさせないために、あの場で私はほとんど何もせず、フリーシアに頼んだ。
そうすることで、この男性二人が正体を現す前に、事件が解決してくれると信じて。




