祭りの後に
「ドールさん! リフィイルさんっ!」
それは、今週最後の授業を終えてから、三日程経っての出来事だった。
予定通り、次の学校への挨拶のため、一時この街どころか国を離れていた私達は、ようやく戻ってきた。
時刻は既に深夜を回っている。
生徒たちが誘ってくれたお祭りもとっくに終わり、けれども祭りを言い訳にしている酒飲みの笑い声が遠くから聞こえる、静寂の中に一部の賑やかさがある道を、ドールと二人並んで歩いていく。
また明日から一週間が始まる。
あの生徒たちに魔力操作を教えなければいけない。
『強化』の魔法を教える教師が変なイチャモンを付けてこないと良いな。
そんなことを思いながら、学校が用意してくれた安アパートへとたどり着いてすぐの出来事だった。
「……フリーシアさん?」
ウリシャの師匠にして魔法薬学の教師が、何故か慌てた様子で私たちに声をかけてきた。
「あなたがどうして私達の家に?」
「学園長に聞きました」
あのババア……。
……いや、他の教師に教えないで欲しい、とは一言も言っていない私が悪いのか。
「早速なんですが、お願いがあるんです」
「明日じゃダメなんですか? ドールは大丈夫でしょうが、これでも私達、ついさっきこの街に戻ってきたばかりなんです。
弾丸で向かって戻ってきてと、かなり大変だったので、今日は勘弁願いたい──」
「ウリシャが、また誘拐されたんです」
その、一言だけで。
私の身と心は、一気に引き締まった。
◇ ◇ ◇
「それで、どうして私を頼りに来たんですか?」
部屋に荷物を置き、そのままの出で立ちで街へと引き返しながら、少し後ろを歩くフリーシアに訊ねる。
ドールはフードが付いたマントを羽織ったまま。
私は武器を入れた大きな籠を背負ったまま。
イザという時のため、学校へ行くときですらもしているその格好が、残念ながら役に立ってしまった。
「『並行世界』の魔王と繋がりがあるあなたなら、詠唱魔法も応用利かせて使えるでしょう?
私はその属性に関する才能がないし、学校の他の先生を頼ってもイマイチな反応でしたので……あなただけが頼りなんです」
「それは、責任重大ですね」
詠唱魔法は、魔王の魔法を、魔力を贄として呼び出す魔法の一種だ。
ただその欠点として、呼び出す魔力の形は、詠唱内容によって固定される。
要は、発現する魔法が限られてしまうということだ。
開花した自分の属性を通し、変質した魔力が弾き出す一般的な魔法は、その自分の属性が言葉よりも複雑なおかげで、かなりの応用が利く。
カーディナの『水』魔法とレイスの『蛇』魔法の比較が分かりやすいだろうか。
“水”や“蛇”など一言でまとめてはいるが、その実、掌の中にただ水を生み出すだけの属性、だったり、蛇の形をした魔力の塊を自由自在に操作できる属性、だったりする。
他にももっと色々と制約があったりややこしい効果があるのだろうが、そんな複雑なもの全てを名前として他人に明かすなんて、手の内を全て晒すだけで何の意味もないしただただ手間になるだけなので、そうして分かりやすい一つの言葉にまとめているだけだ。
しかし詠唱魔法にはそうしたものがない。
その一言の説明だけしかされていない魔王の属性を汲み取って、呪文を組み立てる必要がある。
だから魔王と親密なら、そんな誰でも知っているような言葉以外の、明かされていないちゃんとした属性についても教えてもらっているだろうから、他の人が使う詠唱魔法よりもより複雑な効果を発現できる。
フリーシアはそう考えて私に声をかけたのだろうが……。
「なら、学校へ向かいましょう」
「学校?」
「どういう訳か、そちらに向かうのが正しいと出ていますので」
より正確に述べるなら、学校へ行かない場合の世界では色々と手遅れになる、といった方が良いだろうか。
『並行世界』なのだから、要はこの世界で起きないことが見えるようなもの。
その見える結果が悪いものであるのなら、それを避けて動けば良い話だ。
「私のことを信じてくれるんなら、しっかりと付いてきて下さいね」
一方的にそう告げて、返事も待たずに魔力操作で走る速度を上げる。
これもまた、見た世界ではやらなかったことだ。
かなり短いですが、キリが良いのでここで止めます。
また本日は昼の12時からの更新が出来ません……すいません(´・ω・`)
代わりに翌日0時から、二話ずつの更新とさせて頂きます。




