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観測装置

静止した街の中を、二人はゆっくりと進んでいた。


足音だけが、やけに鮮明に響く。


風はない。空気も動かない。

まるで時間そのものが止められたような空間だった。


「……妙だな。」


剣也が小さく呟く。


「何が?」


「さっきのやつ、出てこない。」


確かに、“敵”の気配はある。

だが、襲ってくる様子はない。


一定の距離を保ったまま、こちらを観測しているような感覚。


リアも同じことを感じ取っていた。


「行動パターンが不自然。通常の霊災とは一致しない。」


「狩りじゃなくて、“観察”って感じか。」


「可能性はある。」


剣也は足を止め、周囲を見渡した。


街の構造は現実と同じ。だが細部に違和感がある。


看板の文字が滲んでいる。

信号機の点灯がわずかに遅れている。

建物の輪郭が、微妙にずれている。


「……コピーみたいだな。」


「完全な再現ではない。情報の欠損がある。」


リアが分析する。


「この空間自体が、生成されたものの可能性。」


剣也はゆっくりと息を吐いた。


「つまり――誰かが作ってる。」


リアは否定しなかった。


そのまま、視線を一点に固定する。


「……あそこ。」


剣也もそちらを見る。


住宅街の奥。

電柱の影の中に、不自然な“歪み”があった。


他の場所と違い、明確に輪郭が崩れている。


「行くぞ。」


二人は慎重に距離を詰める。


近づくにつれて、違和感は強くなる。


空気が重い。


視界に微細なノイズが走る。


耳鳴りのような低い音が、断続的に響く。


「……これ、中心点だな。」


剣也が呟いた。


リアは無言で頷き、手を伸ばす。


――触れる直前。


「待て。」


剣也がその手を止めた。


「不用意に触るな。罠かもしれねえ。」


リアは一瞬だけ動きを止める。


「……了解。」


代わりに、手のひらに小さな光を集める。


霊装エネルギーを抑えた、低出力スキャン。


歪みに向けて、ゆっくりと流し込む。


その瞬間――


空間が、反応した。


ノイズが一気に増幅する。


視界がぶれる。


そして、“それ”は姿を現した。


黒い箱状の物体。


人の手で扱えるサイズ。


だが、その表面は現実の物質とは思えない質感をしている。


まるで、存在が安定していない。


「……なんだこれ。」


剣也は眉をひそめた。


リアは即座に解析に入る。


「人工物……の可能性が高い。自然発生ではない。」


「やっぱりか。」


剣也はゆっくりと近づく。


箱は、かすかに振動していた。


規則的なリズム。


まるで何かを“測定”しているかのような。


「観測装置……?」


リアが呟く。


その言葉に、剣也の目が細くなる。


「誰かが、ここで“測ってる”ってことか。」


その時だった。


装置の表面に、微かな光が走る。


次の瞬間――


空中に、断片的な映像が投影された。


ノイズ混じりの記録。


視点は固定されていない。

まるで、装置自身が見ていた光景。


そこに映っていたのは――


“影”。


だが、これまでのものとは違う。


輪郭がはっきりしている。

構造が安定している。


そして――


“制御されている”。


『……定着率、安定。フェーズ移行可能。』


音声が流れる。


若い女性の声だった。


無機質だが、どこか淡々としている。


『白羽市、第三観測点。データ収集を継続。』


剣也の表情が変わる。


「……おい。」


リアも、その内容を理解していた。


「これは――」


映像はそこで途切れる。


ノイズとともに、投影が消える。


再び、静止した街の風景だけが残る。


「完全に“人為的”だな。」


剣也が低く言った。


リアはゆっくりと頷く。


「はい。霊災ではなく、“実験”。」


その言葉は、これまでの前提を覆すものだった。


剣也は装置を見下ろす。


「持ち帰れるか?」


「可能。ただし――」


リアがわずかに間を置く。


「これを回収すると、この領域は崩壊する可能性がある。」


剣也は一瞬だけ考えた。


そして、すぐに答える。


「十分だ。」


迷いはなかった。


「こんなもん放置する方がヤバい。」


リアは小さく頷く。


「了解。回収する。」


その瞬間――


遠くで、“何か”が動いた。


これまで距離を保っていた気配が、明確にこちらへ向く。


「……来るな。」


剣也は構えた。


「最後に一波あるってことか。」


リアは装置に手をかける。


「回収と同時に、戦闘準備。」


空気が一気に張り詰める。


静止していた世界が、わずかに軋む。


そして――


“観測されていた側”が、動き出す。

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