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魔王が唱える機械必要論  作者: ◆smf.0Bn91U
幕間(夏)
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何も出来ない悔しさを

 そうした適した対処を、彼も行いたかった。

 だから不意打ちで後頭部を殴られた後、僅かにあった意識を総動員し、全身に魔力を張り巡らせることで、追撃で浴びせられ続けた集中攻撃を、ほとんどノーダメージでやり過ごせた。


 だから後は……立ち上がるタイミングを見極めるだけ。


 手を伸ばすことすら出来ない距離まで詰められ、拘束されているに等しい状況に陥ってしまったウリシャを、助けるためには。


「……こんなに距離を詰めて……魔法で倒しても良いってこと?」


 その、間近に迫りながらも、特に攻撃する気配のない、布で顔を隠した黒ローブの男たちに向け、ウリシャが問いかける。


「私の連れを殴りまくってたみたいだけど……覚悟は出来てるってことですよね?」

「殺すことなく、我々を倒せるのかな?」


 大仰な喋り方は正体がバレないようにするための演技。

 見る人が見れば笑ってしまいそうだがしかし、その内容は的を射ていた。


 自分の属性が開花していないウリシャはまだ、魔力操作を筆頭とした授業で習ったことしかしていない。

 そしてその中に、レイスの魔法のような実戦レベルにまで昇華している魔法は、何一つとして存在しない。


 初めて実戦で扱うには不安が残るものばかりだ。

 下手に相手の戦意を削ぐことが出来ない手加減をしてしまえば、逆上して襲われてしまうかもしれない。

 だからと殺してしまえば、そのまま魔法を使って人を殺したという罪で投獄されてしまう。それを狙っているとしたら、魔法を使うことは避けたほうが……。


 今ここまで近づかれて何もされていない不気味さが、ウリシャにそんな不安を抱かせていた。


「このまま何もせず、大人しく付いてきてくれるのなら、我々は何もしない」

「…………」


 言っていることが本当だとは、ウリシャもさすがに鵜呑みにしない。


 我々、というのは、今この場で彼らを認識できる限り、という意味であるのは違いない。

 だが、誰かと合流する──それこそ似た格好の仲間たちが集まる場所に連れて行かれて、誰が誰だか分からなくなってしまっては、そんな約束、シラを切られて容易に反故されるだろう。


