触れるだけの勝利
「ぐあっ!!」
「うっ!!!」
『蛇』で攻撃させたレイスと、戦いを見ていたウリシャの目までも灼いてしまったが、ここまではエスリンの狙い通り。
腕を前にして顔を覆い、光を閉じ込めた瓶が割られれば、すぐさま目をつむり庇えるようにしてレイスへと接近していたのは、そのためだ。
お互いに見えなくなれば、『透明』も何もない。
大雑把に聞こえるが、間違いではない選択肢だろう。
もしレイスが少しでもエスリンへと意識を向けていれば、そんな動作をする彼女に違和感を覚え、無警戒に瓶を割るなんてことはしなかったはずだ。
「…………」
強い光は本当に一瞬。時間にして三秒も経っていない。
目を閉じていても分かる強い光が治まっていくのを把握し、ようやくエスリンは腕を僅かに開け、レイスを見る。
気配を読めるわけでもない彼女は、少しズレていた方向を修正しつつ、一直線にレイスへと向かう──ような真似はせず、その隣を走り抜ける方向で走っていく。
そしてこのタイミングで、目を灼かれ、接近を許さぬためにと『蛇』を周辺にまとい始めたレイスの眼の前で、もう一つの瓶が地面に落ちて砕けた。
瞬間、地面に火炎が広がる。
「なっ……!」
その、見ることが出来なくても分かる熱量に向け、咄嗟に『蛇』を向かわせてしまうレイス。
彼女は己の魔法を過信している。
それもエスリンは分かっている。
だからあの火炎は、熱量は感じるのに火傷はしない、“なんちゃって”な炎だ。
もしレイスが先に攻撃するのがこのなんちゃって炎の魔法だったとしても、その熱量でダメージが無いことを確認すること無く、エスリンは魔法を放っていただろう。
そして次の手で、目が灼かれていた。
後は背後も警戒している彼女にそちらを意識させるよう、他に持っていた魔法を彼女の後ろに落ちるよう投げて、広がる炎の中を突っ切って真正面から向かうだけ。
……だから、結果はどちらにしろ、変わらない。
後ろにエスリンが回り込んでいることに気付かず、普通に背後から肩をポンと叩かれるまで気付けなかった、レイスが敗北するという結果は。
「あっ……!」
しまった、といった声。
これがどういった勝負だったのか、そこまでされてようやく思い出したのだろう。
……エスリンのことを下に見ているから、エスリン自身の手で、あっさりと存在を忘れさせられてしまった。
「まさか、そんなに準備してるなんてね」
目を閉じたまま、降参の意を示すように、レイスは両手を軽く挙げた。
「でも確かに、これは結構悔しいわ。会話の流れで準備してきてるって分かって警戒してたのに負けた。
なんかこれ、私の警戒心のほうが負けたって感じかも」
「ごめん」
「えっ、なにが?」
突然の謝罪に戸惑うレイスに、
「私、警戒してこんな準備してたんじゃないの。だから、警戒心同士の戦いになってない」
エスリンはそう続ける。
「私が『魔力繋合』で作った魔法を持ってるのって、色々なことに警戒してるから、ってのとは少し違う。
特に今回のは、最初から、レイスに勝つための物ばかり準備してた」
エスリンはまだ、自分の属性を開花させていない。
そんな中で、強い光を放つ魔法を用意したり、炎のようで炎でない魔法を『魔力繋合』で用意するには、そういった魔法を使える人に協力してもらったり、そうした魔法が使える魔法薬学製の道具が必要にある。
だから手間を最小限に抑えるため、対レイスに特化した準備していたに過ぎない。
先に使った二つがあっさりと防がれ、自分への意識が外れなかった時のパターンも準備していただけで、それが“あらゆる出来事を想定している”──警戒心がある、とはならない。
「レイスに魔法薬学を教え、事前準備の必要性を自覚してもらって、私のことを認めてもらう。
そのためだけの行動なの、これは」
「ふ~ん……でも結局、それってあたしの警戒心が足らないことなのは間違いないでしょ。
っていうか、そこまで考えて、そんなに準備してたの? なんでそこまでした訳?」
友達が認められているのに自分が下に見られているのが我慢ならないから。
……そんな、やっと認めてもらえた天才に言うには、軽蔑されそうな言葉は飲み込んで、エスリンはまだ目が見えていない彼女に微笑みかけ、言った。
「単に私が、物事を一気に終わらせたいだけ」
レイスがドールに勝つために魔法薬学を使って来た、その経緯を描いた短編です。
来週の土曜日には本編を更新予定なので、その予告宣言も兼ねて……。
……まだ書き終えてないぐらい遅筆ですが、何とか間に合わせるよう頑張ります(`・ω・´)




