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第9章 無精子の夫に隠し子が?

「だって、あなたと何百回セックスしたって、子供なんて生まれないのよ」と。 最後の通達で胸を突いたつもりだった。「何を言っているんだ?子供なら、隠し子が2人はいる」と嘲笑われた。 「どういう事?」と、怒りで声は震えていた。「いや、認知はしてないよ。自分で育てるからと言うので産むのを許しただけだ。5歳の男の子と2歳の女の子がいる。俺に似て、可愛いので認知しようかと悩んでいたのでちょうどいい。」 知らなかった。いや、知ろうとしなかった夫の、もう一つの、いやもう二つの生活。「医者の誤診だろうか?」と目の前が真っ黒になった。「もう、おしまいだ」と思ったら、健二は開き直っていた。「弁護士を立てて戦うか?浮気は男の甲斐性。ガタガタ言わずに、家を守っていればいいんだ。別れるなんて、みっともない。仕事なんて辞めて家に引っ込んでいろ」と。 5歳と言えば、鏡子が32歳の頃の話だ。初めての浮気で、子供が出来ていたのか?愛人をしていた女なのだから、健二との関係が知られて棄てられた後に、出来たのかも知れない。2年前には、誰と付き合っていただろう?健二の子供だと信じているならそれもいい。もし、裏切られているなら自業自得だ。暴君のような健二の言葉よりも、隠し子の存在の方がショックだった。自分の子供と信じて過ごしていた幸せな時間を、自分が知らなかっただけで(彼らが)過ごしていたということを。孤独に苛まれ、宗教や男に不本意ながら陥っていた時にこの男は、他の女に愛され、もてなされ、家族の幸せな時を過ごしていたなんて。精子がないと、安心している場合ではなかった。たとえ、自分の子ではないと判明したからと言って、可愛がっていた歴史を消すわけにはいかないだろう。事なかれ主義で、何もして来なかった自分が悪かったのだと、初めて気がついた。でも、後の祭りだ。鏡子は38歳に。再婚だって出来るかどうかは、わからない。プイっと出て行ってしまった健二とは、また連絡が取れなくなっていた。離婚とか言い出したので、逃げているのだ。いつも、嫌なことや面倒なことがあったら、連絡が取れなくなった。健二の父親が癌に侵されて、姑が相談して来た時も、電話にすら出なかった。それから数ヶ月家にも帰って来ないで、連絡を入れても留守電で、メールにも返事が来ない。こうやって、何でもほとぼりが冷めるのを待って、誰かがやってくれるのを期待しているのだ。きっと、自分のことも、のらりくらりと生殺し。弁護士を立てても、慰謝料を請求しても相手にしないに決まっている。でも、離婚してどうなるのだろう?今さら子供を産んで、育てることが出来るのだろうか?もちろん晩婚者もいるので、子供が産めない年ではなかったが、リスクは多い。冷静になって考える。まず、隠し子の存在を明確にしなければ、ずっと健二は子供の養育費を払わせられるだろう。自分が知らないうちに、認知され、離婚をいいことに、この家に入って来るかも知れない。ローンは2人で払っているのだから、当然離婚したら鏡子のものになるだろう。しかし、その後のローンを払って行ける自信がない。今離婚するのは、賢い選択ではないと考えた鏡子は健二にメールした。「本当に、あなたの子供なら責任を取らなければならないでしょう。でも、5年前、医者からあなたの精子に問題があると知らされて、あなたが傷付くのが怖くて、黙っていた私が悪かったと後悔しています。子供はいなくても、貴方との生活を私なりに大切にしてきたつもり。でも、もし医者の誤診なら、隠し子と所帯を持つのも良いのでは?それなら私は離婚してもかまいません。ゆっくり、これからのこと話し合いましょう」と。それでも返事はなかった。会社で姿は見るものの、鏡子の姿を見ると、逃げるようにいなくなった。心は揺れていた。このまま何事もなかったように、また愛人と別れて戻って来たら受け入れるべきだろうか?しかし、浮気男の旦那と子供もいないまま老後まで耐えられるかどうか自信が無かった。離婚は浮気相手が変わる度に考えた。浮気相手と別れて家に戻って来るたびに、その悪びれない顔と甘えてくる様子にだまされて許してしまう。そこから数か月、また新婚生活のような新鮮な日々が始まるのだ。鏡子も、モテている健二が好きだったし、女遊びをする度にセックスがうまくなった。鏡子も浮気相手に負けたくないと、容姿にも磨きをかけていたし、家事も頑張っていた。光源氏のように、次々に女を作るが紫の上だけを愛していたように、いつも遊び飽きたら自分の所に帰って来るのだと信じていた。いや信じ込ませていたのだ。しかし、最近の健二は少し頭も禿上がってきたし、お腹も出てきてその辺のオジサン化してきたような気がする。付き合う女も商売女が多くなってきて下品だ。愛人たちは「こんなに綺麗な奥さんがいるのに」と思い自尊心をそそられるのかも知れない。やたら鏡子にからんでくる。自分の存在をアピールしてくる。自分の心がわからなくなる。旦那のいない生活が長すぎて、たまに帰って来られると最近はめんどくさいと思うことがある。一人なら食べて帰ってもOKだし、お弁当や簡単なもので済ますことが出来る。部屋も汚す人はいないし、洗濯も少ない。自由な時間にお風呂に入り、好きな番組を見ることが出来る。 なのに、旦那が家にいると良い妻にならなければならない。こちらも仕事で疲れているのに、食事を作ったり片づけたり。余計な家事に時間を取られてストレスが溜まる。一応ローンは半分出しているので締め出すわけにもいかず、物わかりのいい女を演じているがそろそろ疲れてきた。40歳近くなると一緒に寝るのも億劫になる。 「そんな気になれない。」あの色情魔の浮気女から変な病気をうつされていたら大変だ。一度、そういうことがあった。何股もかけてる女に入れ込んで、ヤクザみたいな男に脅され、別れた後に梅毒になり、鏡子もうつされた。それから健二と関係を持つのが怖くなった。どうせ子供を作る種を持っていないのだから、性交しても何の実りも無い。ずっと愛されていないので、性欲も無い。今さら抱かれたいとも思わない。心が冷めてしまっているのに、離婚がエネルギーを取られそうで、後延ばしにしていたら、こんな年になってしまった。



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