不穏
屋上。
夕暮れの風が吹く。
黒瀬湊はフェンスへ寄りかかったまま、
古い写真を剣也へ投げた。
白い研究施設。
無機質な地下区画。
そして。
中央に立つ巨大な白い機体。
ABEL。
写真の端には、
掠れた文字が印字されていた。
【 第一次零番計画 】
剣也が眉をひそめる。
「……零番。」
湊が低く言う。
「深層実験の最初期だ。」
「まだセレスティアも今みたいな組織じゃなかった頃。」
風が吹く。
「霊災発生直後。」
「人類は何も分かってなかった。」
「だから、向こう側へ直接触ろうとした。」
剣也が嫌そうな顔をする。
「絶対ロクな結果になってねぇだろ。」
「なってねぇよ。」
湊は即答した。
「研究員も。」
「被験体も。」
「ほとんど壊れた。」
夕日が少し沈む。
湊は空を見る。
「ABELはその残骸だ。」
「唯一、“形を保った成功体”。」
剣也が写真を見る。
そこには、
今より小さいABEL。
周囲には大量のケーブル。
拘束具。
兵器というより、
“実験動物”だった。
剣也が低く呟く。
「……気分悪ぃな。」
湊は少し笑う。
「お前、向いてねぇよ。」
「この世界。」
「今さらだろ。」
その時。
ゴホッ――
湊がまた血を吐く。
制服へ赤が滲む。
剣也が顔をしかめる。
「お前ほんと死にそうだな。」
湊は雑に血を拭う。
「実際、長くねぇよ。」
沈黙。
冗談じゃない。
剣也は分かった。
湊は、
本当に自分が死ぬ前提で動いている。
その時。
剣也のスマホが震えた。
着信。
リア。
剣也が出る。
「どうした。」
リアの声は珍しく少し早かった。
『剣也。』
『ルナが消えました。』
空気が止まる。
『リング反応が市内東部へ移動中です。』
『深層ノイズも同時観測。』
湊がその言葉を聞いた瞬間、
表情が変わる。
「……東部?」
「マズいな。」
剣也が睨む。
「何がある。」
湊は夕暮れの街を見る。
遠く。
東部工業エリア。
そこには、
既に閉鎖されたはずの施設がある。
「第一次零番計画。」
「最初の実験場跡地だ。」




