7話
レオンと別れてしばらくした後、私達はクライスが用意した荷台がある男らしい車に座席の都合上、運転手クライス、助手席に私、荷台にローレンス一家と乗って身体を揺らしながらキメラのアジトに向かっていた。
「いい車を持ってるのね」
イーナは私の膝の上で両手を窓に貼り付け窓の外をキラキラとした目で見ていた。私は車を運転しているクライスに話しかけた。
「へっへ。この前いい仕事があって一括で買っちまったっす」
鼻の下を擦りながら、自慢げに話す。
「これなら多少の悪路も走れますからね。街から街の移動も楽になるっすよ」
「くらーす、すごい」
「イーナちゃんありがとうっす」
イーナにも褒めれて嬉しそうなクライス。
そう言えばと、クライスは尋ねてきた。
「フェリクスの兄さんは本当にほっといていいんっすか?あの夜以降俺の情報網にも入ってこないっすけど」
「あれは私よ」
「へっ?」
私はそう言うと具現化をオリジナルからフェリクスの姿に変化させた。
「よう」
「ママすごーい」
きゃっきゃっと喜ぶイーナと
「なぁぁぁー!?」
蛇行運転するクライス。
荷台から悲鳴が聞こえた。
「危ないな。安全運転しろよ」
私がそう言うと、落ち着きを取り戻したクライスは
「いや、姉さんが変な壁張ったり、消えたり、突然現れたり、イーナちゃんが光の柱みたいなんを出したり、あり得ないことばっかりで慣れたつもりでしたけど」
これはと、クライスは早口でまくし立てる。
「まぁ、世の中は不思議で溢れてるよなぁ」
「ねー」
と、私の言葉に無邪気に答えるイーナ。
車に乗ってから随分と機嫌がいい。
「姉さんは姉さんなんっすよね?」
「あぁ、姿に喋り方を合わせてはいるが、俺は俺だ。なんならクライスの言う姉さんの話し方で話してやろうか?」
「それは気持ち悪いんでいいっす」
私は具現化をオリジナルに変えて、
「イーナ。人の事を傷つける事は言っちゃダメよ」
「はーい?」
どの口がとクライスは言いたそうにしていたが、
「何か?」
「なんでもねぇっす」
そう言って口を閉じた。
しばらくすると、マフィアのアジトが見えてきた。門番がいないのでそのまま中に入り、建物の前で車を止める。
「私が一緒だから大丈夫よ」
マフィアのアジトについてからビクビクしていたイーナに私は話しかけ、抱っこしながら外に出る。私の服をつかむ手には力が入っていた。
「今夜はここで野営して、明日の朝に隣町を目指すっす」
道中、建物の内では何かあった時逃げ遅れるので屋外で過ごすことをクライスと決めていた。
私と話し合っていた事をローレンス一家に伝え、野営の準備を開始する。
私は可視化の領域を発動し、アジト周辺に怪しい気配がない事を確認する。
「イーナちゃん!」
「まーく!」
どうやら走っている間に目を覚ましたマルクはイーナを抱いている私に駆け寄ってきた。
「怪我は大丈夫?イーナを守ってくれてありがとう」
マルクの頭を撫でながらそう言うと、
「僕、男の子だから大丈夫だよ!」
マルクは笑顔を見せた。
「イーナ。少しマルクくんと遊んでてくれる?」
「うん!」
見知った顔、それも歳も近いマルクを見て安心したのか元気よく返事をしたイーナを降ろし、私は焚き火をおこし野営の準備をしている3人に近づいた。
「マルクが元気になって良かったですね」
「ええ、傷はありますがそこまで酷くはないようです。本当に良かった」
車の周りで何かしているイーナとマルクを見てローレンスは安心したように言う。
「とりあえず今日はゆっくり休むっす。街の外は魔物の世界っすからね」
携帯食をローレンス夫妻と私にも渡しながら、焚き火の周りに座った。
「まぁ、兄さんと姉さんがいれば全く問題ないっすけどね」
確かに私とレオンがいれば問題ないだろう。外の魔物は傭兵ランクで比べると、Aランクなら1人で、Bランクなら3人から5人、Cランクなら10人以上で倒せるレベルだ。
これが傭兵でもない人が一人旅出来ない理由でもある。
「そうね」
相槌をうち、私も焚き火の周りに座る。ローレンス夫妻も続いて座った。
しばらくするとイーナがマルクの手を引いてやってきた。
「ママ。イーナも食べる」
私の膝の上に座りながらイーナが携帯食をちょーだいという風に手を出す。
マルクはローレンス夫妻の間に座り携帯食を受け取っていた。
私から携帯食を受け取ると鼻をぴくぴくさせて、一口食べる。
「おじちゃんのがいい」
イーナは携帯食がお気に召さなかったようだ。ローレンスの方を向き、そんな事を言う。
「ごめんね。今は材料がないから……。今度とびっきり美味しい料理を作るからね」
「約束?」
「あぁ、約束だよ」
ローレンスと約束してイーナは満足したのか携帯食を食べ始めた。
その時、私の可視化の領域に誰かが入ってきた。すごい速さだ。
「レオンが来たわ」
「待たせたな」
私が言い終わると同時にレオンがやって来た。レオンが現れた瞬間風が吹き、不運にも焚き火の火の粉が風に吹かれクライスにかかる。
「あつっ、あっつ!兄さん!!」
「なにしてんだよ。だらしねぇな」
あんたのせいだよと言いたそうにローレンス一家はレオンを見ていたが、レオンがマルクに近づくとマルクはビクッとした反応をした。
レオンは大きな手でマルクの頭を撫でると
「起きたようだな、大丈夫か?」
「う、うん」
そうかとマルクに言うと、私の隣にどしっと座りクライスに飯っと催促していた。
「どうだったの?」
「余裕だな。Sランクはいなかったし、あいつらまだまだ鍛錬がたりねぇ。あぁそうだ」
ローレンス、アンナとレオンは叫び懐から出した袋を2人に投げる。
「選別だ。拾ったものだから気にしなくていいぞ」
ずしっとした重さが2人の手にかかり受け取った2人は袋の中身を確認し、驚いていた。
「こんなにいただけません」
「そうです。私達は次の街に送ってもらうだけで充分ですので……」
「いらないなら捨てるが?」
受け取れと威圧し、クライスから受け取った携帯食を食べながら、
「けじめだ。俺も一応はキメラにいたからな。店も潰しちまった」
今回は何処から手に入れたかはあえて聞かないでおこう。それに店が潰れたのはレオンのせいではない。ほっておいても区画整理で潰される運命だろうし、むしろアンナとラルクを救ったのだ。キメラにいた事を気にしているならそれでトントンだ。それでも一文無しから知らない土地で暮らさせるのは忍びないといったところだろう。
思った以上に人のことを考える男だ。
「気にせず貰っていいと思うわ、迷惑料よ」
私がそう言うと2人は渋々袋を受け取った。




