敵の動き
「動くな。動けばこの子達がどうなるか……分からぬ訳ではないだろ?」
ぐぐもった男の声が、囲まれた女の子たちの近くから聞こえる。
黒く見えたその影は、全員が黒のローブを羽織り、黒い布切れで目以外の顔全体を覆うような格好をしていた。
体型と顔を判別させないためのものなのだろうが、全員がそんな怪しい格好をしているせいで、宗教めいた何かの集まりを感じさせる。
……いや、事実そのようなものだろうか。
「なにを……!」
自由に動く顔だけを上げ、捕まっている女の子たちへと視線を向けるフリーシア。
「分かっているだろう? それとも、何をするのか見たいのかな?」
その声を合図に、月明かりに反射する何かが、人垣の群れから一本、生えるように現れた。
目を凝らさずとも分かる。
立ち上がったまま座り込まされている女の子の首筋に添えられたソレが、何かしらの刃──ナイフというよりはソードのような長さがある、人を傷つけるための武器であることぐらい。
「ひっ……」
悲鳴をこらえたような音が、女の子の口から漏れる。
それを合図にしたかのように、囲んでいるその影の最前列から一斉に、その刃と同じものが少女たちへと突きつけられた。
「っ……!」
全て紙一重で、彼女たちを傷つけることなく、頬や首筋に添えられる。
恐怖で顔が引きつった女の子たちからは、声すらも出ていない。
ともすればパニックになりそうな状況ながらも、綱渡りのような緊張感がそうさせているのか、静けさが辛うじて維持されているように見える。
何か一つのキッカケで、彼女たちの中から一人でも悲鳴が上がろうものなら、一気に伝播してしまうだろう。
「…………くっ」
その、一つのキッカケになるといけないと思ったのか。
フリーシアは悔しそうに顔を背けた。
「さすが魔法使い。利口だな。
ではお前も、彼女たちと同じように服を脱がさせてもらおう。
魔法使いは何を仕込んでいるのか分からぬからな」
年を召しているのが分かるその声の主こそが、この組織のリーダーのようなものなのだろう。
言葉を合図に、彼女を抑え込んでいた四人とは別の人間が駆け寄ってきて、フリーシアの服を脱がせようとし始める。
その雰囲気がどこか嬉しそうなのは、あの顔が隠れている奴らが男だからか。
それにしても、抑え込んでる四人を動かさないというのは、中々に分かっている。
脅して動きを止めたと言っても、何がどうされて魔法を発動されるか分からない。
警戒しすぎてもまだ警戒が足りない。
そんなつもりでもなければ、“普通の人間”が魔法使いを相手にすることは出来ないだろう。
「そちらにいる女の子も、来てもらえおうか」
そしてずっと、中に入らず、その状況を傍観していた私にまで、声がかかる。
抑え込みながらだからか、服を脱がすのに手間取られているフリーシアを眺めつつ、私はその室内へと歩を進める。
子供のような見た目でも、ここに来た以上は魔法使いだと考えているのか。
その強すぎる警戒心からか、未だ開いた扉の影に隠れる黒ずくめの男たちも、慌てて私に飛びかかってくるような真似はしてこない。
むしろ私に居場所がバレていることを想定し、警戒顕に成り行きを見守っているようにも感じる。
「…………」
そんな、全員が注目する中、あまり抵抗すること無く白衣を脱がされているフリーシアの隣に立ったところで、私は立ち止まり、そのフードを取った。
月明かりに照らされる褐色の肌。
それを相手に見てもらえたところで、私は言葉を紡ぐ。
「良かった。思っていたよりも人数が少ないですね」
そんな私の言葉に、フリーシアの服を脱がせようとしていた人たちも、フリーシア自身も、捕まっている女の子たちもそれを囲む黒ずくめの人たちも、全員が動きを止めて、私を注視してきた。
同じ動きながらもその心の内は皆、一様ではないだろう。
それは分かっていながらも、私は事情を説明しようとしない。
……私が見た『並行世界』では、この体育館に人がいっぱいいた。
捕まっている生徒も、捕まえている黒ずくめの男たちも。
生徒だけでここの学生の半数はいたかもしれない。
それが目の前にいるのはたったの九人。
うち、私の授業に参加している生徒ではウリシャだけときている。
レイスやメイジは『並行世界』でも捕まっていなかったが、他の生徒は捕まっていたのが無くなっているところを見ると、この街を出る前にやっていた“対策”が実を結んだ証だろう。
まあ、そんな大したことはしていない。
ただ、一人で祭りに行かないようにと生徒たちに注意してもらうよう、学校側に頼むだけ。
特に『並行世界』の魔王と繋がりがあると知っている学園長は、私のその言葉をかなり信用してくれたのが大きい。
その一言のお願いだけで、まさかここまでの成果になるとは思いもしなかった。
おかげで、魔法使いの集団が人間の集団に捕まるという、生徒たちにとっては最も避けなければいけない事態を避けられた。
もしそれが成されていれば、この学校の半数以上の生徒は、魔法が使えなくなってしまっていただろう。




