機械を使わせる魔法
「しかしそうか……スーリクトは一緒に『強化』の授業も取っていたか。
だから意識的な魔力移動をしてしまうのだろうな」
ドールの言葉の意味が分からないのか、ファナは「なにか問題でも?」とばかりに首を傾げる。
「『強化』なんて存在しない嘘の属性を教えている授業とはいえ、この学校にそれがある以上、否定するつもりはない。
ただ、誰にでも出来る魔力操作を基にして作った偽りの授業だからこそ、やはりどこかでお互いの授業を阻害するようなことになるなと思っただけだ。
そもそもスーリクトは、何故そこまでして魔法を使おうという意識をする? いくら意識するよう教えられる授業でも、本能的な魔力移動のほうが便利なのは分かっているだろ?」
「だって意識してやった方が、魔法使いっぽいもん!」
「…………」
ドールが無表情の無言でいるということは、彼の理解できない回答が来たという証だろう。
ただ私は、彼女の言いたいことが分かる。
要は、魔法に対して強い憧れを抱いているのだろう。
別にそれが悪いことだとは言わない。
そうした個人的な、思い込みのような精神の安定感めいたものが、魔法にとってプラスに働くことは多い。
そのため無理に、この授業のためにと意識を変えさせるつもりもない。
ただこのままだと、ファナが一番授業の進みが遅くなるのは必定だろうか。
なんせ彼女はまだ、魔力を身体以外の物へと通すことすらしていないのだから。
◇ ◇ ◇
「身体以外にも魔力を通す……? でもそれ、魔法使えたら意味なくない?」
春の終わり頃、レイスとの戦いが終わったあの後──つまり魔力移動を自分の身体にだけじゃなくて、手に持つ道具にすらも出来るようにしてもらいたいと伝えた、あの時。
私の説明を聞いたレイスのその疑問に、自覚している悪癖が顔を覗かせているのを分かっていながらも、私は言葉を続けた。
「そんなことはありません。魔法は結局、何もない所から何かを生み出す方法でしょう? 魔力を物に移動させるというのは、在るものに新たなことをさせることが出来るようになるのです。
今回のドールの授業でも同様です。あなたのような『蛇』の属性が開花していれば、今まで彼がしていたのと似たようなことは出来るでしょうが、ドールはソレを持っていない。
ですがこの魔力移動を知っていさえすれば、さっきのようにすぐ授業に取り組めるじゃないですか」
「……ん?」
「違和感に気づきましたか。
そう、この理念って、まるで機械のようではありませんか?」
「あっ……!」
聞き耳を立てていたウリシャが、思わず驚きの声を上げてしまう。
他の生徒たちからも、息を呑むような音が聴こえてきた。
「特別な人しか出来なかったことを、誰でも出来るようにする。
この魔力移動は、魔力さえ持っていれば誰でも出来ます。
個々人の個性が出る『魔法』とはまた別の、魔法使いなら誰でも出来る手段を身に着けさせようというのが、この授業なんです。
しかもこれは、日常生活にも応用が利きます。
むしろこんな戦うような授業をしていますが、私達はこれを日常生活でこそ使ってほしいと考えています。
例えば私達を遮るようにあるこのフェンス。これだって今や、機械が作り出した産物ですよね?
今この世界は、段々と、機械によって作られたものが多くなっていってます。それはきっと、時代を重ねる程に増えてくるでしょう。
もしかしたらいずれは、魔力で強化された馬車と普通のトラックが走る世界ではなく、トラックだけが走るようになるかもしれません。それに伴って道もまた、その車専用に舗装される日だって来るかもしれません。
電気だって、魔法と電線の混同ではなく、電線だけで送れるようになるかもしれません。
果ては、今は限られた魔法使いしか出来ない、遠くにいる人との会話だって、誰でも出来るようになるかもしれません。
そんな時にこの方法を身に着けていれば、魔法使いだからと働く場所が限定されず、さらに普通の機械を使う人よりも便利にしてくれると思われて──」
「だから長いってのアンタはっ!」
ハッと、レイスに突っ込まれてようやく、私は再び出していた悪癖を引っ込めた。
私に何かを質問してくることが無かったレイスにしてみれば、初日以来になるのか。
「ったく……だから他の皆は聞き耳立てるだけだったわけか……」
後頭を掻きながら、面倒臭そうに独り言を呟いて、レイスは続けてくる。
「……まあ、止める前に言ってた言葉で、何でアイツが機械がどうとか言ってたのかは、何となく分かった。
要は、このフェンスにも魔力を通せたら、イザって時強くて大きな盾にも出来るんだから、出来るようにだけはなっといたほうが良いとか、そんな感じっしょ?」
「まあ、概ねそんな感じです」
っていうかその通りだった。
それを使うか使わないかは、本人の魔法使いとしての誇りとその状況を、両天秤に掛ければ良いだけ。
天秤の皿に何も乗せることが出来ない、選択肢が全く無いような状態にさえならなければ、それで良い。
「なるほど。だったらまあ、一考の価値はあるのかもね」
そう言って、レイスは怒りを霧散させたその表情で、アボニーへと何発か打ち込んでいるドールを、再び振り返っていた。
◇ ◇ ◇




