生徒からの問い詰め
だからドールの言葉に、生徒たちは皆シンと静まり返ってしまった。
「……は? なにそれ」
その空間を動かしたのは、そんなレイスの、非難するような言葉だった。
「じゃあなに? アンタはこれから、あんなあたし達を殺そうとした奴らが作った、あたし達を倒すための刃を──あたし達にとっては要らないものでしかないアレを、あたし達に使えと……そういうこと?」
「厳密には少し違う。
それすらも出来るようにする。
それが最終的な目標なだけだ」
「一緒でしょ?」
「違うだろ。
別に出来るようにするだけで、必ずそうしろという訳じゃない」
「は?」
「あれば便利だから教えるだけで、イヤなら機械に対して使う必要はない。
ただ、俺やリフィイルは、魔法使いにも機械が必要だという考えだから、そういう言い方をしただけだ」
「っていうか、そんなの学んで何になるって話よ。
魔力の移動とか出来たら十分じゃん。
それとも、余った時間にやることないから、そういう風に無理やり授業として受けさせようって腹?」
「そうしたことをちゃんと話すと長くなるから、それは後日だな。
とりあえず今日は、授業の続きだ。
ケーンド、前に来い」
「ちゃんと質問に答えろっての!」
「次にちゃんと答えると言っただろ。
詳細はその時だ。
自分が出来たからと言って自分のペースで話を進めようとするな。
それともお前は、機械を使う普通の人間だけじゃなくて、自分以下の魔法使いすらも不要だと切り捨てるつもりか?」
「くっ……!」
もしかしたら、昔のレイスならそのまま同意の反論をしていたかもしれない。
ただ今は、ウリシャやエスリンとの練習があったおかげか、自分より下だからといって、努力など色々なものが無駄とは言えなかったのだろう。
「納得したか?
なら授業を再開するから、この場を離れろ。
もし最初の約束通りこの授業を辞めるつもりなら、今すぐにでもリフィイルの所へ行ってくれ」
言われたレイスは今気づいたのか、慌てて私を探し出し、こちらへと駆け寄ってくる。
「ちょっと!」
そしてフェンス越しに、こちらへと詰め寄ってくる。
今回勝利のために色々と手伝ってくれたウリシャとエスリンが隣にいたのに、お礼も言わずこちらを優先とは。
まあそれだけ、彼女にとって魔力を持たない普通の人間の手を借りるような真似はしたくない、ということだろう。
「アンタ。あのクソみたいな教師の付き人みたいなことやってんでしょ? だったらさっきの言葉がどういう意味か分かってるよね?
説明、してもらえる?」
「…………」
さて……ここで説明していいものか。
もし今話したところで、結局は後日、ドールから同じ話を聞くことになる。
……が、ここで話をはぐらかすと、レイスはそのまま怒ってしまい、この授業を辞めると言い出しかねない。
もちろんそれはそれで構わないのだが……個人的には、話を聞いてもらってから判断してほしいという気持ちがある。
なんせ彼女は、あのドールに、ルールに則ったものとはいえ、勝っている。
そんな子に、魔力移動の次を教えられないのは……正直勿体ない。
そもそもここの教師陣、『強化』の属性は誰にでもある、という意図的に広められた勘違いを信じている人が多すぎる。
その誰かの授業を受けるぐらいなら……と思わないはずがない。
私が望む形にならなくても良いから、ただただちゃんとした魔法使いとして成長してほしい。
それに……ウリシャやエスリンまでも、事の成り行きを見守るように、レイスの後ろに追いついて、こちらの話に耳を傾けている。
メイジやほかの生徒たちも、アボニー・ケーンドとの授業をドールが再開したのをキッカケに、その二人から離れるのも兼ねて、こちらへと近づいている。
心なしか声が届く場所まで来ているように思う。
直接、レイスと一緒になって詰め寄ってこないのは、この一ヶ月ちょっとで、説明を始めると長くなりすぎる私の悪癖を、嫌というほど理解してしまった結果だろう。
……まあ、ドールの説明も結局は、私がして欲しいと頼んだことをそのまま話すだけだし……ここで話しておいてもいいかもしれない。
今ドールに相手してもらっているアボニーや、話の途中で呼ばれた子には、それこそ後日のドールの話をしっかりと聞いてもらうということで。
「……分かりました。
後日ドールから同じ話があると思いますが、それで良ければ話しましょう」
「話が分かるじゃん。
じゃあ早速、あたし達に機械を使わせるってのはどういうこと?」
どう言えば彼女の返答が否定から入らず、しっかりとこちらの話を聞いてもらえるのか……。
考えながらふと、レイスの背後──その向こう側で行われている光景が視界に入る。
つまり、授業のためアボニーへと木の剣を打ち付けようと寸止めしている光景が。
それを見て、言うべき言葉を思い出した。
こういう時はそう──
「そもそも、機械だなんて言い方に間違いがありました。
厳密には道具全般を言いたかったんです。
そしてその力があれば、あの私達が敵対している機械すらも御すことが出来る、という意図を以って、あんな言い方になりました」
「ふ~ん……で、それって何?」
「簡単なことですよ。今ドール自身がやっていることです」
「やってること?」
「つまり魔力移動を、自分の身体にだけじゃなくて、手に持つ道具にすらも出来るようにしてもらいたいんです。
本能的な魔力移動が出来るようになった生徒から随時、その方向性の授業をお願いしたい。
ただ、そういうことなだけです」
とりあえずここまでとなります。
次はまた1ヶ月か2ヶ月か先で……。
季節も夏へと移りますので、もしよければよろしくお願いします。




