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魔王が唱える機械必要論  作者: ◆smf.0Bn91U
幕間(夏)
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効率的に

「あれ? 他の皆さんは?」

「はぐれたのかも……まあ、後で着くか、他で見てるでしょ。

 それよりも、そこまで魔法薬学に興味あるんなら、私の繋がりも紹介しようか?」


 先に目的地にしていた場所に着いたエスリンとアボニーは、そう会話をしながら屋台を軽く見て回る。

 まるでデートしているかのようだが、本人たちにその自覚は全くない。

 おかげで先程から続くその会話は全て、相変わらず魔法薬学に満ちていた。


「えっ、それは……いえ、でも……」

「? 何か問題でも?」


 話を一気に進めたがるエスリンとしては、そこで渋られるのは意外に思えた。


「だってそれって、エスリンが頑張って集めた人脈ですよね? それなのに僕が利用するっていうのは……」

「魔法使いは元々繋がり合って生きてきたものだし。

 あなたもレイスも、妙なところで一人でやりたがるこだわりがあるよね」


 まあ彼女としても無理強いするつもりはない。

 レイスの時は自分が認められたいからと多少無理をしたが、ついこの前初めて会話し、今日になってようやく長時間会話した男性相手に、そこまでの感情を抱くはずもない。




 ──そうした会話の節目、エスリンはすれ違いさまに、誰かと肩がぶつかった。




「……っと」


 衝撃でふらついたエスリンの肩を抱きとめるアボニー。

 女の子特有の柔らかい香りと、薬品なのかちょっと鉄分じみた匂いが鼻に届いて、その彼女だからこそ感じるものに、不覚にもドキッとしてしまった。


「……大丈夫? エスリン」

「……刺された」

「……………………えっ?」


 言われた意味が消化できず、間の抜けた声しか出なかった。


「今、ナイフか何かで脇腹を刺された」

「えっ!?」


 やっと何を言われたのか理解して、そのぶつかった方のお腹──右脇腹を見る。

 確かに、服が破れて、白いお腹がそこからチラりと見えた。


「……あまり見ないで」

「あっ、ごめん……!」

「良いけど……心配してくれたって訳だし」


 照れくさそうなのが伝わる、どこか甘い空気が少し漂う。


「いやそれより、大丈夫なの?」

「うん。ぶつかる前に、何か嫌な予感がして。自然と魔力移動してたみたい。

 服に魔力移動が出来なかったせいで破けちゃったけど、身体には刺さってないから血も出てない」

「それは……うん、良かった」


 授業で言っていた通り、不意打ちであろうとも、ほんのちょっと攻撃されることを認識できるだけで、しっかりと魔力で防御することが出来ていた。


 それで安堵できたアボニーは、こちらをジッと見ているような視線に気づく。

 花火の場所に近いからか、それなりの人混みにはなってきている。

 それでも、立ち止まることが出来なかったり、一方通行に進み続けるしか無いような程、人並みが出来ているわけでもない。


 だからあっさりと、その姿を見つけることが出来た。


 特にこれといった特徴もない、一般的な男性としかいえない外見。

 怪しい雰囲気も無いその人が、アボニーと視線が合うと露骨に動揺し、逃げるように一つの裏道へと入っていく。


「このっ……!」

「ちょっと待って」


 追いかけて問い詰めてやろうとしていたアボニーの手を取り、止めるエスリン。


「大方、魔法使いだから攻撃してきたんだと思う。さっきから魔法薬学の話ばっかりしてたんだし、魔法使いだってバレても仕方がなかった」


 迂闊だった、と思っているのが、その表情からすぐに読み取れる。


「だからってエスリン、このままスルーする訳にもいかないだろ?」

「……確かに。

 このままだと、花火見てる時に後ろから刺されるかもしれないか……」


 さすがに、その方が面倒だろう。

 特に今回はすれ違いざまだから気づけたが、もし花火に夢中になっている時に後ろからとなれば、さすがに魔力移動で防げないかもしれない。


「だったら、いい方法がある」


 言って、予め準備していた小さなキューブ状の瓶を取り出す。

 アボニーはすぐに分かった。

 彼女が事前に準備していた魔法が込められた道具だということを。


「それ、どうするつもり?」

「分かってるくせに」


 説明するのが面倒なだけでそう返事をしつつ、アボニーの手を離し、今度はエスリンが男の入っていった路地へと向かう。


「いや、全く分からないんだけど……反撃するなら僕が先に入るけど」

「ううん、大丈夫」


 エスリンとは違って止めることなくついてきたアボニーを制しつつ、路地の先を思い出す。

 この先どこに繋がっていたか……と思い馳せれば、そう言えばこのまま行くと行き止まりだったことを思い出す。

 おそらく追いかけて二人が中に入ると同時、上に待機している仲間と一緒に囲うつもりだったのだろう。

 上を見ても人影は無いか、魔力を瞳に宿して上を見てみれば、何か影のようなものが動いているようにも見える。


 それを確認すると同時、すぐに実行。


 路地の入口から、手に持っていた瓶を投げ入れる。

 次いで、割れる音が聞こえる中取り出した、もう一つの大きな瓶の蓋を開け、その場にビチャビチャと垂れ流す。

 見ていただけのアボニーはようやく、そこで目に魔力を集中させ、その魔力を変質させる。


 あまり長時間使えない未完成甚だしいが、その少しの時間だけで、エスリンが何をしたのかが分かった。


 路地の中へと投げ込んだのは、睡魔を誘発する魔法。

 嗅いだ人を瞬間的に眠らせるようなものではないが、眠気が少しでもあればそれを冗長させる魔法だ。この時間ならそれだけでも十分だろう。


 それにもし効かなくても、彼らはこの路地から出ることも出来ない。

 最後に撒いていたあの魔法。それは見えない壁を作り出す魔法だ。

 本来の用途は相手の攻撃を防ぐための魔法なのだろうが、それを通せんぼの要領で使っている。

 背後は行き止まりで、正面は見えない壁に阻まれている。しかもその中は眠気を誘発する魔法で満たされているときた。


「これで三十分は何も出来ないでしょう。

 それじゃあ、行きましょうか」

「えっ」

「えっ?」

「いやだって……このまま?」

「このまま」


 端的に答えて、エスリンは本当にその場を移動し始める。

 アボニーには説明していないが、あの見えない壁の魔法は三十分持続される。襲ってきたものの正体は分からないが、もし学校側が警戒を促してきていた『勇者の魔女狩り(ブーンドック)』なら、外側から仲間に見つけてもらっても、魔法を使えない以上は何も出来ないだろう。


 となれば、変に集まってくるより早く、この場を離れたが方が良いという判断だ。


 向こうから先に刺し殺そうとした事実がある以上は、眠らせて閉じ込めただけの彼女が罪に問われるとは思えない。

 もし何かしらの工作をしようとも、そもそも瓶には指紋一つ付着していない以上、エスリンがやったことだと断定することも難しいだろう。


 何より放置したままの方が、花火を見るのに適した場所取りをしやすいというのもある。

 面倒だからと説明やら色々なものをすっ飛ばしているが、それでも相変わらず、今の彼女の持ち札の中では、効率的な手段を取ったと言えるだろう。

 あと一話で終わりなので、このまま6時にもう一話更新されるようにしてます。

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