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魔王が唱える機械必要論  作者: ◆smf.0Bn91U
幕間(夏)
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成長する強さ

「こっちの道の方が近いって本当?」


 少し暗い道。

 人気のない、裏路地と言っても差し支えのない、けれども馬車や車が一台なら通りそうな、そんな道での端っこを、レイスとメイジの二人が歩いていた。


「本当です。少し遠回りになりますが、このように人気が少ないですからね。スムーズに歩ける分、向こうよりも早く着くはずですわ」


 前を歩くメイジは振り返りもせず、レイスに向けてそう返事する。

 日の入り時刻が二十一時を過ぎるこの地域では、今の時間が夕刻頃になるだろう。しかし西日の時間というものが数十分しかなく、外はまだ薄暗いといったところ。


 それを踏まえても暗いのは、道を造っている建物が、ちょうど陽を遮ってしまうからだろうか。

 正直、襲われる可能性があるから集団行動で、と言われているのなら、こんな道は避けるべきだ。


「それよりも、パラットさん。

 向かいながらで良いので、少々お話させて頂いてもよろしいですか?」

「ん? なによ。どうかした?」

「……あなたは、(わたくし)のことを、どう思っておられますか?」

「どうって……変な言葉遣いだなぁ、としか」

「そうではなく!」


 足を止めて振り返り、レイスの目を真正面から見つめる。


「私のことを、ライバルとして見て頂いてますか?」

「ライバル? ううん、全然」


 あっさりとした返事はしかし、予測できていたのか。

 メイジはむしろ一つ大きく頷いた。


「そうでしょうね。あなた程の実力をお持ちなら、私なんて眼中にありませんわよね。

 それは良いんです。

 でしたら……私のことは、どれぐらい認めてくれてますか?」

「どれぐらい? って言われてもなぁ……」

「……いえ、もう結構ですわ」

「ん?」

「あなたの目を見ていたら、分かりました。

 私と目が合ったのは、ほんの一瞬。

 今のあなたは、ただここで立ち止まっている時間が勿体無いと、そう思ってますよね?」

「おっ、正解」


 悪びれることなく正直に、あっけらかんと気遣うこと無いレイス。

 本来なら苛立つ場面なのだろうが、しかしメイジは、それで初めて、やっと、自分を見てくれている気になれた。


 だからこそ、余計に気になる。


「……どうしてそこまであのお二人の──いえ、むしろ一人ですわね。

 ウリシャ・ミミーシアさんのことを、気にしているのですか?」


 あの子が既に、今の自分とは違い、レイスに見られている理由が。


「あの子は、私とそう変わりません。

 いえむしろ、実力で言えば私のほうが上のはずですわ。

 それなのにどうしてですの?」

「いや、気にしてるって訳じゃないって」

「ですがあの子のことは、眼中にありますよね?

 私よりも成績が低い、あの子の方が」

「成績とかじゃないんだって。

 ただ、あたしが否定したのにずっと頑張ってるところとか、そういうのが気になって声かけただけ」

「……でしたら──」


 私は頑張っていないということですか?

 ……そう訊くのはあまりにも情けないことのような気がして、言葉が詰まった。


「ん? なに?」

「──いえ。

 でしたら、私もあなたに、認めさせますわ」


 人差し指を彼女に突きつけ、そう力強く、宣言する。


 要は、タイミングの問題だ。

 男女が付き合う時と一緒。


 もし、努力している場面を見られたのが自分で、それを否定されても頑張っていたのが自分だったら……ウリシャのポジションには自分が収まっていた。


 しかし、その未来はもう、手に入らない。




 だったら、今の自分が、掴み取るしか無い。




「世間一般の夏休み明けの秋、私と勝負して下さい。

 そこで、私の実力をお見せしますわ」

「……へぇ」


 レイスは“やっと、メイジのことを見た”。


「良いの? メイジって多分、まだ自分の属性も開花してないでしょ? それなのにあたしと戦って勝てるの?」

「勝ちますわ。そしたらあなたも、私を認めてくださいますでしょう?」

「良いって無理しなくても。

 天才のあたしに勝てなくても、いい勝負出来たら勝手に見ることになるだろうし。

 そうなったら認めるも何もないって。

 それこそ、あたしにとってのライバルよ」

「いいえ。勝ちます」


 否定しての力強い覚悟の言葉に、レイスも自分の口角が上がるのを抑えきれなかった。


「そう。良い。良いね!

 天才のあたしに認められたいとか、誰かに認められたいとかそういうのは分かんないけど、簡単に楽な方にいかないその精神が良い!

 今すぐにでもやろうか! ……って言ってやりたいところだけど、今日はまあ、周りにいる人達で我慢しよっかな」

「え?」


 とメイジが疑問を口にすると同時、彼女も気付いた。

 人気が少ないだけだった路地に、誰もいなくなっていたことを。




 ──そしてそれを認識すると同時、前後から一斉に、人影が現れたことを。




 様々な色合いの地味な布で顔を覆い、黒のローブで身体つきを隠したその集団。

 その総数十名程。

 数の多さに驚き、前後を挟まれたことで逃げ道がないことに気付き、その動揺のせいでメイジは魔法の準備が間に合わない。


 前後から五人ずつ、影が迫る中──



 ──我に眠りし目覚めぬ種子よ

   暴れる衝動・内に食らわす破壊の力

   開いた花の力と交じりて

   今一刻いまひとときの芽吹きをここに──



 ──種子を開花させる詠唱を行ったレイスが、左右に手を広げるようにして、その伸ばした五指を向ける。




「『蛇弾ディス・サーペント』」




 瞬間、その集団全てが次々と、短い呻き声を上げて倒れた。


 本当に一瞬の出来事だった。


 目に魔力を集中させていなかったとはいえ、同じ魔法使いであるメイジですら、何が起きたのか分からなかった。


 ……魔力を伸ばす訓練をしていた彼女だからこそ出来たこと。

 いや、大本を辿れば、魔力移動が出来るようになったからこそ出来るようになったこと、になるのかもしれない。


 今までのレイスは、自らの属性を通して変換された魔力を、ただ無造作に放出していた。

 それを、魔力移動が出来るようになった応用で、てきとうな箇所から『蛇』と化した魔法を出すのではなく、『蛇』と化した魔法を無理矢理体内に留め、指先に移動させてから放出するようにしたのだ。


 抑え込まれた魔力は、ようやく現れた出口から飛び出すように放たれる。


 そうして指先から放たれた速度の乗った『蛇』の魔力を、それぞれ一つ一つ器用に操作し、相手にぶつけてみせた。


 その放たれた『蛇』は小さくとも、魔力によって変化した『蛇』だ。

 魔力に依る防御ができないただの人間が受ければ、かなりの激痛となるに違いない。

 それこそああして、立てなくなるぐらいに。


「ふぅ……ま、今のあたしが出来ることっていったら、これぐらいなもんよ」


 自らの魔力の流れを感じ取れるようになったからこそ、出来るようになったこと。


「これを見てもまただ戦う気があるんなら、秋口楽しみにしてるから。

 とりあえず今は、この人達を見張ってるか拘束するかしといて。

 ま、拘束は必要ないかもだけど」


 さて警察にでも行くかなぁ、なんて言いながら、踵を返し、入ってきた道へ引き返し始める。


 その背中を見送りながら、メイジはただ、何も出来なかった自分を──すぐに対処してみせたレイスとの力量差を、ただただ噛み締めていた。

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