失敗した口論
さっきの一撃で死んでくれた黒ずくめがこの人だと得だと思ったが……さすがにそんな訳は無かったか。
「今こうして捕まったこの子達に、魔法に対して嫌なイメージが付いてしまうと、そのまま魔法が使えなくなる可能性がある。
それを排除するために、魔法を躊躇わず使えれば、彼女たち自身が捕まることはなかったと、彼女たちに教えたかったのだろ?
君達生徒が捕まったのは魔法が使えるせいじゃない。
むしろ魔法を使わなかった優しさのせいで、今あなた達は恐怖している。
そう言いたかったのでしょう」
思わず、心の中で舌打ちをしてしまう。
私の狙いを、逆に利用されてしまった。
……やはり、相手側の意図は、そういうことか。
あいつ等は……あの子達の魔法を使えなくすることで、魔法使いを殺そうとしている。
魔法は、精神に依る所が大きい。
その大きさは、「魔法を使いたくない」と当人が思ってしまえば、それだけで魔法が使えなくなってしまう程だ。
魔法使いが魔法を使えない。
それは既に魔法使いでも何でもない、ただの人間でしかなくなるということ。
そうなればもう、そこにいるのは“ただの人間”だ。
だから魔法を学んでいるこの場所で、魔法を学んでいるせいでこんな怖い目に遭っているのだと、思わせようとしている。
今の、私の狙いを口にするのだって、魔法使いとして生きたければ優しさを捨てなければならない、と受け取ることだって出来る。
いや、受け取らせようとあの男が、言葉巧みに誘導した。
優しさを捨てなくても魔法使いでいられるといくら訴えても、今の彼女たちに届くとは思えない。むしろ真実を否定しようとして言い訳を重ねているだけにも見えてしまう。
魔法で人を殺せば罪となり、“普通の人間”ばかりの世界では、例え誘拐されそうになった事実があろうとも、今以上に酷い目に遭う。
私が言った言葉は、その事実を無視した子供のような理屈そのものだったので、穴があって当然ではあったのだが、まさかその穴とは違う方向から攻めてくるとは。
その穴を突くように攻めてこれば、ならば殺さぬよう倒せれば良いのだろうと、反論できたのに。
失敗した。
教師のような真似事をしているせいで勘違いしているが、同じ組織と対峙する度に私は、自分が決して頭が良いわけじゃないことを思い知ってしまう。
「魔法が、使えなくなる……?」
抑えつけられたままのフリーシアの疑問が聞こえてくる。
「知りませんか? 魔法使いを殺す手段の一つですよ」
それは、嬉々として語ろうとしているようにも聞こえる声色。
いや、事実喜んでいるのだろう。
それを話すということは、その話だけで恐怖し、魔法使いが魔法を使いたくないと思わせる結果に、繋がるかもしれないのだから。
だから……魔法使い学校の教師でも、聞いたことがない話であっても、何らおかしくはない。
「我々の中では有名な話だ。
いえ、我々だから知っている話、なのかもしれないですがね」
「我々?」
「ええ。聞いたことあるはずですよ。我々の名前は。
それとも、ただの人間が名乗っているだけの組織だからと──思想だけの群れになっているからと、魔法使いたちは警戒していないのかな。
それならば僥倖。
おかげでこうして、今日は十一人の魔法使いを呼び込めたのですから」
そこまで言われて、さすがのフリーシアも気付いたのだろう。
彼等が、かつて一人の男性に送られた称号と、彼の行いに勇気をもらった民衆が行おうとした作戦名を併せた──『勇者の魔女狩り(ブーンドック)』という名の組織だと言うことを。




