従順な娘〜その評価は誰のため
坂口さんと二回目に会ったのは、退職から三週間後だった。
今度は駅近くの喫茶店だった。坂口さんは今度も少しだけ正装に近い格好で来た。私はまた普段着だった。
前回より気にならなかった。
「転職活動、進んでますか」と聞かれた。
「いくつか受けて、一社二次面接まで進んでいます」
「そうですか」
そう言って、坂口さんは続きを待っていた。
どうでした、とは聞かなかった。
「あまり乗り気じゃないのかもしれないです、自分でも」
言ってから、驚いた。
こんなことを誰かに言ったのは初めてだった。
「そうなんですか」
「今までのスキルを活かせる仕事でと考えていたんですけど。それが正しいのかどうか、最近分からなくなってきて」
坂口さんは少し考えてから言った。
「太田さんは、何が好きですか。仕事で」
「……前の会社で、システムの保守をしていました。みんなの仕事が止まらないようにする、みたいな」
「それは好きでやってたんですか」
私はしばらく考えた。
「評価はされていました。それが嬉しくて。でも好きかと言われると分からないです」
「評価されると嬉しいですよね。僕はそれで限界を超えて頑張ってしまいました」
坂口さんはそれだけ言った。解決策は来なかった。
帰り道、坂口さんのことを考えた。
仕事しかしていなかったので、今度は好きなことを徹底的にやろうと、と言っていた。
鉄道での小旅行の話をする時は声が大きくなった。
評価されているかどうかは、関係なかった。
私はどうだろう。
評価されていたから続けていたのか。続けていたから、好きだと思っていたのか。
体を壊すまでやっていたのに、どちらか分からない。それが少し、怖かった。
転職サイトを開くと、求人が並んでいた。
「スキルを活かせる」という言葉が、あちこちに書いてあった。
今日、坂口さんに「何が好きですか」と聞かれた時、答えが出なかった。
都合よく使われていただけ、という言葉が浮かんだ。
でも、評価されたくて自分からそこにいたのも事実だった。
だから余計に、分からなかった。
今日はもうやめておこう。
画面を閉じた。
数日後、坂口さんからメッセージが来た。
「先日はありがとうございました。太田さんに聞いてもらえて、話しやすかったです」
私は少し考えてから「私もです」と返した。
それから少し迷って、もう一文打った。
「坂口さんに聞いてもらって、色々考えました」
「何かありましたか」
「まだうまく言えないんですけど」
また話しましょう、と来た。
また話したい私がいた。




