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未帰還ユニット

リアが装置に触れた瞬間、空間が軋んだ。


低い振動音が足元から伝わる。


街灯の光が揺らぎ、輪郭がわずかに崩れる。


「……崩壊が始まる。」


リアが短く告げる。


「どれくらい持つ?」


「三十秒前後。」


「十分だな。」


剣也は視線を周囲へ走らせた。


気配が変わっている。


これまで距離を保っていた“それ”が、明確に近づいてきていた。


だが――


違う。


一つだけ、別の気配が混じっている。


「……もう一体いるな。」


リアもすぐに反応した。


「確認。複数反応。ただし――」


言葉がわずかに途切れる。


「一つ、性質が異なる。」


「敵じゃないのか?」


「断定不可。」


その瞬間、装置の表面が強く発光した。


リアがそれを引き抜く。


同時に――


世界が“歪んだ”。


視界が大きく揺れる。


遠近感が崩れ、空間が折れ曲がる。


「来るぞ!」


剣也が前に出る。


影が、一斉に動いた。


複数の“それ”が、形を保ったままこちらへ収束してくる。


昼間に見た不安定な存在とは違う。


輪郭がある。


重さがある。


「定着してる……!」


リアが光刃を展開する。


剣也も同時に踏み込んだ。


「まとめて来い!」


最初の一体が距離を詰める。


腕のようなものが振り下ろされる。


剣也はそれを弾き、懐に入り込む。


手応えがある。


だが、硬い。


「くそ、やっぱ普通より重いな……!」


「定着個体。出力を上げる。」


リアが横から斬り込む。


光が走る。


一体が崩れる。


だが、すぐに次が来る。


数が多い。


時間もない。


「あとどれくらいだ!」


「十秒。」


「十分だな……!」


剣也が一体を蹴り飛ばす。


その瞬間だった。


――“それ”は、唐突に現れた。


音もなく。


気配も薄く。


剣也とリアの“間”に。


「……っ!?」


反応が一瞬遅れる。


人影。


細い輪郭。


そして――


銀とは違う、淡い色の髪。


ドール。


直感だった。


だが、リアとは明らかに違う。


その個体は、何も言わない。


ただ、ゆっくりと手を上げた。


次の瞬間。


“影”が、止まった。


動きを拘束されたように、空間ごと固まる。


剣也は息を呑む。


「……なんだ、今の。」


リアも分析が追いついていない。


「干渉……? でも、これは――」


言葉がまとまらない。


そのドールは、こちらを見ていない。


視線はどこか遠く。


焦点が合っていない。


まるで、“別の何か”を見ているようだった。


やがて――


その口が、わずかに動く。


「……観測、停止。」


小さな声。


ノイズ混じり。


だが確かに聞こえた。


次の瞬間。


空間が、完全に崩れた。


――現実へ引き戻される。


視界が白く弾ける。


音が戻る。


風が吹く。


気づけば、元の住宅街だった。


街灯の光。


遠くの車の音。


人の気配。


何事もなかったかのような日常。


剣也は息を整えながら、周囲を見渡す。


「……戻った、か。」


リアはすぐに装置を確認する。


「回収完了。機能停止を確認。」


「さっきの……見たか。」


剣也が低く言う。


リアはわずかに頷く。


「未登録のドール個体。セレスティアの識別信号なし。」


「つまり――」


「外部勢力の可能性が高い。」


剣也はしばらく黙り込んだ。


頭の中で、さっきの光景を反芻する。


あの動き。


あの干渉。


そして――あの状態。


「……あいつ。」


リアが視線を向ける。


「どうしたの?」


剣也は小さく息を吐いた。


「壊れてる、って感じじゃなかったな。」


リアは一瞬だけ沈黙する。


そして、静かに答えた。


「……同意。」


完全な戦闘個体でもない。


暴走でもない。


ただ、“制御が途切れている”ような状態。


剣也は空を見上げた。


夜は変わらず静かだ。


「主人、いねえんじゃねえか。」


ぽつりと呟く。


リアは何も言わない。


だが、その沈黙が肯定に近いことは分かった。


剣也は苦笑する。


「面倒なことになりそうだな。」


回収した装置。


謎の音声。


そして、未帰還のドール。


すべてが、どこかで繋がっている。


まだ見えないだけで。


「……帰るか。」


「うん。」


二人は静かに歩き出す。


だがその背後で、


誰にも気づかれずに――


“それ”は、まだこの街に残っていた。

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