 それが分かっていながらも──


「……分かりました」


 ──ウリシャは、頷くしかない。


 襲われて、ウリシャの魔力操作が巧くいって、この場を切り抜けられたとして……あそこで気絶している同級生がどういった目に遭うのか、分かったものじゃない。


 ……ウリシャから見てシュウは、後頭部に一撃浴びて、倒れたところを何度も攻撃されていた。

 その中から彼を助けようとしたら、襲っていた集団が急に、こうして自分を囲ってきた形になる。

 彼が本当は魔力操作を用いて特に大きな怪我をしていないことなんて、知りもしない。


 魔力操作を使って多少相手を骨折させてでもこの状況から脱出出来ないこともないが……そうなるとシュウがどうなるか、分かったものじゃない。

 この国において、魔法を使って普通の人間に怪我を負わせた場合の罰則は、かなり大きい。

 ただの怪我なのに、普通の人が普通の人を殺したのと同じぐらいの罰になる、と言えば分かりやすいか。

 だから魔力操作の授業では、相手に怪我を負わせすぎないためにもと、魔力移動の次にすぐ、魔力変質の修得をさせようとしていたのだ。


 だからもし、魔力操作に失敗して罪を負うことになったとして……そうなってまで状況を切り抜けたとしても、彼に今以上の被害が及んでしまうのは、どう考えても旨味がない。


 だったらもっと……彼に被害が及ばない場所で抵抗することのほうが正しいと考えるのは必然だろう。


「それでは」


 相変わらず自分に触れてくることなく、首の動きだけで歩き先を促してくる。

 それに従い移動を始めれば、自分を囲っている男たちも、器用に同じ距離を保ったまま移動する。


 警察に連行されているような気分だ。

 ただその違いは、見える手錠ではなく、見えない縄に繋がれているようなものになるのだが。




 そうして距離を離し始めてくれたから、ようやくシュウは顔を上げることが出来た。




 相手にバレないように、すぐさまポケットから、常備している輪ゴムを一本取り出す。

 片方の親指に輪ゴムを通し、もう片方の手で引っ張って、張力を最大にする。

 そしてその輪ゴムに、魔力を通し、片膝を立てて相手に指先を向け、構える。


 ……彼が目指している、彼自身の魔法。

 属性を開花させていなくとも、魔力を用いて相手を遠くから攻撃するその手段。

 同じ魔法使いには効果が殆ど無いのは分かっている。

 しかしその相手が人間となれば、ちょっとの魔力でも宿っていれば、ただの輪ゴムが「怪我のしない弾丸」と成るはず。


 それこそがシュウの考えだった。

 だから……初めて使うとはいえ、今こそそれを成功させて、相手を倒す。


 一本撃って相手を倒したら、こちらに気付いた残りの四人が一斉にこちらを向く。

 そのまま次の弾を装填して、同じ要領で撃ち出す。

 もしかしたら避けられるかもしれないが、それでも隙を作ることは出来る。

 そしたらウリシャが自分の魔法を使って脱出してくれるかもしれない。


 そうした計画のもと、シュウは輪ゴムを相手に向けて放った。




 放たれると同時、普通の輪ゴムに戻ったそれは……あらぬ方向へと飛んでいってしまった。




 そして、ただの輪ゴムになったソレすらも、相手にぶつけることが出来なかった。




「……っ!」


 ……分かっていた。

 内心では、彼自身も分かっていたのだ。


 魔力操作の授業で、魔力を伸ばすという内容のものを、レイスとメイジが受けていた時点で。


 ただ、自分の狙いを否定されたという事実を受け入れるのが、怖かったのだ。

 魔力を自分から引き離すことなんて出来ないという事実を。


 魔力が属性を介して魔法と為れば、自分から離れた場所にまで魔力を飛ばすことは出来る。

 しかし魔力のままではそれが出来ない。

 故に魔力を遠くまで伸ばす、魔力移動の応用めいた訓練をする必要があったのである。


 授業内容の説明で、サラりとその事実を突きつけられ、認められなくて、だから授業でもその優秀な二人に追いつかぬよう、魔力変質の授業ばかりをその場で足踏みするように続けていて……。


 そんな自分から目をそらし、覆い隠すために、放課後に練習している皆のことを内心でバカにしながら、けれども一緒に参加したほうが良いのではとも思いながら、魔力操作の授業を受けてきた。


 その結果が、これだ。


 女友達一人すら、助け出せない。


 誘拐されそうな可愛い子を助けるために限界を超え、今まで出来なかったことが出来るようになる。

 そんな自分に期待して、でもやっぱり出来ないだろうなとどこかで思いながら輪ゴムを撃って……案の定、何にもならなかった。


「……くそっ!」


 思わず、己の拳を地面に叩きつける。

 魔法に関する授業で身につけたもので直接彼女を救い出せるのなら、最初からそうしている。

 そんな勇気が持てないから、遠距離から攻撃出来る手段を考え続けてきたのだから。


 もちろんさっき殴られた段階で、魔力操作を行えば痛みがないことは分かっている。

 分かっているのに、立ち上がって体当たり一つすることも出来ない。

 相手を傷つけるのが怖いとか、殺してしまって罪になるのが怖いとか、そういうのももちろんある。

 しかし魔力変質は足踏みを続けてきているおかげで、余程怒りに染まらない限りは、相手を殺してしまうような魔力変質を行わない自信がある。


 ……なのに、何も出来ない。


 殴るとか殴られるとかと言った行為が、痛いとか痛くないとか、傷つけるとか傷つけないとか、そういったものとは違う別の次元のレベルで恐怖してしまっているせいだ。

 生粋の臆病と言うならそうなのだろう。

 だが彼のその持ち前の基質は、魔法使いらしい「過ぎる優しさ」とも取れる。

 ただ、一長一短であるだけだ。


 だから──


「……助けなきゃ……」


 ──そのまま無かったことにも、後悔し続けるだけにも、出来ない。

 すぐさま自分にやれることを考える。

 自分から敵に攻撃できないのなら、どうすれば良いのかを。


「……俺じゃなくても良いから、ウリシャを助けてもらわないと……!」


 ようやく足を上げ、走り出す。


 既に姿が見えなくなったウリシャたち集団に背を向けるように。


 助けを呼ぶ。


 その答えはある意味、自分から殴り掛かれないのなら遠くから攻撃すればいい、という発想を得た、彼らしいといえば彼らしい結論だ。


 そして誰に助けを求めたら良いのかという答えは、すぐに出た。


 一緒に来ていた同級生……ではない。


 ならばその同級生となった授業の先生……でもない。


 すぐに見つけられない・いない人を選んでも仕方がない。


 助けを求める、という意味での最適解は、ただ一人。


「あの子の、師匠だ……!」


 魔法薬学授業の先生にして、彼女の師匠とされている、あの教師。

 この祭りに、あの場にいた人たちとこうして来る約束をした日にもいた、あの人だ。


 生憎とシュウ自身は魔法薬学の授業は取っていなかったが……それでも、話ぐらいは聞いてもらえるはずだ。


 その答えに行き着いたから、彼はすぐに走り出したのだ。




 そしてその行動の結果こそが、花火を終えてしばらくしてようやくながらも、ウリシャを助け出せるキッカケとなったのは、言うまでもない。

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