戦いの決着
そして今日。
三人での練習を終え、勝つための手段を見つけたのであろうレイスが、その自信満々な雰囲気を纏って、ドールの前に立っている。
既にフィールドにはドールとレイスの二人だけ。
次に名前を呼ばれていた生徒も含めた全生徒が、フェンスで仕切られた敷地から出て、事の成り行きを見守っている。
私も遅れてその後に続くよう外へと出て、並んでレイスを見つめるウリシャとエスリンへと近づいた。
「何か勝算があるんですか?」
「えっ?」
私が声をかけてくるとは思っていなかったのか、二人共驚きの表情を浮かべる。
「三人が一緒に練習していたのは知ってますよ。他の授業ももう少し真面目になってくれれば良い──なんて優等生ぶった先生発言をするつもりはありませんので、安心して下さい。
それよりも、さっきの質問の答えが知りたいです」
「えっと……」
ウリシャがチラりとエスリンを見るが、彼女は戸惑いの表情を浮かべた後、一度目を伏せレイスたちへと視線を戻した。
元々口数の少ない子だし、自分から喋らない以上、話すとなったら全部話すことになるウリシャの判断に委ねたのだろう。
「…………」
一度、何かを考えるよう無言になった後、ようやく口を開いてくれる。
「……実は──」
バシュゥッ……!
その、魔法に魔力をぶつけ、魔法をかき消した音のせいで、ウリシャの言葉が中断された。
慌ててドールたちへと視線を向ける。
……そう、慌てて、だ。
全く見えなかった。
レイスの魔法が。
横目でとはいえ、見逃すとは思えない。
まさか遠くから第三者が攻撃して……と思ったが、目に集中させている魔力の質をさらに変化させると、うっすらとレイスから『蛇』の魔力が伸びているのが見えた。
「なるほど……『透明』の属性を巧く使うな。
さすが、自称天才は違う」
「何それ嫌味? こっちは事前に唱えといた不意打ちなんだけど。
まさか防がれるなんて……まさか過ぎるっての、アンタ」
『透明』の属性を、巧く……。
……まさか、初日の授業で見せた『透明』の種子属性を、変質させた、ということだろうか……?
魔力操作では見えていたソレを、見えないように改良した、と……。
……あの若さで、開花した属性じゃないのにそんなことが出来るとは……本当レイスは、天才を自称するだけはある。
「褒めてもらえて光栄だが、まさかその進歩だけで、ここに立った訳ではあるまい?」
「当然っ!」
大声を上げると同時、スカートのポケットから小さな小瓶を勢いよく取り出し──
「──エスリンが作り方を教えた、魔法瓶を持たせているんです」
──そのままの力で、地面に叩きつけた。
途端、そこを中心に、この授業場全てを真っ白に染め上げるような霧が、全体に広がった。
その広さは、外へと対比していた私達すらも巻き込むほど。
「きゃっ」「なんだ?」「何も見えねぇっ」
なんて声が遠くから聞こえる中、私はウリシャがこうなる前に言っていた言葉を、ようやく理解していた。
そしてどうして、彼女が言い辛そうにしたのかも。
大方、こんなズルのような事前準備がバレては、レイスが勝っても無効にされると思ったのだろう。
しかし生憎と、この方法を取ってレイスが勝っても、それを無効にする気はさらさらない。
なんせこうした魔法を使うための準備もまた、魔法使いとして当然の行為だと、私は考えるからだ。
これすらも読んで対策を取れるようにしていなければ、それはドールの警戒心が“負けた”というだけの話。
実戦なら死んでしまう状況を取って勝ったのに、その勝ちを無効にするだなんて、大人として情けないにも程がある。
「にしても……これは中々……」
思わず感嘆の声が口から洩れる。
この霧、ただの霧では無い。
もちろん、魔法を封じた瓶を割って発生させたのだから、“普通の”霧と違うのは当たり前だろう。
ただそういう意味ではなく、成分的な意味で普通の霧ではないのだ。
さっきまで、レイスの変質された『透明』の『蛇』を見るために、目に集めた魔力をこちらも変質させていた。
もし普通の霧を魔法で閉じ込め、瓶を割ることで発生させただけならば、視界はこんなにも白で塗りつぶされることはない。
霧とは違う白。
真っ白の画用紙を眼の前に広げられたような……絵の具を直接眼球に塗られたような……そんな染め上がった白で、何も見えなくなったのだ。
こうなっては戦いも何もない。
そう思わせてしまう隙を、レイスは作り出したのだ。
ただドールが相手では、それも本当に一瞬だろう。
今の私は耳に魔力を集め、状況を音で判断しようとしているが……戦いの最中に放り込まれている彼ならきっと、もっといい方法を、私よりも早く取っているに違いない。
だからきっと──私の子供のような指よりも細い、今までの『蛇』よりも小さいソレが、レイスのいた場所から無数に広がり、ドールがいた場所を覆うよう収束しつつ放たれようとも、どうにか対処しているに違いない。
広がった霧を喰らいながら、ドールが立っていた場所に『蛇』が集まり、彼の身体すらも喰われ──ようかという、その刹那。
魔法が掻き消える──水で火を消すような音が、幾度も鳴り響いた。
それと同時に消えていく、その無数の『蛇』と広がっていた霧。
目に魔力を集中させることで視界が塗り潰されるということは、魔法があるということ。
となれば、その広がる魔法以上の魔力をぶつければ消えるのは、今までのレイスとの戦いでも分かっていることだ。
だから……“霧の中一歩引いて、元いた場所に収束する『蛇』を、その一振りで霧ごと掻き消す”ことなんて、ドールにとっては容易いことだったのだろう。
だから──霧を晴らしたその場所で、ドールの胸に拳を突きつけようと振りかぶっていたレイスと、その喉元に木の剣の切っ先を“寸止め”されていた光景を見た時は、やっぱりドールが勝ったのだろうと、そう思った。
「……さすが、天才を自称するだけのことはあるな」
だから……──
「俺の負けだ、パラット」
──……ドール自身がそう言った時、私は心底驚いた。




