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魔王が唱える機械必要論  作者: ◆smf.0Bn91U
夏の厄介事
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授業の進み具合

 暑い日差しが降り注ぐ中、ほとんどの生徒が、いつものフェンスで仕切られた敷地の中で、自分の手のひらをジッと見つめている。


 傍目から見ると危ない宗教か何かに思われても仕方のない光景。

 が、今はこうして、自分の魔力を見る練習をするしかないのだから仕方がない。


 七月。

 徐々に日差しが強くなり、半月ほどが経った。

 つい先月頃は長袖で授業を受けている生徒も見かけたものだが、今となってはそれもいない。

 運動しない時は長袖の服でも風が気持ち良いし、木陰に入れば十分に涼しくて過ごしやすいのだが、さすがに動いたり魔力操作をするとなるとそうもいかないのだろう。


 魔法を使ってこの辺一帯を涼しくすることも出来ないではないが、そうなると今、私が着ているこのフードも含めた服に纏わせている「紫外線諸々を一定数まで阻害し、さらに服の中をある程度冷たくする」という魔力操作を、解除しなければいけなくなる。

 元々褐色肌の私に日焼けはあまり関係ないように思われるが、個人的に肌が焼けることはかなり気になってしまうので、解除する気なんてさらさらない。


 彼等彼女等自身が成長すれば同じことが出来るようになるので、それまでは日焼け止めクリームや服装などで自己管理してもらおう。


 というか今やっているこの「魔力操作」の授業の終着点の一つが、今の私の状態だと言っても過言じゃない。


 今、大多数の生徒が行っているあの自分の手を見つめる行為だって、目に魔力を集め、その魔力を変質させることで、自分の手にある魔力を見えるようにしようといったもの。

 ドールとレイスが戦った際、生徒達にレイスの魔法が見えない時があったのは、コレが出来ないが故のものだ。


 まずは五感に直結した、変質のやりやすいものからやっていく。


 で、それに慣れてきたら、今レイスやメイジがやっているような、長い棒の先端まで魔力を通す練習となる。

 レイスは四ヤード・メイジには二ヤードの木の棒を渡してある。

 この国でこの長さで売りに出されていたものをてきとうに買ってきただけなので、正確な長さは把握していないが、レイスが持つ棒の先端まで魔力を通せれば、それなりの距離になるだろう。

 最終的には、魔力を宿したものを投げたりして手放しても、棒で伸ばすことが出来た距離まで魔力を宿しておければ、何も言うことが無い。


 魔力は基本、魔法として対外に排出しない限りは、自分の元へと戻ってくる。

 つまり魔力を宿したものを遠くに向かわせ・維持しようと思えば、それだけ魔力を遠くに“伸ばす”訓練が必要になってしまう。

 その最初の第一歩が、あの二人のやっている練習という訳だ。


「ここまでか。やはりこうして向き合う分には文句なしだな」


 で、肝心のドールはというと、春からやっていた無意識下の魔力移動の授業を、一人の女子生徒に行っていた。


 ファナ・スーリクト。


 他の生徒達よりどこか子供っぽくて、活発な印象を受ける女の子。

 私のことを低い身長そのままの年齢だと思い込み、言葉遣いは年相応に無遠慮ながらも、どこか憧れに近い瞳を向けてきているのは分かるため、邪険には出来ない。

 そんな“ちゃっかり娘”感のある子だ。


「当然だよ先生~。もう授業に戻っても良い?」


 ただその面倒くさそうに答える言葉からは、この授業を軽んじているような印象を受けるせいか、いつもの愛嬌が感じ取れない。


「戻っても構わんが、原因も分からずこのまま授業に戻ると、お前はまた同じ目に遭って、またさっきと同じことをするハメになるぞ」


 同じ目に遭って、というのは、今ドールが行っている授業そのものだ。


 何も彼女だけが、本能的な魔力移動が出来ていない訳じゃない。

 今行っている授業の性質上、他の生徒も何人か、春の授業の復習を行っている。


 そのドール主導となってしている授業というのが、手に魔力を集中させている時にも攻撃を仕掛けるので魔力移動で防いでもらう、というものなのだ。

 何かを行っている中でも魔力移動で自然と防いでこそ、完璧な本能的魔力移動と言える。

 魔力変質を始めたばかりの生徒にはかなり難しいので、むしろやり直しは仕方ないだろう。


 そんな中でファナだけが、この授業の意図を、ちゃんとかみ砕けているように見えないのだ。


「え~? め・ん・ど・い~。なんでそこまでする必要があるの?」

「例えば街中を友達と歩いている時、急に角から車や馬が走ってきた際、この本能的な魔力移動を行えれば、より確実に自分を守ることが出来るだろ?」

「ん~? 普通に『強化』の魔法でも大丈夫じゃない?」

「『強化』の魔法を使うという意識で魔力を移動させるということは、突然やってきた乗り物を認識し、腕や脚に魔力を集中させるようさらに意識する必要がある。

 しかし本能的な魔力移動を身に着けていれば、乗り物が突然視界に映っただけで、魔力が全身を覆い、自分を傷つけないよう守ってくれる。何の意識をすることもなくな」

「意識しないでやる魔力移動ってそんなに大事?」

「手順が一つ飛ぶ。

 それだけでそうした“咄嗟の判断”で助かる確率はグンと上がるだろ?」


 やりたいのは意識のプロセスを、本能のプロセスにまで昇華させること。

 『強化』の魔法のように意識のプロセスを全力で使うようにしてしまうと、「気付く→集中する」という手順を踏む必要性が出てしまう。

 しかし本能のプロセスなら、この「気付く」の段階で魔力が集中してくれるのだ。


 足を引っ掛けられ転ばされそうになった時、人は咄嗟に手をついて転がるのを回避しようとする。

 それと同じようなことを、全身と魔力を使って行えるようにしようというのが、授業を始めてからやっていた、あの寸止め授業の狙いだったのだ。

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