魔力変質を教えるその理由
あの時のその説明に納得してくれたからこそ、最初は大きく反対していたレイスまでもが、ああしてこの授業に参加してくれている。
そして彼女とメイジだけが、物へと魔力を移動させる、その次の段階へと行っているのだが……他の生徒は「物へと魔力を移動させる」段階にすら到達していない。
手を見つめて魔力変質を行っているのが何よりの証拠。
……何故、先に物への魔力移動をさせず、魔力変質を行わせているのか。
それは、もし魔力変質を覚えずに、物への魔力移動を先に覚えてしまうと、本能的な魔力移動がその物にまで発動してしまうからだ。もしそれが誰かに襲われている時に取った行動なら、その相手を殺してしまう可能性すらある。
だが魔力変質を先に覚えていれば、相手を傷つけたくないという気持ちがあれば、それを読み取った本能のプロセスが、相手を殺さぬよう変質した魔力として、物に魔力を纏わせることが出来るようになる。
魔力変質の場合、魔力移動とは逆で扱うことに慣れさえすれば、本能のプロセスなんてすぐに出来るようになる。
それこそ、魔力移動を本能的に行えるようになっていれば、何もせずとも出来ているぐらいだ。
相手を殺さず、けれども相手の行動を不能にするという難しいことを、簡単に行えるようになる。
生徒たちに罪を犯させず、自分の身を守らせる力を付けてもらうためにも、まずはこちらを習得させる必要があった。
……とはいえ、これをバカ正直に説明する気も無かったので、生徒たちには「魔力変質を早くに覚え、日常生活でも応用を利かせる癖を付けてもらうためだ」とドールには説明してもらったのだけど。
もちろんコレも嘘ではない。
魔力変質を理性のプロセスで行おうとすると、当人の発想力次第では無限の可能性が広がることになる。
しかしそれは同時に、終わりがない成長だとも言える。
例えば今私がしているような暑さを凌ぐ方法だって、当初は冷気を発生させる方法を取っていた。
それが今となっては、熱自体を遮断し、さらには肌を焼かないようにまでする方法を取っている。
このように、本人の発想力や経験・知識や応用力次第で、より便利なことが出来るようになる。
そのための試行錯誤の時間は、多ければ多いほど良い。
と、カランカランカラン……と鐘の音が鳴り響いた。
約二時間にも及ぶ授業もこれで終わりだ。
ちなみにこれ、機械音じゃなくて、人が直接高いところから鳴らしている。
さすがに今どき、こんな原始的な方法を採用している魔法学校も珍しい。
建築物は国の法律的な基準があるけれど、こうした設備に関しては無いからか、昔のままだったりするのだろう。
「それじゃあ、今日はここまでだ」
ファナの相手を終え、魔力変質の授業をしている他のみんなの元へと戻ろうというところで終わったので、彼はそのまま仕切られた敷地の外──授業を見守っていた私のところへと歩いてくる。
さて、これで今日の授業も終わりだ。
あとは教員室に戻って今日の授業内容をまとめて報告するという面倒なことを私がして──
「あ、ちょっと待って下さい」
――と、ドールが私の元へと到着するより先に、近くで魔力変質の練習をしていたウリシャが駆け寄ってきた。
「この後もこの練習場、使っていても良いですか?」
「ああ、いつもの自主練ですね」
校舎の裏など人目につかない校内で、エスリンやレイスと練習していたウリシャだが、魔力変質の授業に移ってからは、こうしてこの敷地を利用したいと言ってくるようになった。
このお願いをされるようになってそろそろひと月が経とうというのに、毎回こうして確認を取りに来るなんて、ウリシャの真面目さが窺える。
そのウリシャに任せきりで一言も言葉をかけてくることなく、授業終わりの合図が鳴っても無視して長距離の魔力移動練習ばかりを続けるレイスとは大違いだ。
「もちろん構いませんよ。今日もドールにいてもらうよう頼みますので、頑張ってくださいね」
「はい。ありがとうございますっ」
頭を下げて明るく返事をし、ドールとすれ違うよう授業敷地内へと走り戻っていく。
こんな彼女に触発されてか、昼食後に授業を行うその日最後の授業時間の後は、ウリシャたち三人以外の生徒も居残るようになってしまった。
レイスにライバル心を燃やしているメイジと、男子三人の中では二番目に成績が良いアボニー。
それと、
「…………」
何かを探すような、どこか追い詰められているようにも見えてしまう、カーディナ・クルルク。
探す……と表現はしたものの、それは決して、実際に存在する、所謂「失くし物」を探しているのではない。
自分と向き合うような、己の中身を探るような……自身の魔法を探しているようにも見えるが、そんな単純なもののようにも見えないような、そんな何とも言えないその感じ。
要するに、本人すらも何を悩んでいるのか、もしくは悩みが多すぎて何からどうすれば良いのか分かっていないのだろう。
「カーディナは今日も残るの?」
そして今日もまた、そんな彼女にファナが声をかけ、いつも通りのその質問に、力無く「うん」と頷いている。
相変わらずのように残るカーディナがその探し物を見つけられるよう願いながら、私はドールに一声かけ、事務処理をするために教師待機室へと向かった。




