『勇者の魔女狩り』の狙い
忘れているはずがない。
彼等と真正面から対峙した魔法使いは皆、その名を恐怖と警戒の対象として刻んでいる。
だから私も、事前に手を打つためにと、学園長に警戒を促す際、その名前をしっかりと出した。
確かに、思想だけの群れに成り果てている節はある。
組織と定義するには疑問しかない。
しかしそれでも、こうして私達を殺す策を持ってくる。
魔法であっさりと倒せる“ただの人間”なのに、それを許さない手段を講じてくる。
さっきも言ったが、今回だってもし私が事前に手を打たなければ、学校に通う半数の生徒が、その犠牲になっていた程だ。
だからこそ、怖い。
魔法だけでどうにもならない相手になって、立ち塞がってくるから。
「かつて勇者様が全ての魔王を倒した時、その勇気に感化された当時の民衆が行おうとしたこと……それが『魔女狩り』です。
『魔女狩り』とは言葉の通り、あなた達魔法使いの祖先である、魔法を使う女性を処刑していくこと。
それも、彼女たちの中から容易に捕まえられる者を集め、より惨たらしく・より残酷にね。
さて……それでは何故、そうしたことをするのか。分かるかな?」
掌を上にした手を向けられ回答を求められたフリーシアは、しばし考えたものの答えが出ないのか、ただ悔しそうな表情を浮かべるだけ。
「分かりませんか? ならあなたは、魔法使いが魔法を使えなくなる理由をご存じないのかな?」
「そんなの……ある訳ない。
魔法使いが、魔法を使えなくなるなんて」
「なるほど。魔法使いの何人かは、その事実に目を背けているようだ。
まだ、そちらの見た目が子供っぽい魔法使いの方が、分かっていると見える」
私のことをチラりと目で指した後、男は言葉を続ける。
「魔法使いの魔法を使えなくするのは、至って簡単。
本人が魔法を使いたくないと思えば良い」
「……え?」
さっきも言ったことの繰り返しだが、最初から話をされたからか、時間が経ったからかは分からないが、ようやく理解が及んできたのだろう。
捕まっている女の子たちから、そんな驚きの声が聞こえた。
「何故昔、『魔女狩り』と称して、多くの魔女を殺そうとしたのか。
本当に魔女でなくても構わないからと、女性を多く殺そうとしたのか。
それはただ、魔女だと思われたら殺されるという恐怖心を、世界に蔓延させるのが狙いだったからです」
その恐怖が蔓延すればどうなるのか。
もう、答えは出たも当然だ。
「ただ疑われただけで殺されるような世界になれば、魔女は魔法を使いたくなくなる。
自分たち魔法使いとは無関係な人まで魔女だと断じられ、殺されてしまうから。
その罪悪感から逃れるためにも魔法使いは、自らの魔法を封印し、使わないようにするしかない。
自分は違う。自分のせいで魔法使いじゃない女性が疑われ、処刑されたんじゃない。
そう思い込むための言い訳としてね。
そうすれば、全ての魔法使いを殺したことになる。
そんな当時の民衆の意思を受け継いでいるからこそ、私達は『勇者の魔女狩り(ブーンドック)』という名を名乗っているんですよ」
やろうとしていることは同じだ。
恐怖によって、魔法を使いたくないと思わせる。
魔法使いだったせいで襲われたと分かれば、二度と魔法を使いたくないと思わせることが出来る。
それこそが、“ただの人間”が魔法使いを殺す──魔法使いから“ただの人間”へと堕とすための、唯一の手段。
「この話を聞いて、それなら魔法を使いたくないと思わなければ良いと、そう思いませんでしたか?
いえ、思ってくださって結構。
しかしそうなれば、あなた達はまた、同じ恐怖を味わうことになる。
次は下着姿にされるだけでは済まないかもしれません。
私達人間を殺してしまって、本当の罪人になってしまうかもしれません。
分かりますか? 世界は多くの“ただの人間”が回しているんですよ? 魔法使いが、魔法で人間を殺したとなれば、ただの罪状だけで済みますかね? もっと酷い、これ以上に痛い、魔法が使えなくなっても解放されない、そんな残酷な場所に閉じ込められるかもしれませんよ?」
だからここで、魔法を使わなくなれば良い。
それが一番、怖くなくて、痛くなくて、何もされない、選択肢。
「だから……何もしない……」
彼女たちが脱がされて、けれどもその肌を蹂躙されない理由に至ったのか、フリーシアが呟くように言葉を紡ぐ。
いきなり酷いことをされても理解が及ばないかもしれないからと、敢えて本人に想像させる余地を残している。
そうして思いつく、今以上に酷いことなんてのは……一つだけだ。




