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第11章 デジタル化が進み変化する仕事環境

仕事は楽しい。デザイナーになるのは昔からの夢だったから。でも、最近はコンピューターを使えなければデザインが出来ない。昔の手作業だった頃が懐かしい。色や空白が物語る、目に留まる繊細なデザイナーのこだわり。駅の大きな看板に自分のデザインが採用された時の悦びは今でも忘れられない。アートディレクターになって、大きな仕事も任されるようになった。もうすぐエグゼクティブプロデューサーとしての地位も手に入りそうだ。旦那はプランナー兼営業だが、最近は斬新な企画がないようで、社内でもメインスポンサーから外され、風采がない。仕事で同じプロジェクトを任されていた時は面白かった。仕事となると、クリエイターの鏡子と健二は対等に論争して互いの意見を闘わせる。他のメンバーが仲裁に入る位、激しかった。それが、仕事にプライベートを持ち込まないと言う鏡子のプライドだった。良いものを作るこだわりがクリエイターの誇り。スポンサーに媚びへつらう営業なら組むことはできない。何のための広告なのか?スポンサーもメッセージが届き、売れなければ意味がないのでは?なのに、やたら経験を積んだ担当は口を出したがる。コピーライターにでもなったつもりで文章を書いてみたり、デザインセンスもないのに「色や大きさを変えろ」と指示してきたりする。スポンサーの機嫌を取りたい営業は、そのままクリエイターに指示する。鏡子のようにキャリアのあるデザイナーなら、その指示などは聞かない。でも、若い経験も自信もないデザイナーが担当したら言いなりになってひどい制作物が出来たりする。 「目立たせたいから赤色に字を変えて」と言うがまま変えて持っていくと「何だかおかしいから、隣の文字を青色にしたら?」なんて言われ、また変更すると、だんだん収拾がつかなくなってチンケなものになってしまう。たかが小さなPOPだとか字幕スーパーだとあなどってかかると田舎の落ちぶれたスーパーマーケットのチラシみたいな出来上がりになってイメージダウン。だから、プロのデザイナーやコピーライターに任せて、下手な口出しはするべきではない。それをプレゼンテーションするのが営業の仕事なのに、夜の接待やおべんちゃらばかりが上手くなって広告の意味を忘れてしまったら、高いギャラでプロに頼む意味などないではないか?下手に口出ししたのが担当者レベルなら、その上司や経営者に、そのことを理解してもらうこともできるが、それを経営者自身がしたがる場合はクリエイターの出番などない。お金を出す人が納得できれば、どれだけ泥臭いCMだってオンエアーされる。 しかも、その方がインパクトがあって印象に残ることもあるので一概にクリエイターを優先するのも正しいとは限らないが、思惑どおりのイメージ戦略が成功して話題になり売り上げ向上できた時はデザイナー冥利に尽きる。そうやって日々いつも新たなアイデアや人をビックリさせる仕掛けや、面白いアーティストやイラストレーターを捜している。総合ディレクターともなると、音楽や流行っている言葉や物にも関心を寄せながら、自分の美意識は大切にしている。だから、休みの日にも町を歩き、斬新な広告を見て歩く。本物の感性を磨く超一流のものと接するために美術館やコンサート、面白そうなイベントにはアンテナを張りめぐらせ企画会議の時の糧にする。暇さえあれば、会社にある雑誌には全て目を通し、感性に届くものは写真を撮りコンピューターにファイリング。 クリエイター仲間との情報交換や飲み会にも参加して、自分の才能を買ってくれる次のステージをいつも意識している。今の会社は気に入っているが、もっと面白い、グローバルに羽ばたけるところがあれば替わってもいいと思っている。その時が旦那との別れの時だとも。こうやって仕事が出来るのも旦那が種無しのおかげだと感謝することも時にはある。旦那がいるおかげで、女としての変なアプローチは無くなるので仕事はしやすい。女として見られると、酒の席でもセクハラされるし、独身だったらホテルに連れ込まれているだろうと思われるシーンも何度かあった。「ウチの旦那は嫉妬深いし、怖いので浮気なんてバレたら殺されちゃう」なんて言ったら、たいていの男は引き下がる。しかも、旦那が誰かわかると、余計に手出しするのは諦めてくれるから助かる。一応イケメン、美男子、仕事の出来る手強い相手だと思われているようだ。まさか仮面夫婦で愛人ばかり作るスケコマシだなんて誰も知らない。仕事が好きで子供を作らないのだと周囲には信じられていたし、会社で久しぶりに会っても愛妻を演じることもできた。



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