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従順な娘〜静かに動く

実家に戻ることを決めた。

きっかけは失業保険が出ること、それに何をしたいのかまだはっきりと言えないから。

実家であれば家賃がかからない。

次に何をするか、ゆっくり考える時間が作れる。

戻って良いか母に確認すると、「当たり前じゃないの」とだけ言った。それ以上何もなかった。


単身用の安い引越しで荷物を運んで、実家に戻った。

当時家を出た時のままだった。本棚の本も、カーテンの色も、変わっていなかった。


夕食の時、母が言った。

「ねえ友梨、実はね、またいい人を紹介してもらえそうな話があって」

箸が止まった。

「もういいわよ。一回だけって言ったじゃない」

「坂口さんとは進展あったの? その人一度離婚してるみたいだけど、他の条件がすごく良いのよ」

父は黙って食べていた。

条件。

その言葉が来た瞬間、何かが動いた。

「お母さん、坂口さんとは前向きに考えています」

言ってしまった。

母が顔を上げた。

「えっ、そうだったの」

「最近」

「そう……ちゃんとした人なの?」

「ちゃんとしてます」

それに気づいたのだろう。母はそれ以上追及しなかった。

父は耳だけこちらに向けている感じだった。

部屋に戻ってから、少し後悔した。

坂口さんとはまだ何も確認していない。

ただ、あの「条件がいい」という言葉が来た瞬間に、口から出ていた。

母への反発か、坂口さんへの気持ちか、自分でもまだ分からなかった。


翌日、宮本さんから久しぶりにメッセージが来た。

「元気? 転職活動どうしてる?」

気にかけてくれているのはありがたいと感じた。

「ゆっくり考えているところです」と返した。

「焦らなくていいけど、ブランクが長くなると不利になるから、早めに動いた方がいいと思う。

友梨さんのスキルなら引く手あまただと思うし」

画面を見た。たぶん正しいことを言っている。

ただ、胸の中に何も来なかった。

「はい、ありがとうございます」と返した。

しばらくして「応援してるよ」と来た。

「頑張ります」と返した。

宮本さんは悪くない。正解らしいものを教えてくれる。

ただ、それが必要かどうかは、私が決めればいい。


数日後、坂口さんに連絡した。

「近況報告なんですが、実家に戻りました。しばらくゆっくりするつもりです。

よかったら今度また会えますか」

しばらくして返信が来た。

「そうですか。ゆっくりできてますか」

「少しずつですが、できていると思います」

「それは良かったです」

少し間があった。

「少し遠いですが、景色のいいところに行きませんか。場所は考えておくので」

「はい、楽しみです」

送信してから、少しだけ笑った。

坂口さんに母とのやりとりは言わなかった。

まだはっきり言えるほどの関係じゃない。

ただ、会えると思った時、笑った。

どこか景色のいいところ。坂口さんが選ぶ場所を、少し楽しみにしていた。


分からないことが、以前ほど怖くなかった。

静かに動いている気がした。

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