白い空
夕暮れだったはずの空が、ゆっくりと色を失っていく。
赤。
橙。
紫。
すべてが薄れていき、代わりに白い霧のような光が空を覆い始めていた。
「冗談だろ……」
暁が空を見上げる。
長年現場にいた彼ですら、こんな現象は見たことがなかった。
リアは空間情報を高速解析している。
だが結果は芳しくない。
「現実空間の位相変動を確認。」
「白羽市全域に拡大中。」
「全域?」
剣也が顔をしかめる。
「はい。」
リアは珍しく迷いなく答えた。
「既に局所霊災の規模を超えています。」
その時だった。
施設最深部から再び衝撃が走る。
ズン――――。
地面が揺れる。
建物が軋む。
No.7が静かに振り返った。
『目覚める。』
『ようやく。』
ルナが耳を押さえる。
リングが勝手に発光を始めていた。
「やだ……。」
「ルナ!」
剣也が駆け寄る。
しかしリングは止まらない。
淡い水色だった光が徐々に白へ近づいていく。
No.7がその様子を見つめる。
『零番目は正しかった。』
『だから君を残した。』
ルナの瞳が揺れる。
「……知らない。」
『覚えていないだけだ。』
「違う!」
初めてだった。
ルナが感情を露わにしたのは。
「私はルナだ!」
リングが激しく発光する。
白い衝撃波。
研究員たちが吹き飛ばされる。
施設全体が震える。
その瞬間。
剣也の脳裏に映像が流れ込んだ。
知らない景色。
白い研究所。
無数のガラスカプセル。
幼い少女。
泣いている。
そして。
その隣に立つ巨大な白い機体。
ABEL。
『保護対象を確認。』
『保護を継続。』
ノイズ。
途切れる映像。
剣也は思わず頭を押さえた。
「ぐっ……!」
リアが支える。
「剣也!」
だが次の瞬間。
施設最深部の扉が完全に崩壊した。
轟音。
地下から噴き上がる白い光。
そして。
巨大な"何か"が姿を現す。
人型ですらない。
生物とも機械とも言えない。
白い骨格のような構造。
無数の目。
無数の腕。
全身を覆う霧。
存在しているだけで周囲の空間が歪む。
リアの演算が再び停止する。
「未確認存在を認定。」
「データベース照合不能。」
「仮称――」
言葉が途切れる。
その存在はゆっくりと空を見上げた。
すると。
白羽市上空の白い空が、
まるで応えるように脈動した。
No.7は静かに目を閉じる。
『やはり来たか。』
その声には恐怖があった。
第一次零番計画の生き残り。
深層を知る男。
その彼が初めて恐れている。
剣也は霊装を握り締める。
「……アイツは何だ。」
No.7は数秒沈黙した。
そして低く答えた。
『あれは失敗作ではない。』
『成功した結果だ。』
白い怪物が、
ゆっくりとこちらへ顔を向けた。




